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姫金魚草

三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト

   

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関雲長 (壊れやすいその後)

(どうしようもない蛇足です)
(あたりまえのように死ネタです)


今この場にいることが、関雲長という男の生き方の惰性の産物なのか、それとも自らの意思であるのか、雲長にはよくわからなかった。
目立つ愛刀と長髪を、襤褸の布で包んで隠して。浮かれた街の人込みに紛れてしまえば、自分がかの関雲長であるということに、気付くものはいなかった。
劉玄徳と張翼徳。二人の、自らの命とも言える義兄弟を喪って、一人残される。そんな世界に、生きたことは無かった。物語は、如何様にでも変わりうる。本の持ち主の希によって、どんな風にでもなりうると知っていた。それでも、今までの、何度とも知れぬ生のうち、雲長が最後の一人になってしまったことなど、無かったのだ。
関雲長なら、どうするか?
考えるよりも先に自らの動きがわかる、というのは、最早その数百年の経験の賜物としか言えなかった。関雲長は、最早この身と同化しているかのようにも思えた。
けれど、その想いが強くなればなるほど、相反するように、この身が偽者である、という思いもまた、強くなるのだ。
「……」
しかしその痛みにも慣れて、ありとあらゆる感覚に鈍くなっていく身体と心が、擦り切れる日もまた近いかもしれない。思っているよりも恐らくは、ずっと早く。
うっすらと眇めた視線の向こう。許都で一番大きな通りは、今、厳戒な警戒態勢が敷かれている。集まる民は、祭の雰囲気で浮き立っていた。
――長らく続いた、乱世の終わり。
最後まで叛旗を翻していた、反乱の一族、涼州の征伐を終えて、曹孟徳が凱旋する。その行進は恐らくとても壮麗で、まさに覇者たる風格であるだろう。
(……そして、恐らく、その隣には)
きつく、刀の柄を握り締めた。憎いのか、哀しいのか、案じているのか、――恋しいのか、判らない。
(諸葛孔明、曹孟徳の軍師、――花……)
居るはずだった。
自分が、仇討ちに、つまり曹孟徳を討ちに来ているのか、それとも。
それとも、――彼女を殺しに来ているのか。どちらなのか、そのときを直前に迎えた今になっても、判然としなかった。

* * *

凱旋の行進は、壮麗であればあるほどいい。
孟徳が実はこの手の儀式めいたことを好まないのは知っていたが、乱世の終わりを、圧倒的な勝利を知らしめるためには、やはりなくてはならないものなのだった。
孟徳は最初面倒そうな顔をして渋っていたが、花が仕方なく隣に立つことを認めると、一転してやる気を見せ、言った。
「それなら君も、きちんとしたものを着てくれるね」
いいながら差し出されたのは、宴のときから全く懲りていないことを伺わせる、煌びやかな着物だった。それこそ、例えていうなら花嫁衣裳のような。
「ちなみに今回は、あの時みたいに二の策は準備して無いからね。なにせ急な話だし?」
「……私に嘘はつかないと言っていたくせに」
「準備してないのはほんと」
にっこりと笑う男が恨めしい。
けれどもう、勝利の軍なのだ。魏を勝利に導いた諸葛孔明が女であるという話は、もう広まっているだろう。ならばそれはそれでいい効果を上げるかもしれない、と、花は溜息と共に頷いた。

花と荀公達が手配した凱旋の軍は、これ以上なく華やかなものとなった。
勿論、警戒の態勢もぬかりは無い。勝ったということは、負けたものがいるということもであった。そしてそれらは、死んだ者達を背後に背負って、なにを為すとも知れない亡霊のようなものでもある。詰め掛ける民を兵士達が押し留め、広い道を騎馬がゆっくりと進んでいく。
孟徳の隣には、孟徳と揃いの華やかな紅の着物を纏った花が横乗りで付き添う。そして、近衛の体調である許仲康が控えており、回りはその手勢のものが囲んでいる。孟徳は花が見惚れるほどに、堂々とした王者の風格で歩んでいた。
――この行進を見た、全ての者が、孟徳が王者であることを疑わないだろう。
そのように、なってしまった。そういう風に、運命という巨大な球体は、転がりだしてしまったのだ。誰が仕組んだわけでもなく、誰が求めたわけでもない。歴史とは、そういうものだった。
もう、誰も、孟徳の歩みを止めることはできない。そもそももう、歩む必要がない程に、高みに辿り着いてしまったとも言えた。
安堵するような、なにか、詰め寄られてでもいるような。相反する気持ちを抱えた花が、そのさっきに気がついたのは、恐らく、――その人物の空気を、誰よりも長く、知っていたからだった。
「……仲康!」
花の叫び声と、巨体が孟徳の前に飛び出すのは、ほぼ同時だった。護衛の兵士を紙切れか何かのようになぎ倒す、青龍偃月刀。歓声が悲鳴に変わり、華やかな場に余りに似つかわしくない鉄の香りが、辺りに広がる。
(……関雲長!)
ばらりと布が解けて、その特長的な黒髪が、風に靡く。こんなときだというのに、見惚れてしまいそうになる髪だった。孟徳の顔が戦時のときのように厳しくなり、同時にその唇が、これ以上ない程凶悪に吊り上がる。
「雲長! 成程、玄徳の仇討ちに来たか!」
「曹孟徳……! お前だけは、この手で討つ!」
振り上げた刀はしかし、孟徳と雲長の間に立ちふさがる巨躯の男、許仲康の大きな刃に阻まれた。
ギィン、と、鈍い音が響く。そしてこの場で、一瞬でも動きを一人に制限されるということは、雲長にとっての死を、当たり前に意味していた。
取り囲んだ兵――その圧倒的な数は、いくら関雲長であっても、蹴散らすことが不可能な数だった。それでなくても、目の前には孟徳軍きっての武を誇る仲康がいる。雲長もまた、当たり前に、死を予期しての――若しくは、死を望んでの、行為だっただろう。
それを――雲長が何を思ってこの場に来たのかを想えば、ただ痛みだけが花の胸に去来する。知らず顔を歪めた花を、唐突に、雲長の視線が捉えた。
(……え?)

