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姫金魚草

三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト

   
カテゴリー「恋戦記・蜀」の記事一覧

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やさしいよるに (孔明)

少し、眠っていた。
浅い眠りから覚め、ゆっくりと瞼をあげると、孔明と眼が合った。優しく下ろされた眼差しになぜだか恥ずかしくなって、布団に潜るようにして顔を隠す。孔明はそれを止めるでもなくただ花の頭を撫でて、その余裕が又少し憎らしかった。
玄徳は孔明と花を祝福し、二人にと館を与えた。客間こそあるものの、主の寝室が一つしかない館。以来二人はこうして、半ば強制的に臥し所を共にすることになっている。おそらくは芙蓉姫辺りが焦れて玄徳に提案した結果なのだろう、と思うけれど、だからと言ってすぐに慣れるというものでもなかった。
「寝ないんですか、」
師匠、と言いかけて、この館ではそう呼ばぬように言い含められたことを思い出した。まぁつまりボクらはもう夫婦なのだからね、と言ったときの孔明の顔は、必要以上に鹿爪らしく、花は表こそ神妙にうなずきながらも、笑い出しそうになっていた。夫婦という言葉が気恥ずかしくて、笑わなければやっていられないような気がしたのもある。
「ん、……寝るよ」
言いながらも、花を撫でる孔明の手は止まらない。こちらが眠ってしまえば彼も眠ってくれるだろうか。思いながらも一度冴えた目では容易には眠りに落ちれず、花は困って孔明の手を取った。
「……? 嫌だった?」
「いえ、でも、いつまでもこうしていたらししょ、……孔明さんが、眠れないでしょう」
「君が寝たら、眠るよ」
「一緒に寝ましょう」
言いながら、戯れのように孔明の手の甲に唇を落とした。騎士が忠誠を誓う時に口づける場所だ、となんとなく思う。忠義や忠誠は花には理解できないけれど、その人のためならなんでもできる、と思う気持ちは、なんとなく、理解できた。
孔明は苦笑を深めながら、花が口づけた手をそのまま自分のほうに引いて、同じように手の甲に口づけを施した。思わず目を瞬く。
ただ真似ただけの、意味のない行為だとわかっていた。わかっていたけれど、丁度考えていた時だけに、そしてわずかに瞳を伏せた孔明の表情のために、胸が高鳴った。
忠誠、だなんて。
孔明も花も玄徳の臣下であり、誓うべき対象はまさしく彼であるのだろう。思いながらも、この口付けに、忠誠めいた――大切にしたい、守りたい、そんな思いが込められていればいいともまた、思ってしまう。
「……花?」
孔明はもちろん、そんなことは知らないのだ。眠る気配もないのに黙り込んだ花に訝しげな声を上げるのを聞いて、あわててなんでもないと首を振る。
なんでもない、けれど。
こちらが思いを込めるのは勝手だろう。先ほどよりも幾分かうやうやしく孔明の手を取り、目を伏せ、そっと唇を落とす。なにもないただの夜なのに、ずいぶんと神聖な気分になっていた。
「……、……なんだか、誓われているみたいだ」
「……え?」
「その口付けには、なにか意味があるのかな」
孔明はどこにでも発揮される明晰な頭脳をもって、そっと花の手の甲を指でなぞりながら言った。花はわずかにうろたえて、せわしなく目を瞬く。
忠誠だと言ったら、なんだか怒られそうな気がした。大切に思う、というのもまた、口に出すのが恥ずかしい。思った時に、昔聞いた、キスの話を思い出した。
「え、と、確か。手の甲へのキスは、尊敬」
「きす?」
「……口付けのことです」
「そういう謂れがあるの?」
「はい」
他はほとんど覚えていないが、手のあたり――手の甲の尊敬と、掌の懇願は、手に口づけるなんてなんだかロマンチックだなぁと思ったから、覚えていた。
「つまり、君はボクを尊敬してるんだ?」
「それは、もちろん」
尊敬という言葉は恋愛めいたそれよりよほど肯定がしやすい。あっさりうなずくと、孔明はうれしそうに笑みを深めた。それから、尋ねる。
「ほかには? ほかの場所にも謂れがあるの」
「はい、……でも、ほとんど覚えてないんですけど」
「いいよ、教えて」
「えーっと、掌が、……懇願、です」
孔明の掌を指でなぞり、そっと唇を落としながら言う。孔明はへぇ、と興味深げに呟いた後に、何を願うの、と問う。
「ボクに何かお願いがある?」
「……、」
お願い。懇願という言葉に比べて随分とかわいらしい響きだ、と、少し笑った。孔明と花の間では、それくらいのほうが丁度いいのかもしれないけれど。
「そうですね、……じゃあ」
花は孔明の掌に唇を寄せて、唇の動きが伝わるような距離で、囁いた。
「ずっと、一緒にいてください」
たしかに、懇願するような気分だった。花のことを誰よりも大切にしてくれる、花が誰よりも大切にしたい、唯一の存在。花にとっては、世界と引き換えにできるほどの。
ほんの軽い、夜には相応しいかな、という程度の睦言の、つもりだった。けれど孔明が黙り込むから、少し不安になってしまう。重たいことを言っただろうか。冷静に、ずっと一緒になど居られないと言うだろうか。唇を離し、孔明の顔を見ようとしたところで。
先ほど口づけていた手で、目をふさがれた。
「?」
「や、……見ないで」
「え、と。なにをですか」
「顔」
見られたくない顔とはどんな顔だろう、思っても孔明の手に込められた力は強かった。どうしようかと思っていると、やや乱暴に唇をふさがれる。
「っ、ん」
「あんまり可愛いことを言うものじゃないよ。とくに、こんな時間に、こんな場所では」
「え、……、っ、んぅ」
真意を問う間もなくもう一度、今度はずいぶんと深い口付けを施されて思考が散らばる。こんな時間に、こんな場所で。言葉を反芻して、かっと頬が赤らんだ。
慌ててもすでに、いろいろなことが遅かった。繰り返される口付けに、そうだ、唇は愛情だ、と思い出して、たしかにこれは愛情だろうと、妙に納得したところで――「考え事なんて、余裕だね?」と、笑った孔明に、まともな思考はそこで途切れた。














