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姫金魚草

三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト

   
カテゴリー「壊れやすい(孟徳連載)」の記事一覧

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「花」 (「壊れやすい」冊子版より)

(冊子版につけたものです。なんかこれがないと完結って感じがしないかもしれないと、のっけてみます。)

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・・・(物語の)

関雲長 (壊れやすいその後)

(どうしようもない蛇足です)
(あたりまえのように死ネタです)

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・・・(余りに眩い、)

散花

(R-18)
(いや、直接描写は無いからR-15くらい?)

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・・・つづきはこちら

12 伝わる温もり

濃い、血の香りがした。
 花は必死に馬の手綱にしがみ付いて、戦況を見極めようとした。馬に乗る術も、剣を繰る術も、こちらの世界では必須の技能だった。最前線からは遠いここでも、戦の苛烈さは良く知れた。隣の孟徳は悠然と、戦線を見守っているように見えた。
 陸口から上陸して、玄徳軍とぶつかる。恐れたのは、上陸を狙われることだった。玄徳軍にしてみれば、そこしか攻める機会はないと言っても良かっただろう。
 接岸のときを見計らったように、玄徳の軍が突撃してきた。弓を降らせ、歩兵の屍で道を作るようにして、陸に上がった。そうするしかないことは、最初から判っていた。判っていて孟徳は、ああ笑ったのだ。酷い策だと。
 なんとか陸に上がってからも、体勢を作らせまいと攻めてくる玄徳を相手に、かなりの兵を殺した。しかし、減っている量はこちらの方が多くとも、結局玄徳は寡兵だった。最後まで。寡兵であることが玄徳らしく、そのせいで此処で散るのだ、とも思えた。
「玄徳は、よく戦ってるようだね」
 孟徳は低い声で笑うように言った。だが、それだけだ、とでも続きそうな口ぶりだった。文和は異邦の男と共に水軍の指揮をしている。こちらに軍師としているのは、文若の親戚である、荀公達という男だった。
「そうですな。……と言っても、徐々にこちらが押し上げていっております。向こうの戦線が崩壊すれば、あとは速いかと」
 どことなくのんびりとした口調の男は、しかし冷静に戦を見ていた。つまり焦るなと、そう言いたいのだろう。朗らかぶって、その実非常に苛烈な戦をする孟徳に、苦労させられて来たのだろうと、そう知れる口ぶりだった。
 玄徳軍を押し返して、こちらの体勢は整っていた。攻め続けていた玄徳軍は、もう大分疲労し、兵も薄くなっているはずだった。あとは無理に突っ込まぬことだ。ここで無為に戦線を延ばして間を断たれたら、元も子もない。公達の意見は最もだった。

 船に乗る、と言った男を思い出した。そちらが私の役目です、と慌てて言った花に、静かな笑みと共に男は言った。
『曹孟徳は、貴女の英雄なのでしょう』
 ならば傍に侍って居ろと、男の声は淡々としていた。それで彼がなにをどう了解したのかが大体知れて、花は違うと叫びそうになった。
 男は花を――本の持ち主だと思ったのだ。男と同じ。
 仕組みを知らないものならば――自分と同じ境遇のものだと、勘違いをしても仕方が無かっただろう。花の策に頷いたのも、恐らくは――それが『花の本の策』だと思ったからだ。
 違う、と。
 一言を言うのに、全てが遅すぎた。
『最初の望みは、孔明の名に、つまりは玄徳の元にあったんだろう。……このようなことになってしまって、申し訳ない。けれど、貴女は曹孟徳を見つけたようだから。この本は、持ち主が望みを変えることには、不思議なほどに寛容だから』
 確信を得るために、あのような無茶をして悪かった。文和殿にも謝らねばなるまい。男はそう言って、清々しく笑った。花よりもずっと賢く、花よりもずっと、何も知らない。
 本がどれほど残酷なのか。男がどれほど、甘い夢を見ているのか。
 けれど夢を打ち砕くことは、花にとっての利も、男にとっての利もないことだった。花は黙って微笑んだ。そうするしか、術がなかった。

