姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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七夕 (早安)
(……仲謀ごめん……この埋め合わせはいつかかならず……/笑)
「っ、」
小さな声が、狭い家の空気を揺らめかせる。
早安は僅かに眉を寄せて、声の主を見やった。
「日が落ちてからは、針仕事はするなと言っただろ」
「……うう」
指を刺したらしい。涙目でこちらを見る花に溜息をついて、早安は花の手をとった。
「血が出てるな。……上手くもないのに無理するからだ」
そもそも、幼い頃から針仕事を仕込まれるこちらの女とは育ち方が違う。無理をする必要は無い、と、上手くいえずにそんな言い方になった。花がしゅんとしたように俯く。
「李さんに、教えてもらってるんだけどな」
李、とは、とかくこちらの生活様式に疎い花を見かねて、色々教えに来てくれている隣家の女性だった。村に突如としてあらわれた異邦の二人を、一番最初に受け入れてくれた村人でもある。病がちな子供を抱えるせいもあってか、以来互いに、助け合うような関係になっていた。
「すぐに上手くなるわけじゃないだろ。これ以上、商売道具を使われても困る」
「……うん。……そうだね。気をつける」
早安が手早く傷の手当を終えると(花は傷に対する抵抗も弱く、少しの傷でも直ぐに負けて悪化させてしまうのだ)、花はすっかり気落ちした様子で頷いた。
心配しているだけなのだと、上手く言えない。
早安は溜息をついた。それにも花が僅かに体を竦めるから、自分がほとほと情けなくなる。
無理をするなと。
焦らなくていい。気負わなくていい。
おまえは俺が守るからと、それだけのことが、上手く言えない。
早安は、部屋の隅に置いてあった、仕事用の袋を引き寄せた。薬の類が入っているそれには、今日は、その隣人からの貰い物が入っている。
薬を届けた際に、貰い受けたものだった。早安の知らない風習の為の。
取り出して、床に並べる。不思議そうな顔で見ていた花が、首を傾げた。
「……糸?」
それは、五色の糸だった。早安は、花のほうに手を出して言う。
「針」
花はわけがわからない顔をして、それでも言われるがままに先程まで使っていた針を差し出した。早安は五色の糸を針で端切れへ通していく。
「?」
花はきょとんとした顔で、早安の手元を見つめている。
「庭、……ってほどのものはないからな。……窓辺でいいか」
よくわからないあたりは、適当に妥協。
糸を通し終えたものを適当に窓辺に置くと、たまりかねたように花が訊ねてきた。
「なにかのおまじない?」
「よく、わかったな」
「……そんな意味不明なことされたら、それくらいしか思いつかないよ」
口を尖らせる花から、僅かに顔を逸らす。
「この時節の、風習らしい。……針仕事が上手くなる呪いだと」
「……え」
花は、ぱちりと目を瞬いた。驚いた顔が、なんと言っていいのかわからない、と言いたげに歪み、それから、小さく笑う。
「……何がおかしい?」
「だって、それ。私がやらないと、意味がないでしょ」
早安、針仕事するの?
花は笑いながらそう言って、窓辺に置かれたそれを手にとった。
するりと糸を抜いて、慣れた所作で、針に糸を通す。
「上手く、なりますように」
おまじないだったら、ちゃんと、願いをこめながら、やらないと。
花はそんな風に言って、とても大切な何かをあつかうように、ゆっくりと針を通していく。
火の明かりに照らされてゆらめく、その姿が、――彼女の育ちに似合わないはずのその所作が、不思議なくらいに、自然だった。
見惚れている。喉元まで満たされて、言葉が出ないこの感覚が、そういう名前だと気付くのに、暫くかかった。
ゆっくりと支度を終えて、祈るような所作で、窓辺に置く。それから早安を見た花は、ふわりと、少し恥ずかしそうに笑った。
「ありがと」
「……、……礼は、隣に言え」
「うん。でも、ありがとう」
たまらず、目を逸らす。礼を言われるようなことは、していない。彼女の指から傷が減れば、商売道具を使わなくて済むし、――こちらのほうが痛いような思いをすることも、なくなる。それだけのことだ。自分のためだ。
そんなことを、坦々と言ったつもりが、恐らくはしどろもどろだったのだろう。花はただ嬉しそうに笑って、気をつけるね、と、布の巻かれた自分の指を、いとしそうに見つめたのだった。
(古代中国の風習らしいけど仔細は不明というか調べ切れなかったので、適当ですみません。)
