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姫金魚草

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漢の意地 (玄徳)

かぽーん。
鹿威しなど無論存在するはずもないが、雲長の脳裏では確かにその音が鳴り響いていた。
「孔明」
「はい、なんでしょう」
どこか固い顔をした玄徳に、涼やかな顔で孔明が応じる。さて俺はなぜこんなところに居るのだろう……。内心で溜息をつくが、もう出て行くタイミングも喪われてしまった。席を外そうかと言ったのは、決して玄徳のためではなく、雲長自身のためだったのだが、朗らかな顔で構わないといわれてしまっては出てもいけない。
自分はどうしてもこういう貧乏くじを引くように出来ているのだ。天命という奴なのだろう。せめて飽きることがないようにという要らぬ配慮なのかもしれない。
「花の、ことなんだが」
「はいはい」
なんだかいっそ面白くなってきて、雲長は観戦を楽しむことに決め、壁に寄りかかった。玄徳も孔明も、運長のことなど意識から外しているだろう。
「その、な。……正式に、妻に迎えたいと思うんだが」
「……」
流石にそこでは、軽くはいとは言えないか。孔明がすっと目を細め、玄徳が唇を引き結ぶのが見える。
沈黙。
(かぽーん)
雲長の脳内でまた、鹿威しの音が響く。
「例の刺客の件で、孫尚香殿との婚姻は、両家の間で、なかったことになっている。あんなことがあっては、周囲ももう、政略のために他国との縁を結べとは言わぬだろう。無論あのように盛大な儀を行うことは出来ないだろうが」
沈黙に耐えかねたのか、玄徳は早口に言葉を告いだ。孔明は僅かに唇を上げ、何も言わずに聞いている。
「だから、……な」
孔明が何も言わぬからだろう。玄徳の声は、孔明の静かな視線に吸い込まれるように小さくなって、途絶えた。
また、沈黙。
「玄徳様」
次に沈黙を破ったのは、流石に、孔明のほうだった。目を眇めるようにしたまま、静かに玄徳を見据える。
「そのお話は、なんの了解でしょう」
「……?」
「軍師としての諸葛孔明への問いか、それとも――彼女の師匠としての、諸葛孔明への問いか」
お聞きしても、宜しいですか。
静かな口調には、ひたひたとした、静かに寄せる波のような――やがて満ちて人を沈めてしまうような、重圧があった。玄徳は僅か、苦笑したようだった。
「……怖いな、孔明。どちらのお前も怖いが、……今のお前は、どっちのお前だ?」
「問いに問いで返さないでいただきたいですね」
「ああ、これはすまない。……軍師としてのお前に問うべきだと思うのだが、やはりここは、師匠の許しを得るのが、先だろう」
「奇遇ですね」
今のボクは、たしかに、師匠としてのボクでしたよ。
孔明は小さく笑いを溢した。ひやりとするような迫力が篭ったまま、その笑いは随分と恐ろしいものに見えた。傍で見ている雲長ですらそう感じるのだから、玄徳にはとてつもないプレッシャーだろう。
「ボクは、彼女の幸せを願っています。それを為せるのなら、誰だろうと反対はしません。たとえ、曹孟徳だろうとね」
唐突に出てきた仇敵の名に、玄徳の眉が寄る。物の例えですよ、と孔明は笑って――ふいに、顔から笑みを消した。
「しかし、玄徳様。……貴方にそれが為せるのか、どうも自信が持てないのですよ」
「……」
「あなたは、民を幸せに出来るお方です。そう思うからこそ、此処に居る。ですが、あなたが――たったひとりの、愛するものを幸せに出来るお方かどうかは、別の話だ」
いや、相反する話、とすら言えるでしょう。
淡々と語る孔明の言葉を、玄徳は黙って聞いている。それは、納得できる言葉だった。雲長にとってそうだということは、玄徳にとっても納得できる言葉だということだ。孔明が言葉を切り、わずか、困ったように笑うのを見て、玄徳もまた、小さく苦笑した。
「そうだな。……返す言葉はない。幸せにするとは、言えない。俺にとって守るべき第一は、どうしても、俺を主と頂いてくれる、俺を信頼してくれる皆だ」
淡々と、ある意味冷酷とも言える言葉を紡ぐ主に、孔明は困ったような笑みを深くした。そこで彼女を幸せにすると言い切れない男だと、孔明は勿論承知していたはずだ。その愚直さが、劉玄徳と言う男なのだから。
「それでも、孔明。……幸せにするとは言い切れないが、……彼女に、俺の傍に居てほしいのだ。俺と共に、歩んで欲しい。身勝手な願いだとはわかっているが、これは――俺のせめてもの、証なんだ」
「……証、ですか」
「ああ。……幸せには出来ないかもしれないが、一生、共に歩んで行こうという」
苦も楽も共にしたいと思う、気持ちの、せめてもの。
それは劉玄徳という男の誠実さを、全て現したような言葉だった。孔明は気圧されたように僅かに息をつめ――柔らかく、なにか、諦めたように静かに、笑った。
「――ああ、困ったな」
独り言のように。
「ひとつだけ――彼女が、幸せになるようにしようと。ひとつだけ、ずっと、決めていたんですけど」
呟きは、けれどどこか、爽やかなものを含んでいた。
「でも――貴方が彼女を幸せに出来るかどうか、わからなくても――彼女を幸せに出来るのが貴方だけだというのは、わかるんです」
矛盾しているようですが、と。
孔明は言って、溜息をついた。すっかりいつもの、ゆったりとした笑みに戻っている。玄徳もまた、気が抜けたように、ふ、と、笑った。
「大層な言を頂いてしまったな」
「とても悔しいですが」
「最初から、そう言え」
「言えますか、そんなこと」
流れる、ほのぼのとした空気に、雲長もまた、いつしか詰めていた息を吐いた。まったく、なんでこんん場面に。苦笑が零れる。そして――ふと、思いついた。