(尊敬と懇願@師匠)
(ぴろーとーく…のつもりだったんですがいつのまにか事後ではなく事前に、いや、事後かつ事前なのかも/殴)
(夫婦であまあまな生活を過ごしているといい@蜀)

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欲を食む (玄徳)

献帝が長安に居を落ち着けて以来、日々は慌しく過ぎ、花は必死でその慌しさに紛れ込もうとしていた。
(いつまでも、こうしていられるわけじゃない)
こうしていていいわけでもない――結局のところ花は過客なのだった。帰る時がきたのだと、半ば悟るように知っていた。この本は恐らく、永遠を想定して作られていない、旅人の為の本なのだろう。このまま益州を中心にして玄徳の領内が落ち着けば花は拠り所を無くすだろうし、玄徳は花を邪険に扱うようなことは無いだろうが、彼が正しい生を――この世界での生を全うするのを見るのは、恐らく辛いだろう。
花は花のできる最大限を為して、玄徳を助けた。
本来ならその事実だけで、満足しなければいけなかった。花の望みは、確かに叶ったのだから。それなのにただ本の存在が重いのは、割り切れないなにかが、あるからなのだろう。
(……なんて、そんな、難しい話じゃ、ないのに)
ただ、彼の傍に居るのが辛いと、認めればいい。そう認めることは花を容易く元の世界に逃げ帰らせてくれるだろう。
けれど、思い切りがつかないのは。
(そうしていつでも、逃げられるんだから、……だから、まだ、ここにいても、いいよね?)
あと少し。もう少し。任官の段取りもあり花の比ではなく忙しい日々を過ごす玄徳は最早、姿を見るのも稀なほどではあるけれども。
それでも、まだ、――残す想いは重く、苦しく、なのにどうしても、捨てられなかった。


