姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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やさしいよるに (孔明)
少し、眠っていた。
浅い眠りから覚め、ゆっくりと瞼をあげると、孔明と眼が合った。優しく下ろされた眼差しになぜだか恥ずかしくなって、布団に潜るようにして顔を隠す。孔明はそれを止めるでもなくただ花の頭を撫でて、その余裕が又少し憎らしかった。
玄徳は孔明と花を祝福し、二人にと館を与えた。客間こそあるものの、主の寝室が一つしかない館。以来二人はこうして、半ば強制的に臥し所を共にすることになっている。おそらくは芙蓉姫辺りが焦れて玄徳に提案した結果なのだろう、と思うけれど、だからと言ってすぐに慣れるというものでもなかった。
「寝ないんですか、」
師匠、と言いかけて、この館ではそう呼ばぬように言い含められたことを思い出した。まぁつまりボクらはもう夫婦なのだからね、と言ったときの孔明の顔は、必要以上に鹿爪らしく、花は表こそ神妙にうなずきながらも、笑い出しそうになっていた。夫婦という言葉が気恥ずかしくて、笑わなければやっていられないような気がしたのもある。
「ん、……寝るよ」
言いながらも、花を撫でる孔明の手は止まらない。こちらが眠ってしまえば彼も眠ってくれるだろうか。思いながらも一度冴えた目では容易には眠りに落ちれず、花は困って孔明の手を取った。
「……? 嫌だった?」
「いえ、でも、いつまでもこうしていたらししょ、……孔明さんが、眠れないでしょう」
「君が寝たら、眠るよ」
「一緒に寝ましょう」
言いながら、戯れのように孔明の手の甲に唇を落とした。騎士が忠誠を誓う時に口づける場所だ、となんとなく思う。忠義や忠誠は花には理解できないけれど、その人のためならなんでもできる、と思う気持ちは、なんとなく、理解できた。
孔明は苦笑を深めながら、花が口づけた手をそのまま自分のほうに引いて、同じように手の甲に口づけを施した。思わず目を瞬く。
ただ真似ただけの、意味のない行為だとわかっていた。わかっていたけれど、丁度考えていた時だけに、そしてわずかに瞳を伏せた孔明の表情のために、胸が高鳴った。
忠誠、だなんて。
孔明も花も玄徳の臣下であり、誓うべき対象はまさしく彼であるのだろう。思いながらも、この口付けに、忠誠めいた――大切にしたい、守りたい、そんな思いが込められていればいいともまた、思ってしまう。
「……花?」
孔明はもちろん、そんなことは知らないのだ。眠る気配もないのに黙り込んだ花に訝しげな声を上げるのを聞いて、あわててなんでもないと首を振る。
なんでもない、けれど。
こちらが思いを込めるのは勝手だろう。先ほどよりも幾分かうやうやしく孔明の手を取り、目を伏せ、そっと唇を落とす。なにもないただの夜なのに、ずいぶんと神聖な気分になっていた。
「……、……なんだか、誓われているみたいだ」
「……え?」
「その口付けには、なにか意味があるのかな」
孔明はどこにでも発揮される明晰な頭脳をもって、そっと花の手の甲を指でなぞりながら言った。花はわずかにうろたえて、せわしなく目を瞬く。
忠誠だと言ったら、なんだか怒られそうな気がした。大切に思う、というのもまた、口に出すのが恥ずかしい。思った時に、昔聞いた、キスの話を思い出した。
「え、と、確か。手の甲へのキスは、尊敬」
「きす?」
「……口付けのことです」
「そういう謂れがあるの?」
「はい」
他はほとんど覚えていないが、手のあたり――手の甲の尊敬と、掌の懇願は、手に口づけるなんてなんだかロマンチックだなぁと思ったから、覚えていた。
「つまり、君はボクを尊敬してるんだ?」
「それは、もちろん」
尊敬という言葉は恋愛めいたそれよりよほど肯定がしやすい。あっさりうなずくと、孔明はうれしそうに笑みを深めた。それから、尋ねる。
「ほかには? ほかの場所にも謂れがあるの」
「はい、……でも、ほとんど覚えてないんですけど」
