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姫金魚草

三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト

   
カテゴリー「恋戦記・呉」の記事一覧

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七夕 (早安)

(……仲謀ごめん……この埋め合わせはいつかかならず……/笑)

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・・・(指先の祈り)

罪を負う (呉)

仲謀Good後くさいですが、仲謀と大喬しか出てこない上、
相変わらず公瑾が死んでいます。
都督は薄命でこそ。というわけではないのですが。

拍手[22回]

・・・(浅はかな情)

掌中の珠 (早安)

たおやかな指先の希少さを少女は知らない。
畑仕事で水仕事で、指先は荒れる。決して裕福な生まれではないという少女の指が、すべらかに美しいと言うそれだけのことで、彼女の生きた世界の豊かさを知ることは容易い。
傷付きやすい珠のようだと思う。だって彼女は、どこもかしこも脆いように見えるのだ。柔らかい栗色の髪も、透明な瞳も、つるりとした頬も、力の無い腕も。
触れれば触れるだけ、近付けば近づくだけ、彼女が異質だということを知る。
この世界でその美しさを、柔らかさを、清らかさを、保つことがどれだけ難しいことか、ちゃんと、知っていた。

* * *

「……っ」
小さく声を上げて顔を顰めた花が、はぁ、と指先に息を吹きかける。
季節は、短い冬を迎えようとしていた。灯りも少ない質素な家で、顔を上げた早安の視線の先に、白い指先が妙に眩しく浮かび上がる。
「切れたのか」
「ん、ちょっとね」
もう水は冷たい。近頃漸く炊事や洗濯という家事仕事をこなせるようになってきた花が、次にぶつかったのは己の身体の弱さだった。
向こうの世界でも、水仕事など殆どしなかったという。仕事を終えた花が、火のそばで薬を煎じていた早安の隣にやってきてちょこんと座り、火に掌を翳した。
「もう、すっかり寒いね」
炎に照らされる指先は、ところどころ皸が出来て擦れたように赤くなっている。けれどそれを痛ましいと思うより先に、花がとても楽しげに笑って言った。
「温かくして寝ないとね。お医者さんが風邪だなんて言ったら、笑われちゃう」
「……医者というほどのものじゃ」
「『先生』のくせに」
悪戯にこちらを見上げる顔が、炎の揺らめきで融けるように揺れた。なんだかばつが悪くなって、手元の薬に集中する。
夜は、とても静かだ。なにより、灯りが貴重だった。日が暮れれば眠り、夜明けと共に起きる。当たり前の人の営みだ。時折、ぱちりと薪の弾ける音がする、それだけの空間。
「……、……っ」
うとうとしていたのだろう。かくりと頭を揺らした花が、はっとした様子で姿勢を直す。
「焦げるぞ」
「う。……ちょっと焦げた」
あう、と髪を摘んで見せるのに、顔を顰める。とにかく、ありとあらゆるところで、危機意識の欠如している女だと思う。
「本当に燃えたらどうする。……いいから、先に寝てろ」
「やだ」
「……怒るぞ」
溜息と共に言うと、だって、と少し眉を下げた花は、困ったような顔でこちらを見た。
「一人で寝ると、寒いよ」
「……」
阿呆、と、一蹴出来ない言い分だった。事実彼女は、こちらの気候が彼女の世界と違うせいもあるのだろうが、季節の変わり目ごとに体調を崩した。
冬は、怖い。
早安は溜息をついて、道具を薬箱へと纏めた。花が、やっとできるようになった手順で、火の始末をする。硬い寝台に先に潜り込んだ花は、薄い蒲団から顔だけ出して、招くようににこりと笑った。
薬棚の前から一つ薬を取って、寝台に向かう。火の消えた部屋は一気に冷え込んで、はやくはやくと花が急かすのを、利かずに寝台に腰掛けた。
「……? ……寝ないの?」
「手」
問いには答えず短く言うと、不思議そうな顔をしたまま、小さな手が差し出された。
軟膏を指に掬い取る。火が点るようにぽつぽつと赤い指に、そっと、うつくしい珠に触るときのようにそっと、指を置いた。
「……薬?」
「ああ、……効くかはわかんねぇけど」
「……効くよ」
傷をこすらない様に、そっと、置くように触れる。とろりとした感触がくすぐったいのか、小さく笑い声を上げた花は、そのままの笑みを早安に向けた。
「早安が作ってくれたんだもん」
「……、……だといいけど」
気恥ずかしくなって、顔を逸らす。薬を塗り終わると、暫く乾かしとけ、といい置いて、棚へと戻しに立ち上がる。子供のように広げた両手を掲げたままの姿勢が、なんだか妙に幼く可愛らしい。
気休めのような、ものだった。
彼女の世界は、恐らくもっと医術が発達していて、この程度の傷など、容易く治してしまうのだろう。
狭い寝台に、ふたりでくっついて眠らないと、寒くて凍えてしまうような。
そんな世界に彼女を留め置いたことが、過ちだったような気がすることもある。
こんな風に。彼女がどこかに、この世界ではどうしようもない、日々の傷をつけるたび。
棚に薬を戻し終えて早安が振り向いても、花はまだ同じ、手を上に掲げたままの姿勢でいた。そろそろいいだろ、と言おうとすると、へへ、と、なんだか擽ったそうに、笑う。
「……なんだか、嬉しいの」
「……は?」
何が、と問いかけて、それが視線の先の傷だと気づけは、眉が寄る。なにを、言おうというのか。
「私の身体が、この世界に、馴染もうとしている気がするんだ。そうやって、ひとつずつ季節を越えて、……慣れていくの。強くなるの」
「……」
それが嬉しい、と。
ほんとうに愛おしそうに、赤くなった手を見るものだから。
「その調子で、この冬こそ元気でいてくれると楽なんだけどな」
「う、……が、頑張る」
薬草の香りが残る指先を捕まえて、そっと唇を落とし。
彼女はたしかに、掌中に包み込んで、雨から風から、この世界の全ての痛みから守らなくてはならないほどに、弱い存在ではないのだと――当たり前のことを突きつけられて、早安は少し残念なような、どうしようもなく愛しいような、そんな気分で。
ただ今は、訪れる寒さから彼女を守ることぐらいは許されるだろうと、その細い身体を腕の中に収めたのだった。