 彼はこちらに居るべきだった。男の笑みを、言葉を思い起こして、後悔と共に強く思った。花の策が破れても、彼の策が成れば、彼は帰ることが出来たはずだった。そしてこちらの、陸口からの上陸戦に勝つことは、本で保証されているのだ。
 彼を犠牲にすると笑った花は、もうどこにも居なかった。今はただ勝利を願う、一人の弱い人間でしかない。
「さて。……頃合だね。出ようか」
「はい、……って、はい?」
「玄徳との腐れ縁を、ここで終わりにしよう」
 孟徳は晴れやかに、覇者の笑みを浮かべた。戦況はまだ膠着していて、ただ彼一人が、勝利を確信しているように見えた。公達が孟徳の言葉に目を丸くし、次いで慌てて制止の声を上げるよりも、孟徳がす、と手を挙げるほうが速かった。
 飲み込まれる。それが、戦になのか、時の趨勢になのか、わからなかった。
ただひとつ。
たしかに、物語は形を変えた。孟徳の脇を必死で駆けながら、曹孟徳、私の英雄、と、祈るように、思った。

* * *

 頬に当たる風は刃のようで、時折濡れたように感じるのが血液の所為だと知っていた。孟徳の勢いは天命を信じているのか、天命を恐れていないかのどちらかであろう、圧倒的な勝利の確信に満ちていた。
「玄徳……!」
 喜悦に満ちた声で孟徳は叫び、花は凝らした視界の向こうに、既に孟徳軍の兵士等に取り囲まれた状態の玄徳の姿を見た。このような乱戦の状態で、彼の傍には義兄弟の姿も見えなかった。
 喧騒の中で、孟徳の叫びが玄徳に届いたのは、偶然というよりも宿命と言ったほうが正しかった。玄徳は二刀を振るって兵を散らし、真っ直ぐに声のほうを見た。
 孟徳を見る、と言うことは、花を見る、と言うことだった。玄徳の顔が刹那、場違いなほどに穏やかな色を宿す。それは、花が、この世界に下りた一番最初に、玄徳に与えられたものだった。
 目を逸らしては、駄目だ。
 玄徳が花を見たのは一瞬だった。孟徳とその周囲の護衛の兵は、一気に玄徳の元に切り込んで行った。刃と刃の重なる、鈍い音がした。
「曹、孟徳……!」
 呪うように。玄徳は低く、宿敵の名を叫んだ。
「お前の負けだ、玄徳!」
 孟徳は口元に、戦のときに浮かべる特有の酷薄な笑みを浮かべていた。本当は。本当はこの場に曹孟徳が居なくとも、全ての決着がついていたはずだ。
 こうして二人を、乱世を生き抜いた英雄二人を最後に会い見えさせたのは、確かに運命という名のものであるような気がした。何を祈っていいのかもわからなかった。花は最初から、知っていたはずだった。
 戦の終わりが、どういう形であるとしても。
 この瞬間を、こうして目にすることが無かったとしても。

 こうなることは――知っていた、筈だった。

 だから、目を、逸らさなかった。
 玄徳の剣が弾き飛ばされた。はっと玄徳が目を見開くのと、彼の胸を孟徳の剣が貫くのとは、ほぼ同時の出来事だった。玄徳の目が、何処か遠くを見るように、細められる。
 夢の終わり。
 彼の、長く、遥かな旅路の終わり。一人の英雄の最期。
 彼が最期に何を思うのか、花には判らなかった。ただ、ふっとこちらを、馬から落ち行く流れのままに落ちた視線で、花を捕らえた玄徳が、困ったように笑うのが見えた気がした。

 泣くな、……花。

 それは、都合のいい幻聴だっただろう。今の玄徳が、花の名を知る理由がない。背信者である花を、気に掛ける理由も。それでも、玄徳ならば、言ったかもしれない。劉玄徳とは、花の知る劉玄徳とは、そういう男だった。
 戦の終わりが。――玄徳軍と、決着をつけるということが。
 劉玄徳という男の死をもってしか、在り得ないと言うことを、花はきちんと、理解していた。泣くわけがない。それでも花は、もう、孔明ではなかった。孟徳の前で告げたときから、花はもう孔明ではなくて、まるで昔の、弱い少女だったときに戻ってしまったかのようだった。
 蒼い天が。
 この高く蒼い空が、劉玄徳の最期に相応しいことが。それだけが、救いであるような気がした。花はきつく目を閉じた。何を想うことも、祈ることも、許されていないのだと、知っていた。