* * *


「明日、儀が執り行われるよ」
すっかり文官服も板についた孔明が、静かに告げた。宣告されているようだ、と、思った。孔明の顔は幾分かいつもより厳しく、そのなかで不釣合いに穏やかな目には何か、哀れんでいるような、安堵しているような、不思議な色が灯っていた。
「君も出るだろう。即席ではあるけど、玄徳様が礼服を用意して下さったそうだよ。今は手が空かないだろうから、夜にでもお礼に伺うといい」
「え、」
任官の儀――それは恐らく、この国の歴史を変える儀式だ。行きずりの身で出ていいような場所ではない。慌てて首を振るが、孔明は「献帝自らのお達しだよ」と、有無を言わさぬ口調で言った。花が、この世界に残すもう一つの想い、花が救えないまま十年を過ごした幼子のことには、どうしても弱くなってしまうことを、承知していると言いたげだった。
(彼に会うのも――なら、明日が最後だろうか)
本当であれば献帝が真に救われて、しあわせになることを見届けるべきなのだろう。けれどそれは花に与えられた時間では、どうしても叶えられないことだった。花は小さく頷いた。孔明はすこし困ったように眉を下げて、笑った。
「……泣きそうな顔を、してるね」
そんなことはない、とは、言えなかった。孔明は溜息をついて、座していた執務用の椅子から立ち上がった。
何を想うより先に、孔明の腕が、花の顔を隠すように回されていた。抱きしめるというほどは力の無い、柔らかな抱擁。慰められているのだと思ったら、なんだか逆に泣いてもいいような気がして、すがりつくように孔明の肩に顔を落としていた。
「何で泣くの。君は、望みを果たしたでしょう」
「……」
その通りだ。別れが辛いとも、想いが傾きすぎて口に出せなかった。結局玄徳のことばかり考えている自分は、叶わぬ恋に溺れるだけの弱い少女で、情けなくてまた涙が出た。
孔明の手が、ぎこちなく花の頭を撫でる。困らせているとわかっていても、甘えてしまう自分が嫌だった。不実だ。ぐずぐずと自分が駄目になっていってしまうような気がして、ほんとうにもう、これ以上此処に居ることは出来ないのだと、絶望するようにそう、思った。


* * *


部屋で存分に目元を冷やしてから、玄徳の部屋に向かった。せめて笑っていよう、それでなくても明日は、全てのはじまりに過ぎないとしても、目出度い日であることは確かなのだから。
衛兵に声を掛け、中に通してもらう。玄徳の部屋は慌しさを反映してか何処か雑然としていて、奥の棚にひとつ行李が置いてあるのが見えた。あれが、孔明の言っていた衣装とやらなのだろう。
部屋の主は顔を上げて花を見て、ああ、と、すこし疲れたように見える顔に笑みを浮かべた。椅子を勧められて、直ぐに茶が運ばれてくる。長居するつもりが無いというのも礼を失している気がして、花はせめて心を落ち着かせようと温かいそれを口に運んだ。
「孔明から話を聞いたのか。すまんな、急な話で」
「いえ。光栄なお話です」
「献帝は、お前を慕っておられるようだ」
言いながら玄徳は行李を開け、落ち着いた意匠の、孔明の着ているものに似たつくりの羽織を取り出した。女性向けに作られているのか色は華やかで、細かい刺繍も入れられている。
「なんだか、もったいないです」
「気にしなくていい。いずれこうして立つこともあるかと思い、作らせていたものだからな」
「え、……私のために、ですか」
「ああ」
玄徳はなんでもないことのように頷いて、ふわりと広げたそれを花の身に被せた。行李にはまだ着物が幾枚か入っているようで、恐らくこれは最後に羽織るのだろう。玄徳の腕が、身体が、近い。思わず身体が強張り、花は慌てて俯いた。
(泣いてしまいそうだ)