その、瞳。
瞬間に、死を、覚悟した。

「……っ!」
思わず目を閉じた。
しかし、雲長がその長い刀を振り上げるよりも、雲長の身体を、幾重もの刃が貫くほうが、はやかった。
刀が肉を刺し切り裂く音。花が目を開けた先で、雲長は、不思議な眼差しで花を見つめていた。
なんと言えばいいのか、わからなかった。圧倒的な憎しみと――それ以外の、なにか、どうしようもなく切なくなるようなもの。
「……英傑、関雲長の死、か」
返り血を頬に受けて、孟徳は静かに呟いた。
「乱世の終わりに、相応しい華だった。……その名は恐らく、後世まで残るだろう」
混乱の中で、孟徳と、花だけが静かだった。孟徳がなにか指示をしている。恐らくは、敵将としてではなく、丁寧に葬るように言っているのだろう。曹孟徳は、関雲長という英傑を、誰よりも認める男でもあると、知っていた。

* * *


死にに来ている。
愚かだと思うより先に、曹孟徳と、――まるで揃いのように紅い、壮麗な着物に身を包んだ花を見た瞬間、身体が動いていた。突き上げてくるものが、燃え上がるような、どろどろとした、憎しみだと、知っていた。
血が飛び散る様が、紅い花が咲くように見えた。雑魚を散らして辿り着いた先の、曹孟徳に、刃が届かないことを知っていた。
物語は、もう、変わらない。
阻まれる刀の感触は、ひやりとした死の予感を伴っていた。髪が乱れ散る。何処で死ぬことになろうとも可笑しくない命だった。せめて死に場所は、自分で選んだと思いたい。思いながら、諦念と共に視線を下ろした、その視界に。
鮮やかな赤。
(……花、)
なにか、哀れむような目でこちらを見る、女の姿が、飛び込んできた。
(……、……花……?)
目を見開いた。この場にいる着飾った女は、諸葛孔明以外の誰でもありえないはずだった。
それなのに、その姿は、雲長の知る諸葛孔明――花の姿とは、余りに、違っていた。
自分たちは同じものだった。同じ世界から来て、同じ運命を辿り、ゆるやかに擦り切れて息絶えていく、亡霊のような人形のようなものだった。そうである筈だった、そうでなければ、可笑しかった。
そうでないなど、許せなかった。
花は、美しく着飾っている、というだけでは説明出来ない、眩いような姿をしていた。
それは、生きているものの、光だった。
(何故、……何故だ)
雲長は状況も忘れて、花の顔を呆然と見つめた。どうして。
どうして、……何処で。
(どこで、彼女と俺は、違ってしまった?)
思った瞬間に、雲長は自らの心のうちにある、このどうしようもない憎しみ、殺意、そういうものが、曹孟徳ではなく、花に向いていることを認めた。

(これは、嫉妬だ)

認めた瞬間に、煮え滾った想いが溢れて、身体が動いた。花が目を閉じる。ほんとうに、殺してしまう。そう思った。

痛みは、感じなかった。

ただ、ぼんやりと世界が拡散していくような感覚があった。終わりが来たのだ。目を閉じれば、またはじまる、つかの間の終わりが。
(ああ、……どうか)
目を閉じれば、終わってしまうから――雲長は最後まで、目を開けていようと思った。花の姿が、どうしようもなく眩しい。この姿を、焼き付けておこうと思った。
焼き付けて――出来る事なら、次の始まりまで、きちんと覚えていようと。何かが変わることを、性懲りも無く希望というものを抱かせてくれる眩い姿を、覚えていようと、そう、思った。














(個人的にはこのあと、つぎの雲長の巡りで雲長×芙蓉姫になるんですが、それこそ誰得なネタですね、わかります。)(どうみてもオンリー私得です本当に(ry)

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