(皸は現代でもしんどいです、早安さん)
(季節ハズレ。)
(そして物凄く久々に早安さんで、口調とかすっかり忘れた……)

拍手[30回]

安らかであれ (仲謀√で、花と公瑾)


(仲謀GOOD後)
(死にネタです。ご注意下さい)

拍手[28回]

・・・(安寧)

妻の職分 (仲謀)

(間違ったシリアス風味)





孔明の弟子、というのは、ただの肩書きだ。
身分や出自を、証明してくれるようなものではない。花は此処では、親も持たず故郷も持たず、身寄りもなにも持ってはいない、本当にただ個人としての「花」に過ぎない。
此処に残ると決めたときに、覚悟したはずだった。
愛一つ。愛する男の心一つに身を預ける、愚かな選択だと、漠然とながら感じていた。
それでも、縋るようになってはいけないと。
それだけを決めた。身一つで、一人で生きていく覚悟がないなら、ここに残ってはいけないと、知っていた。

* * *

「何をそんなに怒ってる」
廷内の奥の館は、有り体に言えば後宮だった。といっても、小さな離宮のようなつくりで、花と小間使いしかいないのだから、その言葉が表すような女人の住まいとは少し意味合いの違った場所かもしれない。仲謀は花を正妃と立て、妾を入れるつもりはない意志を、明確にではないがそれとなく周りに知らしめていた。
「怒ってないよ」
とかくその、館の一室。花の寝室は、広い寝台も誂えられた、実態を言えば孫夫妻の寝室である。正式な儀を執り行っては居ないものの、仲謀の寵姫は花だけであり、仲謀もまたこの部屋で寝起きをすることが殆どだった。
そんな――甘やかな空気が流れるはずの夜の寝室は、しかし今、ひやりとした空気に包まれている。寝台に腰掛けてだらしなく足を組んだ仲謀は、いつもの傲岸な風情を忘れて、困り果てた子供のような顔をしていた。
「怒ってるだろ。お前、公瑾に似てきたんじゃねーの?」
「え」
「怒ってるときほど笑う」
ひくり、と花の口元が引き攣った。そんな様子がますます公瑾にそっくりだと、仲謀は内心で溜息をつく。口に出したら、さらに怒りそうだから言わないけれど。
「……怒ってない。ただ、……」
花は言いかけて、言葉に迷うように口を閉ざした。言いたいことは、わかっている。
花は日々をこの部屋で、書を読みながら過ごしている。掃除などは女官がやるし、本来であれば妃など、働くようなものではないのだ。しかし花は、自分が何もしていないようで、不安なのだろう。
(子を成すことが仕事だと――言ったら、怒るだろうな)
孔明の弟子として出仕めいたことをしていた、玄徳軍での、そしてこちらでの捕虜としての日々の方が異質だったのだと、言葉を重ねたところで意味もあるまい。彼女はとっくにそんなことを理解している筈だった。
花。
身寄りもなく出自も知れず、寄る辺ない彼女をただ、妻として愛してやればいいと思っていた。それだけで全てが果たされて、自分も彼女も幸せになるのだと、そんなふうに。そんなふうに、世界が優しければ良かったのだけれど。
けれど現実に仲謀には立場があり、彼女をこうして守る程度の力しかなかった。彼女に居場所を与えてやることも出来ず、彼女が居場所を作る努力をすることさえ、認めてやれない程度の虚弱な力だ。
「……来いよ」
溜息と共に、机に向かって書簡を紐解いていた花を手招きする。花は複雑に顔を顰めたまま、大人しく立ち上がって仲謀の隣にやってくる。
「……私は、」
触れ合うことはあまりに自然になりすぎて、触れ合うだけでは何も誤魔化せなくなってしまった。慣れだけの所作で仲謀の肩に身を預けた、彼女は最早少女ではない。
「私は、仲謀と一緒に、未来を拓いていきたかった。仲謀がそう言ったように、一緒に、隣を歩いていきたかった」
なんだか全てが、遠い昔のことのようにも思えた。今でもそう思っていると、口には出せなかった。口に出しても、嘘のように響くだろうから。