孔明のところであれほど泣いたのに、まだ、流れる分が残っていたのか。固まる花に玄徳はわずか、苛立ったように息を吐いた。
(っ、いけない、……困らせた)
玄徳はずっと花を信じ、大切にしてくれた。玄徳はそうして誰もを抱え込んでしまう人なのだ。そんな玄徳にこのような態度をとってしまう自分が、かなしい。慌てて誤魔化そうと、顔を上げた先。
(あ、)
玄徳の腕はいつの間にか、花の二の腕のあたりを捉えていた。囚われた、と、思った。そんな真剣な目を、しないで欲しい。小娘の戯れだと、笑っていなして欲しい。けれど誰にも真摯に向き合う彼にそれを望むのは、酷ということなのかもしれなかった。
「玄徳、さ」
「何故、そんな顔をする」
「そんな、って」
「泣いて、いたのだろう」
「……!」
ばれたのか、見られていたのか。
執務室には、小さな窓がある。見られていたとしても、可笑しくはない。見られていた、と、したら。
(見られていたと、したら……、玄徳さんは、どう、思うんだろう)
縋るように泣きつく姿をただの師弟と言い張ることは、とても難しい気がした。そもそも見たと言われていないのに、言い訳めいたことは口に出せない。
(……でも)
(でも、そのほうが、いいのかもしれない)
ずるい手段だと知っていたけれど、葬るしかないこの思いを、玄徳に一番迷惑をかけない方法で弔うとしたら、悪くないやり方なのかもしれない。少なくとも玄徳に知られて、困らせるよりは、余程。
言葉を詰まらせた花に、玄徳はまた先ほどの、苛立ったような溜息をついた。思わず身を竦めると、更に玄徳の顔が厳しくなる。
(怒って、る?)
なにが玄徳をそんなに苛立たせるのかがわからずに、ただ居所を無くした様な気分で、花は僅かに身を捩った。玄徳の手から逃れるような所作だった。腕の力が緩んで、温もりが離れて――自分勝手にそれを、寂しいように感じたときに。
「……!」
手を。
強い力で、手を、掴まれた。花の肩にかかっていただけの羽織が、ぱさりと小さな音を立てて、床に落ちる。汚れます、と、言う間もなく。
噛み付かれる、と、思った。指も腕も食いちぎられて、跡形もなくなってしまう、と。獣のようだと思った――そんな、勢い任せの所作だった。
実際は歯も触れぬような、ささやかな接触だった。手首に、なにか耐えるような顔で、落とされた唇。
「玄徳さ、」
「お前は、……残るのか。孔明のために」
「え?」
なにか途方も無い、余りにも想定の外にあることを言われた気がした。花が意味を飲み込む前に、なにか玄徳の方が泣きそうな顔で、そのまま花の腕に縋るように背を屈めた。
(残る? ……師匠のために?)
状況が理解出来ないままに頭の中で繰り返し、僅かに納得した。やはり、見られていたのだろう。そして彼は、あの抱擁を、恋人のそれととったのだ。
そうして花が、孔明のためにまだ居るのだと、そう、理解したのだろう。
(勘違いです、なんて言ったら)
(なぜ泣いていたのか、問われるだろうか)
玄徳が怒るのは――孔明のためにという、その脆弱な意志にだろうか。それともはやく、帰ればいいと言うのだろうか。玄徳の真意が知れなかったけれど、玄徳にそれを問えないのは、花もまた、言えないことがあるからだった。そしてそれ以上に、玄徳がそう取ってしまうということが――なによりの証であるような気がして、辛かった。
花は小さく首を振った。それが精一杯だった。玄徳の腕を振りほどいて、落ちた羽織を拾い上げて、逃げるように背を向けた。
(理由なんて)
(涙の理由なんて、――)
そんなの、一つに決まっている。芙蓉姫辺りに言ったら、わからないほうが悪いのだと、怒ってくれるだろうか。そうであったらいい。胸の痛みはもう、一人で抱えるには、重すぎた。













