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あなたがいるから (花孔明と雲長)

タイトル通り、花孔明と雲長。
そういえば雲長√のBADだった、と思い出して。



穏やかだった。
凪いでいる、と思う。すべてが緩やかで、柔らかで、どんな出来事も通り過ぎていく静かな風のようだ。
雲長の自室で、二人。ささやかな別れのために、雲長は手ずから菓子を焼いた。
二人の間では、全てが了解されている。
もう、この人生で、二人が会うことはないだろう。
今このときには二人だけが知る、小さな別れだった。

「無限ループ、か」
花は茶を啜りながら、なにか噛み締めるように言った。無限、という言葉が、なにか途方もなく恐ろしい、けれど同時に、ひどく甘美な何かであるような気がした。
「そうだな」
一人のときは、それがただ、おぞましく、絶望的だった。
けれどこうして二人になってみれば、終わることのない円環は、不思議なほどに穏やかだった。
「どうしてかな、最初に運命を知ったときは、――とても、怖いような、寂しいような気がしたのに」
花は、孔明は、柔らかく笑っていた。余裕を湛えた表情はとても孔明らしいとも言えたが、二人が知る孔明のものとは、やはり同一ではありえない。それは、雲長が決して関雲長に成りえないのと同様に、花を苦しめている筈だったが――しかしそれもまた、静かな凪の中の、ほんの僅かな揺れに過ぎなかった。
雲長もまた、穏やかな笑みを浮かべて花の言葉に頷いた。怖いような、寂しいような――それは雲長がよく知る感覚だった。花は雲長を見て、笑いを深くした。

「あなたがいるから、さみしくないの」

とても綺麗で、穏やかで、――どうしようもなく、空ろな笑みだった。
「私はもう、だれにも、さよならを――言わなくていい。死んでしまっても、また、逢えるから」
花の口調がまるで神のようだと思う。永遠を手に入れて必死になることを忘れて、今はただ穏やかに飽いている。最初から、雲長という、同じ境遇の者が居て――花の歪みは、雲長のそれとは、すこし違う形になった。
静かに、静かに、擦り切れていく。雲長のそれは絶望によってだったが、花のそれは、どうやら、安寧においてであるようだった。

「また。また、逢おうね、雲長」
「ああ。また」

それでも――お互いに、歪んでいることがわかっていても、どうすることも、出来はしない。
ただ、ただ――日々擦り切れて薄れていく自我に、雲長は願った。


(どうか)
(どうか、彼女より先に、全てを忘れてしまわぬように)


こんな風になっても、自分には、花の笑顔が大切なのだ。
それは、長い長い円環で得た、唯一の救いなのかもしれなかった。












(来世でまた逢おう)

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