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姫金魚草

三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト

   
カテゴリー「壊れやすい(孟徳連載)」の記事一覧

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11 いつかの日を信じるために


風が吹いていた。
変則的な風向きのことを、伝えなければならないな、と、思い出す。烏林に布陣してはいけないと言うのは、無謀だろうか。
泡を食ったように天幕から出て行った文和の姿を思い出せば、なにもかもが、言っても詮無い事である様な気もした。あのやり取りは確かに、妖のものに思えただろう。
文和を呆然と見送って、花もまた、逃げるように天幕を出てきた。戦支度に忙しい中に居る気になれずに、ふらふらと歩いて辿り着いたのが此処だった。
 遠くから、兵士のざわめきが聞こえる。夕の配給時なのかもしれない。ああそうだ、川魚と貝に注意するように言わなければ、とぼんやり思い、そしてそれもまた詮無いことだろうか、と思った。
花がこれから口にすることに、どれだけの信憑性があるのだろう。男は確かにこの世のものではなく、花もまた、この世のものではない。それは忌まれてしかるべき事実であるような気がした。
 河を見下ろす、少し開けた丘のような場所に、腰を下ろした。船が見える。河岸を埋める船の群れは、確かに勝利を確約してくれそうだった。既にその船が燃えていく様を何度も見ている花でもそう思うのだ。知らなければ、負けるなどとは思わない。
 ふいに、風が途切れた、……ように思えたのは、傍に、人が立ったからだった。赤い衣が、視界の端をはためく。
「……怒られますよ」
「そうかな。じゃあそれより先に、俺が君を怒ってもいい?」
 孟徳は花の隣に腰を下ろした。風が戻ってくる。
「駄目です。……私が死ぬことと、貴方が死ぬことは、違う」
「此処はそんなに危険かな」
「私に今術があれば、周公瑾を殺します。それと、同じことです」
 孟徳は堪えた様子も無く笑った。
「君はもうすっかり、俺の軍師のようなことを言うね」
「いけませんか」
「いや」
 沈黙の中を、風が通り抜けた。孟徳が口を開くまで、何も言わずにいようと決めた。こちらに来てから、そればかりだ。周りが敵だということは、言質を取られてはならないということだ。もしくは――単に、隣の男が怖いという、それだけのことでもあった。
「……文和はもっと驚くといいんだ。あいつは、世の中のすべてのことを知ってるつもりで居るんだから」
 孟徳は穏やかな口ぶりで、そう言った。花は答えられずに、膝の間に顔を埋める。慰めているつもりなのか。慰められるような義理は無い。
「でも、久しぶりに驚いたからだろうな。あいつの言うことはてんで要領を得ないんだ。喋りが上手いのが取り柄なのに。……だから俺に、説明してくれる?」
「……」
 そんなことは、ありえないだろうと思った。あの弁舌巧みな男が、ここぞというときにそれを発揮できないなどということは。裁判のような気分になった。被告人の言うことも、ちゃんと聞こうというのだろう。
「説明も何も、……何処から話せばいいのかも、私にはもうわかりません」
 諦めたような心地で言うと、孟徳は困ったように笑った。
「そんなに沢山、俺に言っていないことがあるんだ」
「……そうですね。語りつくせないほどに」
 四度の、いや、それ以前の「山田花」としての人生もすべて、聞いてもらいたかった。隣に座る男に全てを打ち明けて、狂人だと笑われても構わなかった。それでも男は、花を優しく包み込んでくれるだろう。
「その全てを聞きたいけど、……それは今じゃないだろうな。君が見たままを、語ってくれればいいんだよ。文和は本が光を放ったといっていた。あれは、妖しの書の類かい」
 花は顔を上げて、長江に浮かぶ船舟を見た。す、と、手を翳す。扇があったらそれらしいだろう、と思いながら、花の手にはもうあの扇もない。
「――東南の、風が吹きます」
 託宣めいた声が、意図せずに零れた。風が吹くとき。それが、決着の時だった。
「仲謀軍の老将が降伏にやってきます。こちらを信用させようと背に受けた傷を晒して。今はこう、こちらが風上になっている向きが、逆へと変わり――ぶつけられた火は瞬く間に燃え広がるでしょう。こちらの船はもともと不慣れな者が多い上、水が合わずに兵は多く病で倒れており、船の機動力も足りず、酔いを恐れて船を揺らさぬよう繋いでいたために、火の広がりを止める術はありません」
 花の目の前には、もう何度も見た光景が、広がっているようだった。あの熱さも。水に映る炎の揺らめきも。河に広がる死体も。なにもかもが、今このときに、蘇ってくる。
「船は燃えます。……その広がりが、赤い壁に見えるほどに」
「赤い、壁?」
「はい」
 花はゆっくりと立ち上がり、河を見下ろした。こちら側から見たことは無くても、対岸から見たときより確実に酷いことになっているであろう戦場を、想像することは容易かった。
「……それが、君が見たものなのかな」
 光の中で、と、問うているのだろうか。あれはそんな魔術ではない。花が見たことであることに変わりは無いけれど。花は座ったままの孟徳へ振り向いて、ゆっくりと頭を振った。
「いいえ。……いえ、頷くことも、間違いではない。私は確かに、この河が、燃えるように赤く染まるのを見たことがあります。けれどそれは、今ではない」
「……孔明、君は」
「私は、諸葛孔明ではありません」
風が吹いた。花の背後から、河から吹いてくる風が。
孟徳が目を眇める。
「私は確かに、この世のものではない。……騙していて、ごめんなさい」
 花は笑った。どうすれば孟徳が信じてくれるかと、そればかりを考えた。ここで消えることができれば、演出としては完璧なのだけれど――そうすれば花は真に神仙となり、あとは孟徳の受け取り方次第だ。
 その時。――孟徳の手が、花の服の裾を掴んだ。
 意識していなかったような、反射的な動きだった。孟徳自身が、驚いたような顔をしていた。見上げてくる目と目が合って――孟徳は、表情の抜け落ちた顔で言った。
「逃がさないよ」
「……え」
「それで君は、――消えてしまうつもりなのかもしれないけど。残念ながら、そうさせてあげるわけにはいかないんだ」
 消えるようだったのだろうか、と、思った。
 夕時の淡い橙色の中で、風を背に受けて、花は消えてしまうようだっただろうか。
 花は、小さく笑った。御伽草子を、思い出した。秘密がばれて消えるのならば、花は鶴であっただろうが、その実花はどちらかと言えば、羽衣をなくした天女であった。
「どこにも、行けません」
 それが全く哀しくないのだ。
「私の羽衣は、もう、焼け落ちてしまいましたから」
 それが全く、苦しくないのだ。
 孟徳が訝るように眉を寄せる。花はそっとしゃがみこむと、衣の裾を掴む孟徳の手をとって、祈るように唇を寄せた。
 傷痕の残る、その手の甲に。
 いつかの時を信じることなど、とうの昔に止めてしまった。
 今はただ、今この時が信じられれば――それで、よかった。
「孔明、……君は、」
「丞相」
 声と共に、風が止んだ。花はそっと、顔を上げた。男が立っている。孟徳を間に挟んで、二人の異邦人は、静かに見詰め合うこととなった。
「お話があります。……孔明殿も、是非」
 男の目は静かで、何を考えているのか、測ることは不可能だった。孟徳は溜息と共に、小さく笑った。いつもの戯言を言わない孟徳が、わかっているのだろうことは、知れた。
 決戦は目の前にあった。王者たる男が悠然と歩を進め、背後に花と異邦の男が付き従う。それは勝利への歩みというには余りに哀しい静謐さに満ちているように思えた。