「玄兄」
「ん? ……ああ、雲長。なんだ」
「(……本当に俺のことを忘れていたな、この人は)ところでその話は、勿論、花の了承を得ているのですよね?」

瞬間。
玄徳が虚をつかれたような顔をして、孔明がその顔を見てまた、にたりと、意地悪く笑った。
「……玄徳様?」
「……いや、……似たようなことは、言ったが」
彼女がそれを求婚と捕らえているかは……自身無げに呟いた玄徳に、思わず孔明と二人、頷いてしまう。彼女は決して愚鈍ではないが、この手のことに敏いとはとても思えない。
それに――玄徳はどうしても、立場のある身だ。生半な言い方では、彼女もまた、そう受け取ることを躊躇うだろう。
「いやなに……獲らぬ狸でなければ、宜しいのですがね?」
先程のあれは、私達より先に、彼女にこそ語るべきでしょう。その後に――また、改めて。
孔明はにやりとしたままに言って、話は終わり、とばかりに立ち上がった。
「玄兄」
「言うな、雲長」
玄徳は苦笑した。雲長は小さく笑い返す。
「玄兄。……俺も孔明に賛成ですよ」
「ん?」
「彼女を幸せに出来るのは、玄兄だけだ。彼女は別に、幸せにしてもらおうなどとは、思っていないでしょうし」
共に幸せになればいいでしょう――とは、気恥ずかしくて言えなかったが、玄徳には間違いなく伝わったようだった。
玄徳もまた、すこし、恥ずかしげに笑って――求婚の言を考えなければいけないな、と、呟いた。












(最後のシーンはプロポーズだとは思うんですが、まぁ)
(プロポーズより先に保護者の了解を得るのは、ある意味正しい?)
(玄兄がんばる。なによりも大切にすると言えないのは、セイギノミカタの仕様なのか)

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