日々が過ぎて彼女は、あの日の選択を後悔しているのだろうか。自分は誓いを果たせていないだろうか。果たせていないのかもしれない、と思った。とかくままならないことが多すぎて、仲謀も花も少し、疲れてしまっていた。
「俺は、……」
何を言っていいのかわからなかった。このまま花に口付けて、なんの解決にもならない誤魔化しをしてしまうのは、どうしようもなく安易だった。けれどそうした時間を重ねれば、なにかが壊れてしまうのだろう。
花の、あの頃に比べて随分と長くなった髪を、撫でた。
愛していると告げても、なんの救いにもなりはしない。花は笑ってくれるだろう。ほっとしたように、笑ってくれるだろう。そんな笑顔が欲しいわけではなかった。
沈黙の後に、花はふっと、小さく息を吐いた。駄目だ、と思った。彼女に、諦めるような言葉を、言って欲しいわけではなかった。それならば誤魔化してしまったほうが、よほどマシだ。慌てて口を開きかけた仲謀の前で、花はひどく清々しく笑った。
「お客様が来たんだ、今日」
「……あ?」
唐突な話題の転換に、仲謀は目を瞬いた。花はごく軽い調子で言葉を続けた。来客は、揚州の豪族のうちの一人。娘を仲謀の妻にと画策しているという話のある者からの使いだった。
呉は豪族の集合体だ。その手の話は珍しいことではない。なるべく花に累が及ばぬようにと思っていたつもりだったが、最近は書を読み解けるようになった花が学士を招いて学を深めたがることもあって、来客についての注意を怠っていた。
「私は何も持たないけど、――仲謀のことを、誰よりも想っている自信があるって、そんなことしか、言えなかったけど」
仲謀はどこか、まぶしいような気分になった。
「私にはそれしかないけど――仲謀の隣をまだ、歩いてもいいかな」
花の笑顔は爽やかで、けれど、どこかふつりと切れてしまいそうな危うさがあった。気圧されるように、頷いた。
「充分だろ。……充分だ」
口に出せば本当に、それだけで充分なような気がした。花はほっとしたように笑って、言葉を繋げた。
「じゃあ、……じゃあ、もう、守ってくれなくても、いいよ」
「……あ?」
「そういうのも、私の仕事だと思うから」
目を瞬いた。仕事、と彼女が言うのが何か、――思い至って、胸が痛んだ。
豪族の交わり。煩わしい人間関係は、彼女にとって負担だろうと、そう思っていたけれど。
「そういうふうに、……ちゃんと、頑張るから」
それは若しかしたら、彼女を守るということではなくて、閉じ込めるということだったのかもしれなかった。仲謀の妻として立つということから、遠ざけることだったのかもしれなかった。
「……そうか」
苦笑すると、そうだよ、と、昔のままに彼女が笑った。共に歩むことはあまりにも難しい二人だった。辛い思いをさせるだろうと思った。けれど自分が守ってやるということは、並んで歩くということでは、有り得なかった。
視線が合う。空気のような自然さで瞼を落とした花に、口付ける。幸せにすると誓って、傷つけることを畏れた。大人しく守られているような女ではないことを、最初から知っていたはずなのに。
手を握った。支えあって生きるということを少し、考えた。王者の道を共に歩くということを。大切に大切に、包んで守ってしまいたかった。けれど今は、ただこの手を離さなければいいのだと、少し寂しく、理解していた。














(この手の話は丞相ばかり出てくるけど、仲謀にだって起こりうる問題だよねと思ったり。)
(花ちゃんに「天は赤い河のほとり」みたいな強い奥さんに……なって欲しいわけではないですが)(笑)
(いまいち不完全燃焼なので、もうちょっと深く詰めたいなぁ)

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