* * *

 男が語った策は、苛烈なものだった。
 花の知る、そして男の知る未来では、孟徳軍は河を下る最中に揚州の水軍の攻撃を受け、その力を目の当たりにすることとなる。そして、水上での戦は不利と見た孟徳は、風上の利をとって烏林に布陣し、揚州の内部分裂や士気の低下を待つこととなる。
 対岸に布陣した揚州軍は、風向きが変わるときを利用して火計を仕掛け、孟徳軍は為す術も無く火に焼かれ、撤退する最中に劉備軍の追撃をうけ、後一歩というところでどうにか逃げ延びることになるのだ。
 それに対して本が示したのだろう策は、烏林に布陣するのではなく、陸口から上陸し、江夏に駐屯している劉備軍を打ち破って柴桑を獲る、というものだった。
 陸戦に持ち込めは数で勝てる、という男の言には説得力があった。それはまた同時に、かなりの犠牲を前提にした策でもあった。劉備軍は少数とは言え精兵だ。単純に押し潰せるような相手ではなかった。
「烏林に布陣すれば負ける。……それは、孔明が言ったのと同じ理由かな。つまり――風向きが変わって、火計を受けると」
 男の言を聞いていた孟徳が、静かに問う。男はちらと花を見やってから、うなずいた。何故花がそれを知るのかは、問わなかった。
「無論それを知っておけば、打てる手もあります。しかし今は、玄徳軍を恐れず江夏を攻めるのが上策かと。柴桑を獲れば、後の揚州攻めへの足がかりにもなりますし、荊州を固める意味でも有用です。転じて、ここで柴桑を獲らなければ、荊州は仲謀、玄徳、そして我が軍がにらみ合う地となるでしょう。……玄徳だけでも、ここで潰しておくべきです」
「なるほどね。……孔明、君はどう思う」
 それが、この世のものではない、と告げてある花の、神託を問うような意味なのか、それとも、かつて玄徳の元にいた軍師へ向けての問いなのか、花にはわからなかった。ただ、どちらであっても答えは同じだった。それが本の答えならば、従うだけだ。
「悪くないと、思います。……唯一つ、私からも策を、告げさせていただいても構いませんか」
「……聞こう」
 江夏へ上陸し、玄徳を攻める。それだけでは、片手落ちだ。閃いたのは、どうしようもなく残虐な策だった。敵よりも味方を多く殺して、それでも最後に数が多いほうが勝つという、策とも言えないような策だ。どうしてそんな策が思いついてしまったのか、判らなかった。
 かつての花だったら、決して口にしなかっただろう策だった。かつての、犠牲を少なくしようとそればかり、願っていた頃の花だったら。
「水軍を使い、長江を下らせ、建業を目指す」
「……水軍を?」
「はい。……建業に辿り着く必要はありません。下る船の方が、上る船より強いのは道理です。揚州の水軍が強くとも、押し返すことは容易ではない。揚州の水軍を、つまりは揚州の目を、ひきつけて置くだけでよいのです。都を攻められる。そう思わせればいい」
 揚州軍と玄徳軍を、合わせても十万と少し。対してこちらは三十万の軍勢だ。二正面作戦は、無理ではあるが、無謀ではない。
「揚州はそもそも豪族の集まり。不利と見れば、兵を出さぬ者も出てくるでしょう。玄徳軍が敗走しただけで、白旗を挙げたがるものもいるかもしれません。なんと言っても、つい先刻まで、降伏するか否かで揉めていた者たちです」
「力を見せ付けてやればいい。そう言うんだね」
「はい」
 無茶を言っている自覚はあった。沢山の兵が死ぬ策だった。殺しても構わないと思わないと、立てられない策だった。
 かつて。かつてあの本を持っていた頃の花が、本に願っていたこと。それは何をさて置いても、犠牲を少なくする策だった。あの頃の花の願いと言えば、ただそれだけだったのだ。目の前で人が死んでいくのに、耐えられなかった。
 例えどんな策を立てても、誰も死なずに終わらせることなど出来ないと知らず、命の取捨選択をしていた頃。今では、こちらが死ななければあちらが死ぬ、当たり前の天秤を知っている。結局自らの命を賭けぬ以上、何を講じても変わることはない。
「……君達は、怖い軍師だね。どれだけの兵が死ぬかを知っていて、最高の結果を弾き出そうとする」
 孟徳は、口角を吊り上げて笑った。悪い笑みだ。狡知に長けて、それこそ、人を殺すことをなんとも思わないものの笑みだった。
「君達を得たことは、我が軍の不幸か幸福か? ……それは、戦の結果が教えてくれるんだろう」
 孟徳は静かに言って、楽しげに喉を震わせた。戦の感覚。――自ら作る戦の感覚が、じわり、と身体に広がる。それは熱のような、痛みのような、そんな何かだった。
「孔明の策に、異論は」
「……ありません」
 男は、頷いた。花は少し驚いて、そちらを見た。花の策は、花のものだ。本に記されていたのだろうか、と思い、それなら最初から言うだろう、とも思う。男はちらと花を見ただけで、何も言わずにすぐに目を伏せた。
 自らの言葉が、正しいのかどうか、わからない。
 こんな不安は久々だった。言わなければ良かったと、後悔することも。此処から先は、花の知らない世界だった。一度としてみたことの無い戦が、始まろうとしている。赤壁ではない、なんと呼ばれるかもわからない、それでも全てを決する戦が、はじまろうとしていた。














(次回最終回)
(戦術にも戦略にも弱く、知識も足りない。架空戦記を書ける人はすごい……)