(手首への口付けは欲望の。)
(欲望=玄兄リクエストを二つほどいただきまして、こんなかたちに。あまりシチュエーションには忠実になれなかった上、二人してなんというかダメダメですが……すみません。)
(すれ違いは両片思いの醍醐味。)

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安寧 (孔明)

「……師匠」
「んー?」
「あの、膝」
「重い?」
「いえ、でも」
お仕事、と。恐る恐る呟くと、やはり孔明はとたんに顔を顰めた。
「今日はやめって言ったでしょー」
「いいんですか、それで」
孔明の執務室は、自室と続き部屋になっている。相変わらず机に書簡の山を築いていた孔明が、突然「……やめた!」と叫んで花の手をとり、自室の寝台へと座らせて――そして、花の膝を枕にして、横になり、今に至る。
(……枕、そこにあるのになぁ)
不思議である。内心首を傾げていると、孔明が仰向けになって花を見上げた。
「師匠?」
「ね、撫でてよ」
「え?」
「ボク、大分頑張ってると思うんだよねー。だから、えらいえらいってしてよ」
「はぁ」
たしかに孔明は、一頃の放浪癖が嘘のように、日々執務室にカンヅメになっている。小間使いのようなことをしている花は色々と城の中を走り回っているが、孔明は部屋に人を呼ぶことはあっても、部屋から出るのは精々玄徳と話に出向くときぐらいだ。
孔明が、ひとところに居つけるような人物でないことは、なんとなくわかる。そう思うと、寧ろ今までよく持ったほうかもしれない。花は一人納得して、乞われるままにそっと孔明の頭に手を乗せた。
「師匠は偉いですねー。よしよし」
「そうそう、ボクは偉いんだよ。毎日毎日、見るのは書簡の山ばかり……」
孔明は目を閉じて溜息をつく。孔明が愚痴めいたことを言うのは珍しい。花は僅かに眉を寄せた。
「すみません、私がもっと役に立てればいいんですけど」
「え? や、これ以上君に役立たれたらボクの仕事がなくなっちゃうけどね」
「なくなっちゃえばいいんですよ。……師匠、ほんとうは」
「ん?」
ほんとうは、昔のように、旅がしたいんじゃないですか。
言ってしまったら、本当に孔明がどこかふらりといなくなってしまう気がして、花は口を噤んだ。孔明は閉じていた目を開いて、花を見上げた。眠たいのだろうか、どこかとろんとした目だ。
「いえ、ごめんなさい。すこし、おやすみになりますか?」
「んー? ……うん、眠いんだけどさ。眠れそうになくもあるというか」
「え?」
「いやいや、こっちの話。……ボクの仕事だけなくなってもなぁ」
僅かに目を細めた孔明が、花に向かって手を伸ばす。
「そしたら君が忙しくなって、ボクがこうやって、えらいえらいってしてあげるのか。それもいいなぁ」
孔明の指先が花の頬を優しくなぞる。首筋に降りた手がくすぐったくて、花はすこし笑った。
「師匠、くすぐったいですよ」
「んー?」
「……む」
聞こえないフリで指先を動かす孔明に、花は僅かに唇を曲げた。孔明の髪を撫でていた手を、孔明と同じように、首筋に下ろしていく。やられたらやりかえす!
「あ、ちょ、両手はずるい両手は」
「え? なんですか?」
「……、っ」
孔明の顔が歪む。意外とくすぐったがりなのかな、とすこし微笑ましく思ったところで――孔明の手が花の手を掴み、片手をついて体を起こして。
「うん。やられたらやりかえさないとね?」
にこり、とひどく楽しげに微笑んだ――そしていつの間にか、倒れていたのは花のほうだった。
「え」
なにこの早業。
うっかり寝台に押し倒されて――孔明の手がわきわきと動き。
「っ、ひゃ、や、ししょ、やめてください!」
「やられたら、やりかえせばいいじゃない」
「むり! むりです!」
腰の辺りから脇の下に向けて、孔明の手は巧みだった。せめてダメージを軽減しようと腕を寄せるのが精一杯で、反撃など出来よう筈もない。降参です! と半ば叫ぶように言ったときには、笑いすぎて涙目になっていた。
「弱いなぁ、もう」
「ひどいです……」
うう、と呻きながら睨み上げる。
「最初にやったのは師匠なのに……」
「記憶にないなぁ」
孔明は楽しそうに笑って――それから、すっと目を細めた。唇からも笑みが消えると、先ほどまでのふざけた空気が掻き消えて、急に――急に、この姿勢を意識させられる。
(あれ、えっと)
(なんで、こんなことに)
「し、」
ししょう。
声は、意図せず掠れた。孔明は少しだけ、笑った。
「こういうときは……名前の方が、いいなぁ」
「え」
「花、」
好きだよ。
真っ直ぐに見つめられて、囁くように言われて、そうして、顔が、近付いてくる。目を閉じるのが、正しいのだと、わかっていたけれど――花は動くことを忘れてしまっていた。
「……、」
孔明の唇は――優しく、花の頬に落ちた。すこし困ったように笑った孔明の体が離れると、やっと、呪縛から解かれたように、身体を動かすことを思い出した。慌てて起き上がり、髪をわたわたと整える。孔明はそんな花を、面白そうな目で眺めている。
(……うう、)
(恥ずかしい……)
思わず孔明を睨んでしまう。怖い怖い、と孔明は肩を竦めて、んー、と伸びをした。
「さて、気分転換もしたし、お仕事頑張りますかね」
「今のは、気分転換ですか……」
「お。恨みがましい声だ」
何を言ってもからかわれるだけのような気がして、口を閉じる。孔明は立ち上がって、花に手を差し伸べた。
「……」
むくれた顔のまま、孔明の手をとって立ち上がる。すっかりよれてしまった服をはたいていると、執務室に向かいかけた孔明が、ふと、振り向いた。
「ねぇ。ボクは頑張ってるけど、無理はしてないよ」
「……え?」
「嬉しいんだよ、ここに居ることが出来て。ここに居たいんだ」
孔明は晴れやかに笑った。花は目を瞬いて――それから、泰山のふもとで出会った彼が、此処に居ることの意味を、考えた。
(此処を)
(故郷にしようと、そう思った)
帰らないと決めたときに――そう、決めた。
(それは、もしかしたら――師匠も、そう、だったのだろうか)
花は孔明を見て――そして、同じように、笑った。
「はい。私も、此処に居たいです。師匠と、一緒に」
そうして、孔明を追いかけるように小さく駆けて、くい、と、手を引く。
「――え、」
ぱちりと瞬かれた孔明の目が傍に見えて、背伸びをした先で、花の唇が、孔明の頬を掠めた。
「やられたら、やりかえします」
「……」
顔が赤らんでいるかもしれない。思いながらも、なるべく平静を装って、言う。孔明は大きく目を見開いて――「じゃあ、やりかえさないとね」と笑って、ゆっくりと、花の唇に唇を落とした。