(やっつけ感満載だけど三国コンプリートして満たされた気分です。自己満足。)
小さな声が、狭い家の空気を揺らめかせる。
早安は僅かに眉を寄せて、声の主を見やった。
「日が落ちてからは、針仕事はするなと言っただろ」
「……うう」
指を刺したらしい。涙目でこちらを見る花に溜息をついて、早安は花の手をとった。
「血が出てるな。……上手くもないのに無理するからだ」
そもそも、幼い頃から針仕事を仕込まれるこちらの女とは育ち方が違う。無理をする必要は無い、と、上手くいえずにそんな言い方になった。花がしゅんとしたように俯く。
「李さんに、教えてもらってるんだけどな」
李、とは、とかくこちらの生活様式に疎い花を見かねて、色々教えに来てくれている隣家の女性だった。村に突如としてあらわれた異邦の二人を、一番最初に受け入れてくれた村人でもある。病がちな子供を抱えるせいもあってか、以来互いに、助け合うような関係になっていた。
「すぐに上手くなるわけじゃないだろ。これ以上、商売道具を使われても困る」
「……うん。……そうだね。気をつける」
早安が手早く傷の手当を終えると(花は傷に対する抵抗も弱く、少しの傷でも直ぐに負けて悪化させてしまうのだ)、花はすっかり気落ちした様子で頷いた。
心配しているだけなのだと、上手く言えない。
早安は溜息をついた。それにも花が僅かに体を竦めるから、自分がほとほと情けなくなる。
無理をするなと。
焦らなくていい。気負わなくていい。
おまえは俺が守るからと、それだけのことが、上手く言えない。
早安は、部屋の隅に置いてあった、仕事用の袋を引き寄せた。薬の類が入っているそれには、今日は、その隣人からの貰い物が入っている。
薬を届けた際に、貰い受けたものだった。早安の知らない風習の為の。
取り出して、床に並べる。不思議そうな顔で見ていた花が、首を傾げた。
「……糸?」
それは、五色の糸だった。早安は、花のほうに手を出して言う。
「針」
花はわけがわからない顔をして、それでも言われるがままに先程まで使っていた針を差し出した。早安は五色の糸を針で端切れへ通していく。
「?」
花はきょとんとした顔で、早安の手元を見つめている。
「庭、……ってほどのものはないからな。……窓辺でいいか」
よくわからないあたりは、適当に妥協。
糸を通し終えたものを適当に窓辺に置くと、たまりかねたように花が訊ねてきた。
「なにかのおまじない?」
「よく、わかったな」
「……そんな意味不明なことされたら、それくらいしか思いつかないよ」
口を尖らせる花から、僅かに顔を逸らす。
「この時節の、風習らしい。……針仕事が上手くなる呪いだと」
「……え」
花は、ぱちりと目を瞬いた。驚いた顔が、なんと言っていいのかわからない、と言いたげに歪み、それから、小さく笑う。
「……何がおかしい?」
「だって、それ。私がやらないと、意味がないでしょ」
早安、針仕事するの?
花は笑いながらそう言って、窓辺に置かれたそれを手にとった。
するりと糸を抜いて、慣れた所作で、針に糸を通す。
「上手く、なりますように」
おまじないだったら、ちゃんと、願いをこめながら、やらないと。
花はそんな風に言って、とても大切な何かをあつかうように、ゆっくりと針を通していく。
火の明かりに照らされてゆらめく、その姿が、――彼女の育ちに似合わないはずのその所作が、不思議なくらいに、自然だった。
見惚れている。喉元まで満たされて、言葉が出ないこの感覚が、そういう名前だと気付くのに、暫くかかった。
ゆっくりと支度を終えて、祈るような所作で、窓辺に置く。それから早安を見た花は、ふわりと、少し恥ずかしそうに笑った。
「ありがと」
「……、……礼は、隣に言え」
「うん。でも、ありがとう」
たまらず、目を逸らす。礼を言われるようなことは、していない。彼女の指から傷が減れば、商売道具を使わなくて済むし、――こちらのほうが痛いような思いをすることも、なくなる。それだけのことだ。自分のためだ。
そんなことを、坦々と言ったつもりが、恐らくはしどろもどろだったのだろう。花はただ嬉しそうに笑って、気をつけるね、と、布の巻かれた自分の指を、いとしそうに見つめたのだった。
(古代中国の風習らしいけど仔細は不明というか調べ切れなかったので、適当ですみません。)
(やっつけ感満載だけど三国コンプリートして満たされた気分です。自己満足。)
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