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10 「幸せなんて要らないわ」



 軍議は紛糾した。
 降伏を待つべきだという者と、このまま一気に攻めるべきだという者の、たぶん川向こうでこれを裏返した議論が行われているであろうことを思えば、笑ってしまいたくなるような議論は、花が三つあくびをしてもまだ終わってはいなかった。
 荊州の地を安らげて、兵をこの地に慣れさせる時間は必要だろう、と花は思ったけれど、口に出すことはしなかった。問われれば答えればいい。それ以上は疑心を招くだけだと知っていた。
 それと、と、ちらりと視線を投げる。水軍の長である蔡徳珪を、花はよく知っていた。野心が強く、保身が好きな、どこにでもいる小物だった。荊州で権勢を保っていられたのは、荊州牧劉表が老いて、それをいいように出来ていたからだ。
 この男と、公瑾と。将からして余りに器が違う。火計が成功しなければ大敗を喫することのなかった戦とはいえ、言うほどたやすく大群で飲みこめる相手ではない。
 伯符が死んで数年の間、公瑾がその思いのすべてをかけて、鍛え上げて来た水軍だ。軽視するのは余りに愚かだった。
「……孔明。君はどう思う?」
 自分は一言も口を挟まずに、声高な議論を聞いていた孟徳が、唐突にこちらに声を掛けた。花の意見は既に伝えてあるようなものだ。この場で発言させる意味を少し考えながら、控えめな口調で答える。
「兵糧は荊州のものがあり、兵力の差は歴然。更には荊州の水軍もあり、戦をする条件は揃っていますが。……それは、揃わされたようなものではないでしょうか」
「揃わされた? 変な事を言うね。誰に」
 ええと、私に?
 と言う訳にはいかず、孔明はやんわり笑って誤魔化す。
「これだけ条件が揃っていれば、誰であろうと攻めたくなる。それでなくても、大軍を擁してやってきて、民に紛れた玄徳を追っただけの戦で、満足しろというのも酷な話」
「……そうだね。でもそれは、俺たちにとっていいことじゃないの?」
「攻められるということは、勝てるということとは違います」
「負ける可能性のある戦より、確実な手を打て。そう言いたいのかな。……その場合の確実な手は、揚州が降ってくるのを待つことかな?」
「降ってこずともよいのです。ここで地盤を固め、国力を蓄える。揚州が大人しくしていれば、荊州を固めることに専念できます。さすればあとは、戦ではなく、国の力そのものがモノを言う。益州が降るのも、揚州が音を上げるのも、時間の問題かと」
「なるほど。……時間をかけて締め上げる。……とても、俺の戦っぽくないねぇ」
「それだけの軍になったということです。寡兵で、神速を尊んでいた頃とは違う。大軍には大軍の使い方と、戦い方がある」
 此処まで来て置いて引き返せという論が、通るはずがないことは知っていた。時間を稼いでおきたかったのだ。孔明が居ない世界で揚州がどう選択するのかを、花は知らない。降伏の可能性があるのならば、僅かでも長く、それを待って居たかった。
「……そうか。君の意見は最もだと思うよ。……でもね、そういうわけにも行かないんだなぁ」
 孟徳は苦笑して、ぐるりと一同を見渡した。
「先刻、孫仲謀から書簡が届いた。――帝を蔑ろにする逆賊に、下る意思は無いそうだ」
「……!」
「陣を張り、戦線の準備を。決して水上で戦が決まると思うな。常に、陸上戦に持ち込めるようにしておけ。……詳しい策は後日検討する。まずは、帝の命に逆らう逆賊を、討伐することを考えろ」
 孟徳は凛とした声でいい、花は呆然とそれを聞いた。思わず視線を投げたのは、本を持つ男の元だった。男は苦りきった顔をして、俯いて声を聞いていた。
 戦になる。
 結局此処が、岐路なのだ。この戦なくして三国は成らないのだから、この戦を物語から消すことは、許されていないのかもしれない。そんな風に思った。
 男は未来を知るだろう。連環を、火計を、戦の流れを。そして本は、それを覆す策を示すだろう。後はそれが、孟徳に聞き届けられるようにすればいい。
 花は視線を孟徳へ戻した。彼の意図が、気になった。花の意見を知っている彼が、既に決まっている答えの前に、述べさせたことの意味を。花の意見を取り下げることで、元々の配下を安心させようとしたのか。花の意見など入れる気が無いと、花自身にもまた知らしめようとしたのか。あのように着飾らせて、賢しい事を囀らせて、愛でるために小鳥を飼っているようなものなのだと、言いたいのか。
 後者ではないように。思うけれど男の表情は読めず、花は僅かに唇を噛み、俯いた。

* * *

 戦支度で慌しくなる中、花は一人与えられた幕の中に居た。本来であれば、蔡徳珪の動きに警戒せねばならなかったが、動く気になれないというのが実情だった。戦と言っても、直ぐにはならないだろう。こちらは大軍、あちらはあのような書状を送ってきて尚紛糾している内部の取り纏めに忙しいはずだ。戦禍はまだ、少し先だ。
「孔明殿。宜しいですかな」
 かけられた声は、落ち着いて穏やかな、知性を感じさせるものだった。花はこの声を知っていた。
「文和殿。……どうぞ」
 入ってきたのは、この戦での軍師を務めることになるだろう男だった。孟徳の元の軍師として、名が知れている男だった。そして同時にその策で、孟徳の命を奪いかけた男でもあった。それほどの才知だ。
「失礼します。先程の軍議の続きとしゃれ込もうかと思いましてね」
「それは、丞相の前でやったほうが喜ばれるのでは?」
「流石に今はそれどころではないでしょう。……先に、色々と話しておきたいこともありましたしね」
 この男もまた、気を緩めることの出来ない相手だった。この乱世で、孟徳を三人目の主と頂く男の世渡りの上手さは、狡猾さと紙一重といえた。穏やかな微笑みは公瑾に似ていたが、鋭い知性を隠そうとしない辺りが少し違う。
 とりあえず、と花が干菓子を卓に乗せる。文和はそれには手を伸ばさずに、花が一つ摘んだところで、それを合図と言いたげに口を開いた。
「先程は、災難でしたね」
 意見を言うだけ言わされて、最初から道は決まっていた。気を悪くするべき展開だったのかもしれない。花はやんわりと、無知であるかのように首を傾けた。難しい人ですな、と一つ笑い返した男は、それでは私が言うことは、蛇足かもしれませんがと前置きして、言葉を繋げた。
「姿は歳若く幼いほどで、笑みは童女のよう。それなのに瞳は智謀を感じさせる深みを帯びて、衣を纏えば天女のようだ」
「……はい?」
「口を開けば声は柔らか、なのにその舌蜂は丞相と張り。語らせれば弁舌は巧みで、黙っていれば見透かされているよう」
「……あの、文和殿」
「そんな女が、丞相の傍に居る。――それは、女と言えば政も戦もわからぬ、華やかで愚かで可愛らしいだけの生き物だと思っている頭の堅い輩にとって、どれだけの恐怖だか、お分かりですか」
 花は知らず、息を詰めた。文和の目は冷たく知性に澄んで、花がそれこそ、頭の悪い女の素振りで逃げることを、決して許さぬと言いたげだった。
「……何をおっしゃりたいのか。それは随分上手く、惑わされているように見えますが。そんな女は、どこにも居ませんよ」
「そうですね。……諸葛孔明という名の幻影です」
 適わないな、と、苦笑が落ちた。同時に作っていた笑みが剥がれ落ちて、文和が満足したように笑うのが見えた。諸葛孔明という、伏龍という知れた名だからこそ、人々は花のあらゆる挙動を過分に受け取ってしまう。そうした帳の向こうに見れば、花はなるほど、危険な女に見えるのかもしれない。
「その幻影を、――傾国の妖だと、言う者が居る。お恥ずかしい話ですが」
「傾国。……なんだか照れますね」
「戯言では済まされないと、知っていてそう言いますか」
「だって私は、私が傾国でも、妖でもないと知っていますから」
 さらりと言えば、文和はやれやれと肩を竦めて、諦めたように本題に入った。
「先程の言。そのような妄言が蔓延っていたと、お考えの上で思い出してみていただけませんか」
「……はぁ」
 妄言は妄言だ。気の抜けた声で頷きながら、思い起こす。さて、と考えるよりも前に、気の早い軍師は答えを明かした。
「先程の。……殿は貴女の意見を退けて見せることで、貴女が傾国でないことを、妖仙でないことを言いたかった。自分は惑わされてなどいない、とね。それと同時に、貴女に公の場で喋らせることで、貴女の才知を知らしめたくもあったのです」
「……」
 納得するような、誤魔化されているような、不思議な気分だった。そう言われてしまえば納得するしかないような、この男に言われても信用ならない気がするような。余り表情を隠す気も無く気の抜けた風に頷くと、文和は期待はずれと言いたげな顔をした。その顔に思わず花は笑ってしまう。
「……なんですか」
「いえ。……丞相のお心遣いに感激して、目でも潤ませれば良かったかなと」
「……」
 文和はあからさまに鼻白み、それから、誤魔化すように苦笑した。彼とてこの時代の人間で、女は愛でられて生きるものだと思っているのだ。一本とった気分で花は気持ちよく笑い、それから、ふと、哀しいような気持ちで、付け加えた。
「私はそんな。……そんな風に心砕かれて、大切に守られて。そんな、女のような幸せが、欲しいわけではないものですから」
 そんな幸せが欲しいのだったら、こんな風に生きては居なかった。
孟徳の後宮の一員となることは、きっともっと、簡単だった。
文和が、してやられたというような、こちらを同情しているような、奇妙な顔のゆがめ方をしているのを見て、花は言いすぎたと自嘲した。
文和は良くも悪くも世知に長けた男だ。此処にフォローに訪れたのも、孟徳の覚えを目出度くしようという策知の元でだろう。そんな男に、聞かせるような言葉ではなかった。
お互いに言葉を失した、奇妙な沈黙――そこで二人は、新たな来客の声を聞いた。
「孔明殿。今、構いませんか」
 花と文和は、顔を見合わせた。計らずして揃った軍師三人で、今後の行方を決める戦についての議が持たれることは、ほぼ確定した事項となったのだった。