(君と過ごす日々に感謝を。)

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漢の意地 (玄徳)

かぽーん。
鹿威しなど無論存在するはずもないが、雲長の脳裏では確かにその音が鳴り響いていた。
「孔明」
「はい、なんでしょう」
どこか固い顔をした玄徳に、涼やかな顔で孔明が応じる。さて俺はなぜこんなところに居るのだろう……。内心で溜息をつくが、もう出て行くタイミングも喪われてしまった。席を外そうかと言ったのは、決して玄徳のためではなく、雲長自身のためだったのだが、朗らかな顔で構わないといわれてしまっては出てもいけない。
自分はどうしてもこういう貧乏くじを引くように出来ているのだ。天命という奴なのだろう。せめて飽きることがないようにという要らぬ配慮なのかもしれない。
「花の、ことなんだが」
「はいはい」
なんだかいっそ面白くなってきて、雲長は観戦を楽しむことに決め、壁に寄りかかった。玄徳も孔明も、運長のことなど意識から外しているだろう。
「その、な。……正式に、妻に迎えたいと思うんだが」
「……」
流石にそこでは、軽くはいとは言えないか。孔明がすっと目を細め、玄徳が唇を引き結ぶのが見える。
沈黙。
(かぽーん)
雲長の脳内でまた、鹿威しの音が響く。
「例の刺客の件で、孫尚香殿との婚姻は、両家の間で、なかったことになっている。あんなことがあっては、周囲ももう、政略のために他国との縁を結べとは言わぬだろう。無論あのように盛大な儀を行うことは出来ないだろうが」
沈黙に耐えかねたのか、玄徳は早口に言葉を告いだ。孔明は僅かに唇を上げ、何も言わずに聞いている。
「だから、……な」
孔明が何も言わぬからだろう。玄徳の声は、孔明の静かな視線に吸い込まれるように小さくなって、途絶えた。
また、沈黙。
「玄徳様」
次に沈黙を破ったのは、流石に、孔明のほうだった。目を眇めるようにしたまま、静かに玄徳を見据える。
「そのお話は、なんの了解でしょう」
「……?」
「軍師としての諸葛孔明への問いか、それとも――彼女の師匠としての、諸葛孔明への問いか」
お聞きしても、宜しいですか。
静かな口調には、ひたひたとした、静かに寄せる波のような――やがて満ちて人を沈めてしまうような、重圧があった。玄徳は僅か、苦笑したようだった。
「……怖いな、孔明。どちらのお前も怖いが、……今のお前は、どっちのお前だ?」
「問いに問いで返さないでいただきたいですね」
「ああ、これはすまない。……軍師としてのお前に問うべきだと思うのだが、やはりここは、師匠の許しを得るのが、先だろう」
「奇遇ですね」
今のボクは、たしかに、師匠としてのボクでしたよ。
孔明は小さく笑いを溢した。ひやりとするような迫力が篭ったまま、その笑いは随分と恐ろしいものに見えた。傍で見ている雲長ですらそう感じるのだから、玄徳にはとてつもないプレッシャーだろう。
「ボクは、彼女の幸せを願っています。それを為せるのなら、誰だろうと反対はしません。たとえ、曹孟徳だろうとね」
唐突に出てきた仇敵の名に、玄徳の眉が寄る。物の例えですよ、と孔明は笑って――ふいに、顔から笑みを消した。
「しかし、玄徳様。……貴方にそれが為せるのか、どうも自信が持てないのですよ」
「……」
「あなたは、民を幸せに出来るお方です。そう思うからこそ、此処に居る。ですが、あなたが――たったひとりの、愛するものを幸せに出来るお方かどうかは、別の話だ」
いや、相反する話、とすら言えるでしょう。
淡々と語る孔明の言葉を、玄徳は黙って聞いている。それは、納得できる言葉だった。雲長にとってそうだということは、玄徳にとっても納得できる言葉だということだ。孔明が言葉を切り、わずか、困ったように笑うのを見て、玄徳もまた、小さく苦笑した。
「そうだな。……返す言葉はない。幸せにするとは、言えない。俺にとって守るべき第一は、どうしても、俺を主と頂いてくれる、俺を信頼してくれる皆だ」
淡々と、ある意味冷酷とも言える言葉を紡ぐ主に、孔明は困ったような笑みを深くした。そこで彼女を幸せにすると言い切れない男だと、孔明は勿論承知していたはずだ。その愚直さが、劉玄徳と言う男なのだから。
「それでも、孔明。……幸せにするとは言い切れないが、……彼女に、俺の傍に居てほしいのだ。俺と共に、歩んで欲しい。身勝手な願いだとはわかっているが、これは――俺のせめてもの、証なんだ」
「……証、ですか」
「ああ。……幸せには出来ないかもしれないが、一生、共に歩んで行こうという」
苦も楽も共にしたいと思う、気持ちの、せめてもの。
それは劉玄徳という男の誠実さを、全て現したような言葉だった。孔明は気圧されたように僅かに息をつめ――柔らかく、なにか、諦めたように静かに、笑った。
「――ああ、困ったな」
独り言のように。
「ひとつだけ――彼女が、幸せになるようにしようと。ひとつだけ、ずっと、決めていたんですけど」
呟きは、けれどどこか、爽やかなものを含んでいた。
「でも――貴方が彼女を幸せに出来るかどうか、わからなくても――彼女を幸せに出来るのが貴方だけだというのは、わかるんです」
矛盾しているようですが、と。
孔明は言って、溜息をついた。すっかりいつもの、ゆったりとした笑みに戻っている。玄徳もまた、気が抜けたように、ふ、と、笑った。
「大層な言を頂いてしまったな」
「とても悔しいですが」
「最初から、そう言え」
「言えますか、そんなこと」
流れる、ほのぼのとした空気に、雲長もまた、いつしか詰めていた息を吐いた。まったく、なんでこんん場面に。苦笑が零れる。そして――ふと、思いついた。