* * *

 主を喪った玄徳軍は、壊走した。柴桑は陸と河の二方面から攻められる形となり、河では奮戦していた揚州軍も、殺しても殺しても沸いて出てくるような大軍に徐々に力を失い、揚州の豪族の大半が降伏へ傾いたこともあって、柴桑を攻め落とした時が、仲謀の降伏の時となった。
 水上戦で、公瑾が流れ矢で重傷を負ったとの報があった。恐らくはそれが、降伏の最大の理由であった。周公瑾という男の終わりは、それ即ち孫家三代の野望の終わりと言えたのかも知れない。負けての降伏は、戦の前の降伏とは、違う。孫家の終わりを覚悟して、それでも揚州には選択肢が残されてはいなかった。
 益州から、媚びるような降伏の報が届いたのも、それから間もなくのことだった。
 乱世の終わり。
 終わりはいつも、なにかの始まりを伴う。曹孟徳の天下の始まり。言葉の与える印象ほど、天下は、優しくも華やかでもない。そう知りながらも、花はやはり、噛み締めずには入られなかった。
 乱世の終わり。
 それは、花が巡り巡る世界の中で、初めて見る景色だった。
 孟徳は暫く降伏後の揚州の地で戦後処理に尽力した。揚州は豪族の地だ。反乱の芽は何処にでもあった。そして信頼の置ける部下を揚州の地に置き、自らは許都へと凱旋した。
異邦の男の姿は、既に無かった。在るべき所へ帰ったのだ。花がもう、懐かしむことしか出来ない、平和な世界へ。
 そうして、許都で、出来たばかりの銅雀台で、宴は開かれた。月の綺麗な夜。花もまたその宴に参列したが、江陵での宴のときのように、孟徳の隣に侍ることはなかった。
 新しく孟徳が誂えさせたという文官服に身を包んで、花は眩しいような思いで孟徳を見上げた。私の英雄。この姿が見たかった、と思い、そんなことを願ったのではなかった、とも思った。後者の想いがじわじわと胸を苛んで、花はそっと、宴の席を抜け出した。

 こんなことを、願ったのだっただろうか?

 酒で火照った頬に、夜の風が涼しく心地よかった。
 宴の席から拝借してきた銚子と杯で、一人月見酒と決め込むことにした。遠い孟徳の姿が、ちりちりと胸を焼く。文官と主の距離として正しいだけの距離を置いて。政務以外の話を、していない。それほどまでに忙しかったとも言えるし、何を話していいのかもわからなかった。
 此処はもう、花の知っていることが、何一つ無い世界なのだった。
「……こんなにも、心細いものだっけ」
 一人月に杯を掲げて、胸を占めるもやもやとした思いにやっと、名をつけることが出来た。――不安だ。三十路も近くなって、何を小娘のようなことを。思いながら杯を煽ると、軽やかな笑い声が聞こえた。
「いい飲みっぷりだね、孔明」
「……怒られますよ。主役が、こんなところで」
 顔を向けずとも、そこにいるのが誰かは知れた。わざと月を眺めたままに言うと、孟徳は笑いながら、花の隣に腰を下ろした。
 あの日、――恐らく、歴史が変わった瞬間であろう、あの日のように。
「そうかな。……じゃあ、それより先に、俺が君を怒るよ」
 あの日とは少し違う会話。花はやっと、孟徳へと顔を向けた。孟徳は少しだけ酒に火照った顔をして、月を眺めている。
「何で、丞相が私を怒るんです」
「そりゃあ、俺のところに来ないからさ」
「……はぁ」
「待ってたんだよ」
 屈託の無い笑顔と共に言われると、毒気が抜けるような気がした。
「何をですか」
 思わず、間抜けな問いが出た。孟徳は呆れたように花を見て、溜息をついた。
「君を、に、決まってるだろ。……戦と政以外に働かないのかな、孔明の才知とやらは」
「ええと、……じゃあ、何故です」
「……」
 孟徳は本格的に呆れた顔をして、ふいと花から顔を背けてしまった。子供のような所作だ。そんな顔をされることを言ったつもりは無かったのだけれど。
「……丞相、あの」
「伝言を預かってるんだ」
「伝言?」
「『向こうの世界でも、会えることを願ってる』」
 孟徳は月を眺めたままに言い、俺を伝令に使うなんて最後まで腹立たしい男だよ、と呟いた。誰からの言かは、聞かずとも判った。あの男が、最後まで幸福な思い違いをしていたことに、安堵するような気分になった。思いのままに僅かに笑うと、孟徳は僅かに眉を寄せた。
「……なんで、笑う。私も、とでも言うつもりなのかな」
「いえ」
 言えるはずが無かった。その願いが決して叶わぬことを、花はよく知っていた。ただ、一人の男が幸福であることに、安らいだだけだ。
「そうだよね。……だって君は、帰れないんだから」
 孟徳の言葉に、杯を取り落としそうになった。まだ酒が入っている、勿体無い、と慌てる方向を間違えて、杯を持ち直してから、花は孟徳の顔を驚きと共に見つめた。
 孟徳もまた、視線を月から花へと下ろしていた。奇妙に、穏やかな笑み。
「あの男は、文和に、全てを話して言ったよ。彼が真実だと思う、全てを。……文和は世迷言だと思ったみたいだけど、ちゃんと俺に伝えてくれたよ」
 彼が真実だと思う全て。
 その言い方は、孟徳がそれを、真実ではないと思っていることを、示していた。呆然とする花の前で、孟徳は変わらぬ笑みのままに続けた。
「君が彼に、真実を告げなかったのか。……それとも、俺に、嘘をついたのか。どっちなのか、聞いてもいいかな」
 孟徳は、聡い男だ。
 文和から男の言を伝え聞いて――それと、花の呟きを組み合わせて。孟徳は恐らく、真実に一番近いところに、辿り着いてしまった。
 花と男が、彼らの思うところである、『天』から――異界から来たということ。男は本という、帰る術を持っていたけれど――花の『羽衣は燃え落ちて』、帰る術は、もう、存在しないということ。
 花は暫し、孟徳を見つめて、――それから、ぎこちなく、笑った。