* * *

 男は、本を携えてやってきた。
 憔悴したような顔だった。決戦のときが近付いてきている、と言うのは、男にとって余程のプレッシャーなのだろう。けれどその本に従えば、男の願いは容易く叶う。もう少しなのだと、労わってやりたいような気分になった。
「珍しいものをお持ちですな」
 文和は早速興味を示したように、男の手にある書物を指した。こちらの書簡はまだ竹を削って墨を乗せる竹簡が中心だ。その書のように薄い紙を作る技術など生まれても居ない。男は卓に本を広げて、白紙の頁を開いた。
 ここで、やるつもりなのか。流石に驚いて男を見ると、男は疲れて青白い顔で、こちらを見る余裕も無く、じゃらりと駒を取り出した。
「……ほう?」
「占ですよ」
 文和の表情にちらりと侮蔑の色が走るのを、男は見つけなかっただろうが、花は見逃さなかった。こんなやり方では駄目だ、と思う。孟徳をはじめとする彼等はこの時代には似つかわしくなく、なのか、黄巾やらの妖しい類を見てきたからなのか、妖術めいたものに対する忌避感が強い。先程の文和の言葉からも、それが知れた。
 こんなやり方で、文和が納得するとは思えない。どうしたものかと考えを巡らせる花の目の前で、男は花にとって随分懐かしい手つきで駒を振り、そして光は辺りを照らした。
「……なっ、これは……!?」
 驚き慣れていない者らしい所作で文和が息を飲み、花は惑っていた所為で驚いた振りをするのを忘れた。光が収まったとき、白紙は埋まり、そこには呆然と書を見つめる文和と、真っ直ぐに花を見つめる男、そして、――その本を、まるで見慣れたものを見るように見る、花の姿があった。
「孔明殿。……冷静ですね」
 気付いたときには遅かった。花の目線は、読めない字に向けられる視線にしては余りに熱心に、本が示した策を読み取ろうと動いてしまっていた。
「読めるのですか? ……この書が」
「……」
 男の目は、男と最初に会ったときを髣髴とさせる、暗い輝きに満ちていた。花は慌てて首を横に振り、誤魔化す笑みで取り繕おうとした。
 しかし、全てが遅かった。男は嗄れた声で、低く、呻るように言った。
 
「諸葛孔明。……お前は、何だ。何を、知っている?」

 花は何も言えずにただ、首を横に振った。何もかもを知っている。けれどそれは、何も知らないということと、どれだけの違いがあるというのだろう。一人事態が飲み込めずに混乱した顔を見せる文和を間において、白日の下に晒された、そこには、軍師でもなんでもない唯の、異邦人である二人が居るだけだった。
「最初に気付くべきだった、幾ら丞相の並外れた記憶力でも、この本の名まで知っている筈はないんだ。――俺は本を抱えていて、彼は本でなく俺ばかりを見ていた。……曹孟徳は人に興味を持つ英雄だ。お前はそれを、知らなかったのか、孔明」
 畳み掛けるように、叩きつけるように、男は言った。必死で頭を振った。男の言葉より何より、自分の失策を突きつけられることより、男の目が、怖かった。
 裏切り者。
 燃えるような、それは、怨嗟の炎だった。確かに花は彼に、持てる全てを明かすことも出来たはずだった。そうしなかったことで彼が傷付くのを、覚悟していたはずだった。
 タイミングは最悪で、先のことなど何も見えない。
「私、は――」
 貴方と同じ。そう言うには花は、四代ほど遅かった。何も言えない。此処で泣くのはずるいと、判っていた。それこそ先の、愚かで弱い女に成り下がってしまう。それでも涙が出そうになるのは、謀が潰えたからなのか、彼の憎しみが痛いからなのか、それ以外の何かであるのか。花には全てがわかっているはずで、けれどもう、何もわからないように思えた。