「いいよ、教えて」
「えーっと、掌が、……懇願、です」
孔明の掌を指でなぞり、そっと唇を落としながら言う。孔明はへぇ、と興味深げに呟いた後に、何を願うの、と問う。
「ボクに何かお願いがある?」
「……、」
お願い。懇願という言葉に比べて随分とかわいらしい響きだ、と、少し笑った。孔明と花の間では、それくらいのほうが丁度いいのかもしれないけれど。
「そうですね、……じゃあ」
花は孔明の掌に唇を寄せて、唇の動きが伝わるような距離で、囁いた。
「ずっと、一緒にいてください」
たしかに、懇願するような気分だった。花のことを誰よりも大切にしてくれる、花が誰よりも大切にしたい、唯一の存在。花にとっては、世界と引き換えにできるほどの。
ほんの軽い、夜には相応しいかな、という程度の睦言の、つもりだった。けれど孔明が黙り込むから、少し不安になってしまう。重たいことを言っただろうか。冷静に、ずっと一緒になど居られないと言うだろうか。唇を離し、孔明の顔を見ようとしたところで。
先ほど口づけていた手で、目をふさがれた。
「?」
「や、……見ないで」
「え、と。なにをですか」
「顔」
見られたくない顔とはどんな顔だろう、思っても孔明の手に込められた力は強かった。どうしようかと思っていると、やや乱暴に唇をふさがれる。
「っ、ん」
「あんまり可愛いことを言うものじゃないよ。とくに、こんな時間に、こんな場所では」
「え、……、っ、んぅ」
真意を問う間もなくもう一度、今度はずいぶんと深い口付けを施されて思考が散らばる。こんな時間に、こんな場所で。言葉を反芻して、かっと頬が赤らんだ。
慌ててもすでに、いろいろなことが遅かった。繰り返される口付けに、そうだ、唇は愛情だ、と思い出して、たしかにこれは愛情だろうと、妙に納得したところで――「考え事なんて、余裕だね?」と、笑った孔明に、まともな思考はそこで途切れた。
(尊敬と懇願@師匠)
(ぴろーとーく…のつもりだったんですがいつのまにか事後ではなく事前に、いや、事後かつ事前なのかも/殴)
(夫婦であまあまな生活を過ごしているといい@蜀)
浅い眠りから覚め、ゆっくりと瞼をあげると、孔明と眼が合った。優しく下ろされた眼差しになぜだか恥ずかしくなって、布団に潜るようにして顔を隠す。孔明はそれを止めるでもなくただ花の頭を撫でて、その余裕が又少し憎らしかった。
玄徳は孔明と花を祝福し、二人にと館を与えた。客間こそあるものの、主の寝室が一つしかない館。以来二人はこうして、半ば強制的に臥し所を共にすることになっている。おそらくは芙蓉姫辺りが焦れて玄徳に提案した結果なのだろう、と思うけれど、だからと言ってすぐに慣れるというものでもなかった。
「寝ないんですか、」
師匠、と言いかけて、この館ではそう呼ばぬように言い含められたことを思い出した。まぁつまりボクらはもう夫婦なのだからね、と言ったときの孔明の顔は、必要以上に鹿爪らしく、花は表こそ神妙にうなずきながらも、笑い出しそうになっていた。夫婦という言葉が気恥ずかしくて、笑わなければやっていられないような気がしたのもある。
「ん、……寝るよ」
言いながらも、花を撫でる孔明の手は止まらない。こちらが眠ってしまえば彼も眠ってくれるだろうか。思いながらも一度冴えた目では容易には眠りに落ちれず、花は困って孔明の手を取った。
「……? 嫌だった?」
「いえ、でも、いつまでもこうしていたらししょ、……孔明さんが、眠れないでしょう」
「君が寝たら、眠るよ」
「一緒に寝ましょう」
言いながら、戯れのように孔明の手の甲に唇を落とした。騎士が忠誠を誓う時に口づける場所だ、となんとなく思う。忠義や忠誠は花には理解できないけれど、その人のためならなんでもできる、と思う気持ちは、なんとなく、理解できた。
孔明は苦笑を深めながら、花が口づけた手をそのまま自分のほうに引いて、同じように手の甲に口づけを施した。思わず目を瞬く。
ただ真似ただけの、意味のない行為だとわかっていた。わかっていたけれど、丁度考えていた時だけに、そしてわずかに瞳を伏せた孔明の表情のために、胸が高鳴った。
