姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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二人とも喧嘩するな!(孔明)(前)
座敷童子かこいつは。
雲長は溜息とともに、部屋の隅に陣取った少女を見やった。
「……」
ぶすくれた顔のまま、椅子の上で膝を抱えている。
何かがあったのは確実だ。けれど、彼女はそれを語ろうとしない。
(――まぁ、大方の想像はつくが)
「……いつまでそうしている気だ」
「……」
無言の空気に堪えかねて、口火を切る。
しかし、返って来たのは、逃げるように顔を伏せる反応だけだった。
(……こいつは)
溜息も深くなろうというものだ。そもそも、なんでここに来たのかも判らない。逃げ込む先ならもっと適切な場所が――例えば芙蓉姫のところなど、いくらでもあるだろうに。
(それとも)
反応が返ってこない以上、どうしようもない。思いながらも、考えることはやめられない。
(その芙蓉姫から「も」、逃げているのか)
だとしたらますます厄介だ――自分を目の敵にしている少女の釣りあがった眼を思い出して、更に憂鬱になる。
「……花。……逃げたって、何も解決しないぞ」
これは早々に、ここから追い出してしまわねばなるまい。心に決めて、雲長はもう一度話を切り出した。
「……逃げてない」
もぞり、と身体が動いて、膝に埋められていた顔が上がる。
「私は、悪くないもん。逃げる理由が無いよ」
「……事情を知らねば、答えようが無いな。何があった」
「……」
「どうせ、孔明殿が絡んでいるのだろう?」
色事の相談など、どう考えても柄ではない。直截な物言いしか出来ないのも容赦しろよ、と内心で付け加えて、雲長はずばりとその名を出した。
「……! し、師匠は」
「関係ないのか」
「関係あるけど、……」
花は僅かにいい澱み、やがて、観念したように視線を下げた。
「師匠が。……私に、なにか隠してて。でも、教えてくれないんだ」
「……それで」
「……それだけなんだけど」
それだけかよ!
意志の力で突っ込みを押さえつけた雲長の前で、でも、と花は言葉を続ける。
「師匠なら、私に隠してることを気付かせない事だって、出来るはずなんだ。なのに私が気付いちゃうって事は、気付かせたかったってことで、じゃあなんで隠し事があるって気付かせたかったんだろうって考え始めたら、わけがわからなくなってきちゃって」
「……」
「聞いて欲しいのかと思ったら、何も隠してないなんて言うし。……芙蓉姫は何か知ってるみたいだし。どうしていいのかわかんなくて」
「……で?」
「……師匠なんて嫌い、って言って、出てきた……」
最悪だ。
これが所謂、売り言葉に買い言葉という奴なのだろう。花は感情的になる性質ではない筈だが、その彼女をしてそう言わせたとしたら、孔明の対応は余程不味かったに違いない。天下の伏龍ともあろうものが、と思えば微笑ましくもあるが、しかし。
「それは、お前は悪くないのか」
「……、悪くないよ。隠し事、する方が悪い」
「それはそうかもな。じゃあ、もう孔明殿のことは嫌いになったから、このままでいいと」
「……」
わざと冷たく言った雲長の前で、花の顔がへにゃり、と歪んだ。
「このままで、いいと?」
「……よくない……」
「だろう。じゃあ、やることは決まっているのではないか?」
「……」
僅かの沈黙の後に、不承不承、と言いたげに、頷く。
安堵の息を吐く雲長の前で、花はゆっくりと立ち上がった。
***
後編(孔明編)につづく。
雲長は溜息とともに、部屋の隅に陣取った少女を見やった。
「……」
ぶすくれた顔のまま、椅子の上で膝を抱えている。
何かがあったのは確実だ。けれど、彼女はそれを語ろうとしない。
(――まぁ、大方の想像はつくが)
「……いつまでそうしている気だ」
「……」
無言の空気に堪えかねて、口火を切る。
しかし、返って来たのは、逃げるように顔を伏せる反応だけだった。
(……こいつは)
溜息も深くなろうというものだ。そもそも、なんでここに来たのかも判らない。逃げ込む先ならもっと適切な場所が――例えば芙蓉姫のところなど、いくらでもあるだろうに。
(それとも)
反応が返ってこない以上、どうしようもない。思いながらも、考えることはやめられない。
(その芙蓉姫から「も」、逃げているのか)
だとしたらますます厄介だ――自分を目の敵にしている少女の釣りあがった眼を思い出して、更に憂鬱になる。
「……花。……逃げたって、何も解決しないぞ」
これは早々に、ここから追い出してしまわねばなるまい。心に決めて、雲長はもう一度話を切り出した。
「……逃げてない」
もぞり、と身体が動いて、膝に埋められていた顔が上がる。
「私は、悪くないもん。逃げる理由が無いよ」
「……事情を知らねば、答えようが無いな。何があった」
「……」
「どうせ、孔明殿が絡んでいるのだろう?」
色事の相談など、どう考えても柄ではない。直截な物言いしか出来ないのも容赦しろよ、と内心で付け加えて、雲長はずばりとその名を出した。
「……! し、師匠は」
「関係ないのか」
「関係あるけど、……」
花は僅かにいい澱み、やがて、観念したように視線を下げた。
「師匠が。……私に、なにか隠してて。でも、教えてくれないんだ」
「……それで」
「……それだけなんだけど」
それだけかよ!
意志の力で突っ込みを押さえつけた雲長の前で、でも、と花は言葉を続ける。
「師匠なら、私に隠してることを気付かせない事だって、出来るはずなんだ。なのに私が気付いちゃうって事は、気付かせたかったってことで、じゃあなんで隠し事があるって気付かせたかったんだろうって考え始めたら、わけがわからなくなってきちゃって」
「……」
「聞いて欲しいのかと思ったら、何も隠してないなんて言うし。……芙蓉姫は何か知ってるみたいだし。どうしていいのかわかんなくて」
「……で?」
「……師匠なんて嫌い、って言って、出てきた……」
最悪だ。
これが所謂、売り言葉に買い言葉という奴なのだろう。花は感情的になる性質ではない筈だが、その彼女をしてそう言わせたとしたら、孔明の対応は余程不味かったに違いない。天下の伏龍ともあろうものが、と思えば微笑ましくもあるが、しかし。
「それは、お前は悪くないのか」
「……、悪くないよ。隠し事、する方が悪い」
「それはそうかもな。じゃあ、もう孔明殿のことは嫌いになったから、このままでいいと」
「……」
わざと冷たく言った雲長の前で、花の顔がへにゃり、と歪んだ。
「このままで、いいと?」
「……よくない……」
「だろう。じゃあ、やることは決まっているのではないか?」
「……」
僅かの沈黙の後に、不承不承、と言いたげに、頷く。
安堵の息を吐く雲長の前で、花はゆっくりと立ち上がった。
***
後編(孔明編)につづく。
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