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09 合言葉


 江陵の地について直ぐに催された宴会は、戦の始まりを告げるかのようだった。死地に立つことの意味を考える。そして、自らは死地に立たぬということの意味も。自らの策で人が死ぬことも、そして自らは戦では死なぬということも、飽くほどに経験してきたことであったのに、今はそれが妙に重たく感じられた。
「君も出るよね」
 正式に降った身としての、お披露目のようなものかもしれなかった。猜疑の眼差しの中に立って、笑っていられる自信はあった。多くのことはもう、花にとって既知の感覚だ。それでも与えられた衣服の華美さには、流石に少し笑ってしまった。
「これは、軍師の装いではないでしょう」
「そうかな? 君に似合うと思ったんだけど」
 姫のようですと笑うと、孟徳は真面目な顔で俺の姫だよとのたまう。ふざけたことをと一蹴すると、孟徳はより可笑しそうに笑った。
「君、どんどん遠慮がなくなってきてるよね」
「そうでしょうか?」
「うん。文若みたいだ……じゃあ、どんなものなら着てくれるかな。ただの文官の装いなんて駄目だよ。君は女の子なんだから」
「……丞相」
「あ、おんなのひと、ね」
 軽く睨むと、笑って訂正する。孟徳との会話にも大分慣れて、言葉は軽く、柔らかくなる。その近さは確かに孟徳と花の距離ではあったが、孟徳が何を思うのか知ることは、まだどうにも難しかった。
「そこまで仰るのでしたら、……多少の装飾は構いませんが。軍師としての体裁を保つものでお願いします」
「まぁ、そう言うと思って」
 孟徳は行李の中から、下に重ねられていた衣装を取り出した。淡い桃色に細かな花模様の刺繍が散る上着は、華やかではあるが落ち着いた色使いで、形も文官がまとうものに乗っ取っている。
「これなら、受け取ってくれるよね。あとせめて、簪と耳飾、軽い化粧くらいはして来てね」
「……」
「まだ不満なの。我侭だなぁ」
 唇を曲げる孟徳はこれ以上の妥協点を許さぬようで、花は諦めて頷いた。玄徳軍での花は「孔明」で、華やかな衣装にも装飾品にも無縁な生活を送っていたから、いまいち勝手がわからない。そもそも本の無茶で女だてらに軍師で居られているが、官吏として女が出るなどありえない時代だ。宴に出る女は侍り女か女官と相場が決まっていた。
 孟徳が去った後、贈られた布をふわりと広げる。明らかに手触りの違う高価そうな生地を使い、細かい刺繍も高名な職人の手によるものだろう。結局のところ、気に入りの玩具を着飾らせて見せびらかしたいのだ、という気もした。
 着替えの補佐のために、二人の女官が部屋に入ってくる。江陵にもともと居たものなのか、目に刺々しい色は無かった。手馴れた様子で花を着飾らせていく。
「……孔明様」
「はい?」
「戦に、なるのでしょうか?」
 女官の声は暗く沈んでいた。戦になれば土地が荒れる。結局のところ、誰が統治者かという話は、庶民にはさして関係の無いことなのだった。孟徳の支配下に入ったとして、この土地を治めるのは孟徳自身なわけではなく、彼の派遣した官吏ということになる。その官吏が有能、もしくは民に害を及ぼさないものであれば、その上に誰が居ようと雲の上の話なのだ。
「どうでしょう。なんにせよ戦場は、長江沿いになりますけれど。烏林のあたりに布陣することになるかと思います」
「そうですか……」
 女官の愁眉は晴れなかった。花は苦笑して、これも役目かと、やわらかく笑う。
「大丈夫ですよ。荊州は立地上、どうしても騒がしくなるでしょうが――長いことでは、ないですから」
 三国鼎立が成れば、ちょうど間に位置する荊州は、常にきな臭い戦火を伴う地になってしまう。けれどここで大勢が決すれば、荊州はひとつの要所にすぎない。
「大丈夫です」
 半ばは自分へ向けて言うと、女官は僅かに安心したように笑った。それに花も安心して、ほのぼのとした空気が流れた所で、外から無骨な声が花を呼ぶ。
「支度は出来たか」
 元譲だ。花は鏡で簪の位置を確認すると、立ち上がる。紗が擦れてさらりと音を立てる。
「お待たせしました」
 女官が先立って扉を開け、裾を踏まないように気をつけながら歩み出た。元譲が軽く眼を見開く。
「おかしいですか? 着慣れないもので」
「いや、――確かに、文官としては可笑しいかもしれないが。よく似合っている」
「そんな事も言えたんですね」
「……お前、孟徳に似てきただろう」
 元譲の言葉に、首を傾ける。文若に似てきたと、孟徳に言われたことを思い出したのだ。影響されやすいのか、順応性が高いのか。僅かに笑うと、そんなところもだ、と苦り切った声で言われて、噴き出すのをこらえるために着物で口元を押さえなければならなかった。

* * *

 宴は既にはじまっていて、広間からは酔っ払いならではの喧騒が聞こえてきた。元譲に伴われて広間に立つと、視線が集まってくる。僅かな驚きと、嫌悪と、好奇と。どれもこれも、身に覚えのあるものばかりだ。視線を前に向けると、最の上座に、いつもの赤い着物を纏った宴の主の姿がある。
 隣が不自然に空いた、その空間が誰のためにあるのかは明白で、花は思わず苦笑してしまった。本当に、お披露目をするつもりなのだ。
 ここで転んだら大事だなぁ、と思いながら、元譲に示されてそこに向かう。孟徳はもう出来上がっているのか、すっかり目尻の垂れた緩い笑みを浮かべていて、笑ってしまいそうになった。どこにでもいる好色な若者にしか見えない。
「申し訳ありません、遅れまして」
「いやいや、真打ちは最後に登場するものでしょ――よく似合ってる。かわいいよ」
「……かわいい……」
「何不本意そうな顔してるの。さ、とりあえず飲みなよ」
 孟徳は気易く盃を酒で満たし、花の方へ差し出した。あり得ないことだ。思いながらも、盃を受け取る。舌を焼くような辛みとすきっとした芳香は、孟徳が製造法を改良したと言われている新しい酒か。多趣味な人だよなぁ、と思いながらふと顔をあげると、孟徳がじっとこちらを見つめていた。
「……なにか?」
「んーん。……ずっとそういう格好してればいいのになぁ」
「それは、無理でしょう」
「どうかな。……その格好で戦場に立ったら。君は勝利に導く天女のように見えるだろうね」
 孟徳は夢見るような口調で言った。とろんとした眠たげな眼で、眩しいものでも見るように花を見上げて。
「君は、我が軍にとっての何になるのかな」
 軍師でしょうと、返すことができなかった。左腕が、こちらに向かって伸ばされる。今は隠された、戒めの傷痕。花は思わず、その手を掴んだ。
「勝利の擁護者。――それは、私の役割ではありません」
 柔らかくその手を包みながら、それが私の役割だったらどんなに良かっただろうと、思いながら。
 宴席で、こちらも普段の異装ではなくて文官服を押しつけられ、居心地悪そうに盃を傾けている男に視線を投げて。
「神か仙か、……それは恐らく、彼でしょう」
「――どうして、そう思う?」
 きらりと、酒に濡れたのではない目の光らせかたをして、孟徳は花を見上げた。花は笑って答えた。
「知っているから、ですよ」
 酔っ払いだからと、流したわけではない。なぜ言ってしまったのか、自分でもわからない。それでも不思議と、やってしまった、という気持ちは湧いてこなかった。孟徳は目を瞬いて、それから、ふっと緩く息を吐くように笑った。
「それを知っている君は、やっぱり俺からすれば、天の使いに見えるけどね……ねぇ、だとしたら」
 花が包んだ左手で、孟徳は花の手を掴んだ。
「君はいつか、天に帰るのかな?」
 花は笑った。遠い昔に交わしたならば、運命のような会話だっただろう。けれど今はただ空しい繰り言でしかない。二代前の私ならば、そうならばいいのにと返したかもしれない。今はそんな望みはなく、真の望みはもうすぐ近く、目の前の掌の中にあった。