忠誠、だなんて。
孔明も花も玄徳の臣下であり、誓うべき対象はまさしく彼であるのだろう。思いながらも、この口付けに、忠誠めいた――大切にしたい、守りたい、そんな思いが込められていればいいともまた、思ってしまう。
「……花?」
孔明はもちろん、そんなことは知らないのだ。眠る気配もないのに黙り込んだ花に訝しげな声を上げるのを聞いて、あわててなんでもないと首を振る。
なんでもない、けれど。
こちらが思いを込めるのは勝手だろう。先ほどよりも幾分かうやうやしく孔明の手を取り、目を伏せ、そっと唇を落とす。なにもないただの夜なのに、ずいぶんと神聖な気分になっていた。
「……、……なんだか、誓われているみたいだ」
「……え?」
「その口付けには、なにか意味があるのかな」
孔明はどこにでも発揮される明晰な頭脳をもって、そっと花の手の甲を指でなぞりながら言った。花はわずかにうろたえて、せわしなく目を瞬く。
忠誠だと言ったら、なんだか怒られそうな気がした。大切に思う、というのもまた、口に出すのが恥ずかしい。思った時に、昔聞いた、キスの話を思い出した。
「え、と、確か。手の甲へのキスは、尊敬」
「きす?」
「……口付けのことです」
「そういう謂れがあるの?」
「はい」
他はほとんど覚えていないが、手のあたり――手の甲の尊敬と、掌の懇願は、手に口づけるなんてなんだかロマンチックだなぁと思ったから、覚えていた。
「つまり、君はボクを尊敬してるんだ?」
「それは、もちろん」
尊敬という言葉は恋愛めいたそれよりよほど肯定がしやすい。あっさりうなずくと、孔明はうれしそうに笑みを深めた。それから、尋ねる。
「ほかには? ほかの場所にも謂れがあるの」
「はい、……でも、ほとんど覚えてないんですけど」
「いいよ、教えて」
「えーっと、掌が、……懇願、です」
孔明の掌を指でなぞり、そっと唇を落としながら言う。孔明はへぇ、と興味深げに呟いた後に、何を願うの、と問う。
「ボクに何かお願いがある?」
「……、」
お願い。懇願という言葉に比べて随分とかわいらしい響きだ、と、少し笑った。孔明と花の間では、それくらいのほうが丁度いいのかもしれないけれど。
「そうですね、……じゃあ」
花は孔明の掌に唇を寄せて、唇の動きが伝わるような距離で、囁いた。
「ずっと、一緒にいてください」
たしかに、懇願するような気分だった。花のことを誰よりも大切にしてくれる、花が誰よりも大切にしたい、唯一の存在。花にとっては、世界と引き換えにできるほどの。
ほんの軽い、夜には相応しいかな、という程度の睦言の、つもりだった。けれど孔明が黙り込むから、少し不安になってしまう。重たいことを言っただろうか。冷静に、ずっと一緒になど居られないと言うだろうか。唇を離し、孔明の顔を見ようとしたところで。
先ほど口づけていた手で、目をふさがれた。
「?」
「や、……見ないで」
「え、と。なにをですか」
「顔」
見られたくない顔とはどんな顔だろう、思っても孔明の手に込められた力は強かった。どうしようかと思っていると、やや乱暴に唇をふさがれる。
「っ、ん」
「あんまり可愛いことを言うものじゃないよ。とくに、こんな時間に、こんな場所では」
「え、……、っ、んぅ」
真意を問う間もなくもう一度、今度はずいぶんと深い口付けを施されて思考が散らばる。こんな時間に、こんな場所で。言葉を反芻して、かっと頬が赤らんだ。
慌ててもすでに、いろいろなことが遅かった。繰り返される口付けに、そうだ、唇は愛情だ、と思い出して、たしかにこれは愛情だろうと、妙に納得したところで――「考え事なんて、余裕だね?」と、笑った孔明に、まともな思考はそこで途切れた。
(尊敬と懇願@師匠)
(ぴろーとーく…のつもりだったんですがいつのまにか事後ではなく事前に、いや、事後かつ事前なのかも/殴)
(夫婦であまあまな生活を過ごしているといい@蜀)
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