「私はもう、随分前から、……貴方に、嘘をついていないんですよ」

 孟徳は、優しく、頷いた。

「うん。……俺はそれを、知ってたよ」

 そうだろうと、思った。孟徳の手が伸びて、花の手から杯を取り上げる。疑問に思うよりも先に、孟徳の顔が花の顔へと近付いて、花が察して目を閉じるよりも早く、唇が、重なっていた。
「……丞、」
「孟徳、って、呼んでよ。……君は俺に、傅かなくていいんだ。君は俺の、天女なんだから」
「私は、そのようなものでは」
「俺の、天女だ。……男なら、誰だって、惚れた女が天女のように見えるものだろう?」
 直截な言葉に、花の顔が一気に赤くなる。それに楽しそうに目を細めた男を睨みつけて、花はそれなら、と、意趣返しの言葉を口にした。
「……私は天女のようなものでした。この世界のものでないという意味で。けれど今は、ただの、一人の女です。……天女を下界へ落とすものは、古の昔から、一つと相場が決まっています」
「……へぇ? 何かな」
 答えを知っている顔で、孟徳が先を促す。捨て鉢のような気分で、花は赤い顔のまま、真っ直ぐに孟徳を見て言った。
「恋ですよ」
 笑みを深めた孟徳の、けれど頬が微かに赤く染まったことに、花はきちんと気がついていた。孟徳の腕が、花の身体を抱き寄せる。唇が触れ合うような距離のまま、男は囁いた。
「……君の話が聞きたい。俺の知らない、君の話を」
「幾らでも。……私も、貴方の話が、聞きたいです」
「それも、幾らでも、聞かせてあげるよ。……でも、とりあえず、今は」
 孟徳の唇が、もう一度、花の唇と重なった。

「今は。……諸葛孔明じゃないと言う、君の名前が聞きたいな」

 花は笑った。諸葛孔明ではない。確かに此処に生きている花は、もう、諸葛孔明ではありえなかった。全てが自由で、全てが未知だった。
 身体に纏わりついていた何かが、離れていくような心地がした。それは恐らく、諸葛孔明という名の錘であり、役割そのものであった。花はそっと、孟徳の唇へ口付けを返した。

「はい、……私の名は――」








END















(これにて終劇。)
(終りは始まり。)
(……玄兄好きの皆様、ええと、不意打ちに申し訳ありませんでした……)

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