* * *

「なぁ元譲――彼女はやはり、神ではないのかなぁ」
 宴も更けて、彼女は既に下がっていて。他の女を近付ける気にならず孟徳は、元譲とともに盃を舐めた。
「知らん」
 対する元譲が冷たく言うのを、孟徳はすっかり過ぎた酒の、心地よい酔いとともに聞く。
「知らん、って。それじゃあ、そうであること自体を否定してないよ」
「否定するつもりは、ないからな」
 見た目も中身も無骨な男が、そんなことを言うので驚いた。問うように目を向けると、一口酒を舐めてから、元譲は訥々と言葉を紡いだ。
「あいつはたしかに、得体が知れん。妖しの類か、神仙なのかは知らんが――そのどちらでも、おかしくはない。そんな気がする」
「うわぁ、元譲がそんなこと言うだなんて。これで文若も同意したら、完璧だ」
「何が完璧なんだか知らんが」
「それくらいに――彼女は異様だということさ」
 孟徳はうっすらと笑い、盃を乾かした。元譲は薄ら怖いような気分になって、目を眇めた。孟徳は笑ったままに、夢見るように、呟いた。

「彼女が神なら――堕とすのもまた、一興だろう?」

 元譲は飲まれるような気持で、その言葉を聞いた。この表情で、この口調で。孟徳の一つの面が現れ出でて、恐ろしいように感じられる、それは冒涜だった。彼は何も信じない。それはこの世のすべてに対する不敬であり、この世のすべてに対する、疎外だった。














(次回はカク←何故か返還出来ない が大活躍です。ほぼおりきゃらじゃねーか。)

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08 何度も呼ぶ名

 男はそれから、よく、花の元を訪れるようになった。
 彼は不安なのだろうと、哀れに思った。そうして自分は恵まれていたなと、しみじみと感じた。玄徳軍は小さな集団らしい親密さがあり、なにより玄徳という人はとかく、今では花の心労の種になるほどに、人に優しい人物だった。
 男に、どういう縁で孟徳の元に入ったのだと訊ねたのは、雲長に関雲長が、花に孔明が居たように、頼るべきものがいたのではないかと思ったからだ。
 問いに男は、顔を歪めた。
 郭奉孝の名を聞いたときに、漸く全てを了解した気がした。とかく才気走った男だったという、花は一度もまみえた事のない彼は、曹孟徳に重用された軍師であったが――今は既に、病で儚くなってしまっていた。
 彼の望みは。
 本当の彼の望みは、曹孟徳が嘆いたとされるままに、郭奉孝を赤壁の地に連れて行き、そうして勝利を得ることだったのだろう。しかし、戦で命を落としたとあらば幾らでも策で防ぐことが出来ようものだが、病とあっては相手が悪い。男が医師で、あの時代の知識と薬を持っている、それくらいの奇跡が必要だ。
 だとしたら、彼の望みは、最早代替に過ぎないのかもしれない。
 郭奉孝となって勝利へ誘うことも、恐らく自らには過ぎた使命だとして、こんな風に裏の手を――この時代の、名ばかりが先行している孔明を、捕らえてしまうような無茶をして。
 郭奉孝を喪って、曹孟徳に幻滅して。
 男はもう、この世界に絶望しているのかもしれない。それでも彼が帰っていないのは、最初の希が彼を縛り付けるからだ。空白の頁が彼を阻むからだ。
 郭奉孝。彼はその名を何度、苦しみの中で呼んだだろう。叶わぬ願いを叶えろなどと、無体な事を言う本を恨んで。
 そうして、赤壁の。
 訪れるかも定かではないあの時を越えるまで、彼の望みは果たされない。それを悟れば満足して、花は男に向かって、慈しむように柔らかく温かく、微笑んだ。

