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姫金魚草

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掌中の珠 (早安)

たおやかな指先の希少さを少女は知らない。
畑仕事で水仕事で、指先は荒れる。決して裕福な生まれではないという少女の指が、すべらかに美しいと言うそれだけのことで、彼女の生きた世界の豊かさを知ることは容易い。
傷付きやすい珠のようだと思う。だって彼女は、どこもかしこも脆いように見えるのだ。柔らかい栗色の髪も、透明な瞳も、つるりとした頬も、力の無い腕も。
触れれば触れるだけ、近付けば近づくだけ、彼女が異質だということを知る。
この世界でその美しさを、柔らかさを、清らかさを、保つことがどれだけ難しいことか、ちゃんと、知っていた。

* * *

「……っ」
小さく声を上げて顔を顰めた花が、はぁ、と指先に息を吹きかける。
季節は、短い冬を迎えようとしていた。灯りも少ない質素な家で、顔を上げた早安の視線の先に、白い指先が妙に眩しく浮かび上がる。
「切れたのか」
「ん、ちょっとね」
もう水は冷たい。近頃漸く炊事や洗濯という家事仕事をこなせるようになってきた花が、次にぶつかったのは己の身体の弱さだった。
向こうの世界でも、水仕事など殆どしなかったという。仕事を終えた花が、火のそばで薬を煎じていた早安の隣にやってきてちょこんと座り、火に掌を翳した。
「もう、すっかり寒いね」
炎に照らされる指先は、ところどころ皸が出来て擦れたように赤くなっている。けれどそれを痛ましいと思うより先に、花がとても楽しげに笑って言った。
「温かくして寝ないとね。お医者さんが風邪だなんて言ったら、笑われちゃう」
「……医者というほどのものじゃ」
「『先生』のくせに」
悪戯にこちらを見上げる顔が、炎の揺らめきで融けるように揺れた。なんだかばつが悪くなって、手元の薬に集中する。
夜は、とても静かだ。なにより、灯りが貴重だった。日が暮れれば眠り、夜明けと共に起きる。当たり前の人の営みだ。時折、ぱちりと薪の弾ける音がする、それだけの空間。
「……、……っ」
うとうとしていたのだろう。かくりと頭を揺らした花が、はっとした様子で姿勢を直す。
「焦げるぞ」
「う。……ちょっと焦げた」
あう、と髪を摘んで見せるのに、顔を顰める。とにかく、ありとあらゆるところで、危機意識の欠如している女だと思う。
「本当に燃えたらどうする。……いいから、先に寝てろ」
「やだ」
「……怒るぞ」
溜息と共に言うと、だって、と少し眉を下げた花は、困ったような顔でこちらを見た。
「一人で寝ると、寒いよ」
「……」
阿呆、と、一蹴出来ない言い分だった。事実彼女は、こちらの気候が彼女の世界と違うせいもあるのだろうが、季節の変わり目ごとに体調を崩した。
冬は、怖い。
早安は溜息をついて、道具を薬箱へと纏めた。花が、やっとできるようになった手順で、火の始末をする。硬い寝台に先に潜り込んだ花は、薄い蒲団から顔だけ出して、招くようににこりと笑った。
薬棚の前から一つ薬を取って、寝台に向かう。火の消えた部屋は一気に冷え込んで、はやくはやくと花が急かすのを、利かずに寝台に腰掛けた。
「……? ……寝ないの?」
「手」
問いには答えず短く言うと、不思議そうな顔をしたまま、小さな手が差し出された。
軟膏を指に掬い取る。火が点るようにぽつぽつと赤い指に、そっと、うつくしい珠に触るときのようにそっと、指を置いた。
「……薬?」
「ああ、……効くかはわかんねぇけど」
「……効くよ」
傷をこすらない様に、そっと、置くように触れる。とろりとした感触がくすぐったいのか、小さく笑い声を上げた花は、そのままの笑みを早安に向けた。
「早安が作ってくれたんだもん」
「……、……だといいけど」
気恥ずかしくなって、顔を逸らす。薬を塗り終わると、暫く乾かしとけ、といい置いて、棚へと戻しに立ち上がる。子供のように広げた両手を掲げたままの姿勢が、なんだか妙に幼く可愛らしい。
気休めのような、ものだった。
彼女の世界は、恐らくもっと医術が発達していて、この程度の傷など、容易く治してしまうのだろう。
狭い寝台に、ふたりでくっついて眠らないと、寒くて凍えてしまうような。
そんな世界に彼女を留め置いたことが、過ちだったような気がすることもある。
こんな風に。彼女がどこかに、この世界ではどうしようもない、日々の傷をつけるたび。
棚に薬を戻し終えて早安が振り向いても、花はまだ同じ、手を上に掲げたままの姿勢でいた。そろそろいいだろ、と言おうとすると、へへ、と、なんだか擽ったそうに、笑う。
「……なんだか、嬉しいの」
「……は?」
何が、と問いかけて、それが視線の先の傷だと気づけは、眉が寄る。なにを、言おうというのか。
「私の身体が、この世界に、馴染もうとしている気がするんだ。そうやって、ひとつずつ季節を越えて、……慣れていくの。強くなるの」
「……」
それが嬉しい、と。
ほんとうに愛おしそうに、赤くなった手を見るものだから。
「その調子で、この冬こそ元気でいてくれると楽なんだけどな」
「う、……が、頑張る」
薬草の香りが残る指先を捕まえて、そっと唇を落とし。
彼女はたしかに、掌中に包み込んで、雨から風から、この世界の全ての痛みから守らなくてはならないほどに、弱い存在ではないのだと――当たり前のことを突きつけられて、早安は少し残念なような、どうしようもなく愛しいような、そんな気分で。
ただ今は、訪れる寒さから彼女を守ることぐらいは許されるだろうと、その細い身体を腕の中に収めたのだった。














(皸は現代でもしんどいです、早安さん)
(季節ハズレ。)
(そして物凄く久々に早安さんで、口調とかすっかり忘れた……)

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