「玄兄」
「ん? ……ああ、雲長。なんだ」
「(……本当に俺のことを忘れていたな、この人は)ところでその話は、勿論、花の了承を得ているのですよね?」

瞬間。
玄徳が虚をつかれたような顔をして、孔明がその顔を見てまた、にたりと、意地悪く笑った。
「……玄徳様?」
「……いや、……似たようなことは、言ったが」
彼女がそれを求婚と捕らえているかは……自身無げに呟いた玄徳に、思わず孔明と二人、頷いてしまう。彼女は決して愚鈍ではないが、この手のことに敏いとはとても思えない。
それに――玄徳はどうしても、立場のある身だ。生半な言い方では、彼女もまた、そう受け取ることを躊躇うだろう。
「いやなに……獲らぬ狸でなければ、宜しいのですがね?」
先程のあれは、私達より先に、彼女にこそ語るべきでしょう。その後に――また、改めて。
孔明はにやりとしたままに言って、話は終わり、とばかりに立ち上がった。
「玄兄」
「言うな、雲長」
玄徳は苦笑した。雲長は小さく笑い返す。
「玄兄。……俺も孔明に賛成ですよ」
「ん?」
「彼女を幸せに出来るのは、玄兄だけだ。彼女は別に、幸せにしてもらおうなどとは、思っていないでしょうし」
共に幸せになればいいでしょう――とは、気恥ずかしくて言えなかったが、玄徳には間違いなく伝わったようだった。
玄徳もまた、すこし、恥ずかしげに笑って――求婚の言を考えなければいけないな、と、呟いた。












(最後のシーンはプロポーズだとは思うんですが、まぁ)
(プロポーズより先に保護者の了解を得るのは、ある意味正しい?)
(玄兄がんばる。なによりも大切にすると言えないのは、セイギノミカタの仕様なのか)

拍手[47回]

あなたがいるから (花孔明と雲長)

タイトル通り、花孔明と雲長。
そういえば雲長√のBADだった、と思い出して。


拍手[34回]

・・・(運命共同体)

  

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