* * *

 仲が良いと聞いたよ、と。
 不貞腐れた様な声を出して探る孟徳に、花はええ、と誤魔化すことなく頷いた。
「見識の広い方のようで、話していると勉強になります」
「へー。君でも?」
「勿論です。全てを知ることなど、一生を何度やりなおしたとて、出来ることではありませんから」
 未知のことばかりですと笑えば、孟徳は奇妙な顔をした。なにか訝るような顔だ。可笑しなことを言っただろうか。
「……まぁいいや。それで、それじゃあ、俺の元の二つの才知は、この状況をどう見るのかな」
 花が男と話すようになってから、奇妙なもので、孟徳は二人を信用し始めたらしい。異邦人と他国の軍師が関係を密にしていれば、真っ先に内通、裏切りが疑われそうなものだが、孟徳は不思議とそうは思わないようだった。
「この状況、とは」
「頭の悪いフリは良くないなぁ。……ま、蔡徳珪が使えるかって話になってくるのかもしれないけどさ」
「公瑾の手による水軍とは、比べようもないだろうとしか。幾ら数で勝っても、水上戦は厳しいかと」
 端的に答えると、孟徳はだよねぇと頭を掻いた。玄徳軍と共に荊州に駐屯し、徳珪という男と荊州水軍を見てきた臥龍が言うのだ。孟徳は困った顔をした。
「こうなっちゃうと、此処を獲れたのは良かったけど、玄徳を逃がしたのが痛いなぁ。孔明、君どんな献策をしてああなったのさ」
「言うとお思いで?」
「言ってくれたらいいなー、ってだけ」
「裏切りは流石に、余りに人の道を外れるでしょう」
 裏切りか、と、孟徳は少し寂しそうに呟いた。花は済ました顔で、それよりも、と、話題を変える。
「政について、話しませんか」
 変えたようで、変えていない。孟徳は目を瞬いて、珍しいねと一つ笑った。花は茶を啜りながら、ぴ、と指を三つ立てる。
「国を成り立たせる三つのものは?」
 言葉遊びか真面目な語りか、捉えかねるように孟徳は首を傾けた。
「国を?」
「はい」
「……それは例えば。漢という意味かな」
「それでも、無論」
「なら、一つは簡単だ。帝だろ」
 孟徳は不敬とすら取れるごく軽い口調で、その単語を放り投げた。帝。花は少し考えるように眉を寄せて見せ、難しい顔で頷いた。
「半ばあたり、ぐらいでしょうか。では、あと二つは」
 遠い遠い、四度の生の向こう側の世界を思い出しながら、花は訊ねる。成人前の子供が誰でも知っている考え方だと、知ったら孟徳は驚くだろうか。この時代では、義務教育など、考え及びもしないだろう。及んだとしても実現出来ない。
「あと二つ。……国、かぁ」
「はい、国です。……残り二つは、国でなくても持っていますが」
「国でなくても? 国でないもの?」
 ってなんだ、と、孟徳は眉間に皺を寄せた。ヒントのつもりが、かえって混乱させたかもしれない。
「国でないもの、……帝は国にしか居ないけど、残り二つは国じゃなくてもいい。帝が居ない、……」
 花はゆっくりと、笑みを深めた。
「国には帝が居て――そうだな、あとは、民か。崇めるものの居ない神は居ないのと同じだ。民と帝は、揃って国か。とすると後は……領土かな?」
「はい」
「帝と、民と、領土か。確かに三つ揃わなければ、国とは呼べないね。民と領土だけがあってもそこは唯の無法の集落だ。帝と民しか居なければ流浪だ。帝と領土だけがあっても、誰が帝と認めるだろう?」
 本当は帝ではなく主権だけれど、君主制しかない時代だ。主権の在り処を考えれば、同じようなものだろう。頷く花の前で孟徳は一人考えを纏めるように呟いて――それから、かたりと首を傾けた。
「……なにか?」
「いや。……うーん、どうなんだコレは」
「だから、何がですか」
「帝と、民と、領土。今その全てを持っているのは、俺だけだね。玄徳には、中山靖王の末裔とかいう自称によって帝たる建前はあるけど、帝になる気はないだろうし、行軍についてくるような民は居るけど、領土は無い。孫家には、孫仲謀が帝を名乗らぬ限り、民と領土があっても帝が居ない。だから俺は官軍で、玄徳と仲謀は逆賊だ。……当たり前の話だね」
「そうですね。帝と民と領土がある。この中華の地はそれで、一つの国です」
「一つの天下か。……それはつまり、玄徳に領地が、仲謀に帝があれば、それらはそれぞれ一つの国ということかな。そうして天下は、三つになる」
「空論ですよ」
 花は穏やかに言って笑った。
「玄徳は領土を奪った瞬間に徳を喪う。仲謀は帝を名乗った瞬間に大義を喪う。それだけのことです。いくら論を立てようとも、この中華に帝はひとりしか居ないのですから」
「……それが君の、戒めか」
 孟徳は楽しそうに笑った。献策と呼ばぬ辺りに配慮を感じた。花は頷くこともなく、ただやんわりと微笑んだ。玄徳に領土を与えるな。仲謀に帝たる名乗りを許す名分を与えるな。
「それさえ守れば、玄徳にも仲謀にも、逆転の手はない。そういうことかな? ……玄徳はいい。揚州の都督にはそれで足りるだろうか」
「それは私にはわかりません」
 花があっさりと言うと、孟徳は苦笑した。これ以上は言わぬとの意思表示を汲んで、それでも孟徳は言葉を重ねた。
「あの食えない男が何を考えているのか、俺にはわかる気がするよ。彼の中には、孫家二代の亡霊が居る。――いや、一人の友の亡霊が居る、が正しいのかな。中原制覇を唱えた声を、彼は忘れられないんだろう」
「詮無い夢です。長江以北を統べた貴方と、揚州一つの彼との間にできる溝は、時が経つにつれて大きくなる」
「待て、と?」
「出来るならば。……降るとは、言ってきませんか」
「そうだね」
 孟徳はゆっくりと茶を啜った。こうして話をする花は、もはや孟徳に降った軍師だ。これが、『彼』が歴史を変えた結果と言えるのか、花には判断がつかなかった。
「……揚州は議会の国だ。今彼等が降伏の意思を見せれば、俺はそれを受け入れて、彼らに地位を与えて、体面上は変わらぬように揚州の地を任せることになるだろうね」
「そうでしょうね。野望は潰えても、孫家は残る」
「対して、戦になって彼らが負ければ――首が飛ぶ」
 抗うのか降るのか。元々豪族による議会の意思決定力が強い揚州では、孟徳が北を攻めて以来、その議論が紛糾しているだろう。諸葛孔明であった花は、過去の世界で議論の最中に説得へ赴き、彼らを戦へ導いた。
 孔明の居ない世界で、どうなるのか。花はそれを知らない。孟徳と同じように、予測することができるだけだ。
「例えば周公瑾は、決して降ることを良しとしないでしょう。玄徳の元へ使者として赴いている魯子敬もまた」
「戦力差は圧倒的だけど?」
「周公瑾は、自らの水軍に、自信を持っているはずです。対してこちらは、荊州の水軍が居るとはいえ、圧倒的な兵力は水上戦を経験していない者ばかり。勝機があると見ても可笑しくはないかと。……周公瑾は、怖い男です」
 孟徳はちらりと笑って、探るように花を見た。
「知っているような口ぶりだね?」
「話に聞いているだけですよ。……兄が、揚州に居りますので」
「ああ、そうだったっけ。……降ってくれれば、楽なんだけどね」
 楽という言葉とは反して、つまらなそうに孟徳は言った。とにかく、と、仕切りなおしの言葉を吐いて、孟徳は言った。
「江陵へ移動するよ。あんまり待ってあげるわけにもいかないからね」
「はい。……確かに数は圧倒的です。圧力にはなるでしょう」
「君は、どうする?」
 花は目を瞬いた。この話の流れで、花を置いていくという選択肢がこの男にはあるのか、と、不思議に思った。というよりも、花の意思を聞くということに驚いた、というほうが正しいだろうか。
 戦場に連れて行くのは危険だ、と言うなら判る。花は孟徳から得た情報を元徳の元に流すかもしれない。若しくは、軍師として連れて行く、というのもまた、理解は出来る。花が本当に降ったのかを試す機会にもなる。
「伴ってくださるのであれば」
 孟徳が何を考えているのかは判らないが、花の意思は最初から決まっていた。孟徳の人生に係わると、決めたのだから。
「そっか。じゃあ、そのように手配して置くよ。……軍師が居るのは、心強いしね」
「賈文和殿が居るでしょう」
「知は、あればあるほどいいだろ。ああそうだ、それならそれこそ、文和にも紹介しないとねぇ」
「よろしくお願いします。……そういえば、あの方は」
 自分だけ言っても仕方が無い。花は慌てて問いを投げた。物語を変えるのは、彼なのだから。
「ああ、勿論。是非にと、しつこいくらいに煩いし」
 それはそうだろう。空白の頁。彼の悲願の時だ。
 花が安堵の表情を見せると、孟徳はまた、最初の不服そうな顔をした。
「……ほんと、彼のこと気にするよね」
 花は思わず苦笑する。真実を告げるわけにもいかず、孟徳の機嫌を損ねるのは嫌で、どうにもこの件だけは難しい。
「弟を、」
 言い訳として、出てきたのはそんな言葉だった。
「見ているような気がするからでしょうか」
 弟というか、自らの過去というか。それは咄嗟に出したにしては存外花の心境に相応しい言葉で、花は満足して少し笑った。孟徳はそんな花を見て、それならいいけどね、とまだ不服そうに一つ、頷いたのだった。













(郭嘉が好きだー、という主張?)
(色々と適当なので、突っ込まれると困るのですが、きっと今更だし皆様大目に見てくださるでしょう……多分……)

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07 白なのか紅なのか

来客に供えて、見張りの兵士に茶のための湯を言付ける。
そのときに、数日前に侵入者騒ぎがあったと聞いた。護衛がつくようになってから、花の元に届く近況はすべて数日遅れだ。時期的に子龍だろうと見当をつけ、もう戻れないのだとすこし思った。なんの感慨も、抱かずに。
湯を持ってきた護衛が丁度よく訪れた客人を部屋に通す。孟徳からも言付かっているのだろう。黒い洋装の男は警戒するような眼差しと共に、軽く頭を下げた。
「丞相に言い付かりまして。お話があるとか」
立ったままに礼をとる男に、花は柔らかい笑みを向け、椅子を勧めた。
「どうぞ。……私は捕虜の身です、礼など必要ありませんから」
男が座るのを確かめて、茶器をそろえて茶を淹れた。男は僅かに眉を顰めた。捕虜の身と言いながら、この時代には高級品である茶を淹れる矛盾を思っているのだろう。男の前と、自分の前と。茶を揃えた所で、男の向かいに腰掛ける。
「異国の方と伺って。……それと、面白い書を、お持ちと聞いて」
無論、そんなことは聞いていない。男の目が見開かれるのを見ながら、畳み掛ける。
「九天九地、でしたか? 九は限りのないことを現す数字。どのようなことが書かれているのか、興味を持ちましてね」
丞相に無理をお願いしてしまいました、と。小首を傾げて笑う。男は呆然とこちらを見た後――二度の瞬きで表情を隠し、一口茶を口に含んだ。次にこちらを向いたときには、すっかり気を落ち着けたように見えた。
「私の国の書ですよ。軍略の書ではありますが、かの伏龍が気になさるようなものではありません」
「軍略の。そんな風に言われてしまったら、一層気になってしまいます。……九天九地。広がるこの世界の全て。――そんな題を冠した軍略の書とは……まるで、まるで、すべての答えを教えてくれる、予言の書のようですね?」
孔明の知と感嘆するか、それとも――なにか、知っていると見るか。
あの頃、花が同じ書によってこの世界に連れてこられ、何もわからないままにあの書に願っていた頃――心には消えない不安があった。この書は一体何なのか。どうすれば、元の世界に帰る事が出来るのか。
花は今、答えを持っている。簡単に、彼に渡してやる気はないけれど。
「……、……たしかに、あの書は、私に軍略を授けてくれる書です」
男の声が、惑うように揺れた。
「けれど、なにも。……私は何も知らないのです。あの書について。ですから、何も、語ることは出来ません。そしてあれは、私にとって、唯一、国から持ってきたものなのです」
(あ、しまった。牽制された)
話の主導権を握って、驚かせ怯えさせて、一気に聞き出してしまおうと思ったのだけれど、どうやら、急ぎすぎたらしい。
(取り上げたり、しないのに)
もう、あの本を手にしても、何の意味もない。しかし今の言いぶりでは、こちらがその書を欲しがっていると思われても、不思議ではないだろう。慌てて手を振った。
「ええ、ええ。大切なものだとは、存じています。ほんの少し、見せていただこうと思っただけなんです」
見て、表紙の色を確認することが出来れば、充分だった。彼がもう果たしたのか、それともまだこれからなのか。それさえわかれば、中を見る必要すらなかったのだが。
「私の国の言葉で書かれた書です。畏れながら、貴方といえども読むことは叶わないかと」
「そうですか、……残念です」
失敗した。最初からうまく孟徳から書のことを聞き出し、持ってきてもらうように話を持っていくべきだった。花は心底の落胆と共に溜息をついた。さて、それならば。
「でも、ということは、言葉も違うところから来られたのですね」
「はい。この辺りではあまり知られていない地ゆえ、どちらからということも難しいのですが。東のほう、というくらいしか」
「私も旅は長いつもりですが、貴方の着ているようなものは見たことがありませんね。私の知らない世界がまだあるというのは、不思議な気分です。いつかは訪れてみたいものですが。東ということは、楽浪郡の先か、はたまた海の向こうでしょうか」
問うと、男は困ったような顔で黙った。海の向こうであることは確かだが、訪れることの決して出来ぬ地だという思いと、その地に帰れるのかという思いが交差したのだろう。気付かぬ振りで、首を傾ける。
「とかくそのような遠くから――何故この地へ? いえ、私も旅は長いですから、目的など確たるものでないと知っています。けれど、だからこそ」
主を決めるには、確たる何かが要ることも、知っているのです。
彼の願いを、なによりもまず、知らねばならなかった。期限を知り、触れられる範囲を知る、そのために。
こちらには沈黙を通すことを許さずに静かに男を見つめると、男はゆっくりと、口を開いた。
「……曹孟徳を、英雄と見たからです」
それは、本当であれば、こんな口調で言われていい言葉ではなかった。
本に願った男が、自らの希の主を口にするのに――なぜこのような口調になるのか、花には、わからなかった。
(予測していた、……曹孟徳に覇者たれと願うのだろうと、その程度は)
赤壁の大敗さえなければ、曹孟徳は中華を統一する王となっていただろう。
赤壁を為したのは呉蜀の同盟が為ったからであり、孔明が子瑜を頼って呉に働きかけなければ、赤壁の戦自体が存在しなかった可能性は高い。そうすれば曹孟徳の天下など、容易く望むことが出来る。
だからこそ花を――孔明を捕らえ、逃がさぬように言い募ったのだろうと、その程度は。
(けれど、)
花は目の前の、どこか苦悩するような顔の男を仔細に眺めた。その全てを計って、元となる思いを掬い取らなければ為らなかった。
(どうして、――すべてはもう直ぐ叶うのに。彼の願いが「そう」であるのならば、もう、成ったも同然だというのに)
何を惑う。何に惑う。
「英雄、ですか。……乱世の奸雄。彼こそが、天下の覇者だと、……貴方は、そう見たということですか」
見えない。探るために言葉を紡いだ。孟徳麾下のものであれば、頷くしかない、愚かな問いだ。
けれど彼は瞬くだけの時間を置いたうえで、ほんの僅かに、頷いただけだった。

(ああ、そうか)
(そういう、ことか――)

曹孟徳。この世界の曹孟徳は、確かに曹孟徳であるけれど。
それが、彼の「曹孟徳」足りえるのかは――わからない。
(それでも、貴方には、目的を、果たしてもらう。……彼の天下を、築いてもらう)
(そうして、私が、彼の傍に居られる世界を、作ってもらう)
彼は惑う。惑ううちは、彼は戻ることが出来ないだろう。彼が望みを確かに持てぬうちは。
曹孟徳の天下に、諸葛孔明の居場所を作る。花のその目的のために――彼をうまく、使わねばならない。

(惑えばいい。惑ううちは、逃げられない)

そうして彼が取り込まれても、花の知る由のないことだ。
ただひととき。曹孟徳のために、この一生を足掻くと決めてしまった。
そのお膳立てをしてしまった彼が、花のせいでどうなったとしても、結局のところ因果だろう。

(貴方が要らないのなら、この英雄は、私が貰う)
(貴方のかわりに。貴方となって。私が、彼を、覇者にしよう)

ゆっくりと、笑った。目の奥に、紅の衣が翻る。
この世界に来たときの、白い光の向こうに見たものが、なんだったのかなどもうわからないけれど、何を願ったのかなど忘れたけれど、忘れたからこそ今、こうして願えるのだと思えば――目の前の男が哀れで、自らの非道さに、ただ、笑うことしか出来なかった。














(実際、憧れた曹孟徳があれだったらちょっと嫌だ。/ぇ)
(本は望む世界になるかなーと思うんですが、その辺りは物語の都合上、都合よく。)

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