姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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罪を負う (呉)
仲謀Good後くさいですが、仲謀と大喬しか出てこない上、
相変わらず公瑾が死んでいます。
都督は薄命でこそ。というわけではないのですが。
相変わらず公瑾が死んでいます。
都督は薄命でこそ。というわけではないのですが。
小喬が臥せっていると聞いたのは、公瑾の葬送の儀が済んで、しばらくした日のことだった。
ほんとうはずっと、具合が悪かったのだという。花でさえそれを知らなかったのは、大喬が必死で隠していたからだと知った。
見舞いに行くという花を留めて、仲謀はひとり、二喬の館を訪れた。
迎えに出た大喬は、すこしやつれたように見えた。普段の明るい笑顔がなくなると、幼い顔立ちの彼女は随分力なく見える。何も話さぬまま通された部屋で、小喬は静かな寝息を立てていた。
「……顔が白い」
「あんまり、御飯を食べなくて」
「医者には診せたのか」
「うん。でも、……」
気の病だ。薬でどうなるものでもない。
青白い顔をした少女は、どうしようもなく弱く、すぐにでも儚くなってしまいそうに見えた。
「連れて行かないで、って」
大喬が、小さく呟いた。同じように白い顔をして、表情も無く。
「お願いしてるの。……おかしいよね」
誰のことを、なんのことを、言っているかは判った。少しだけ、胸が痛む。
「小喬は、」
公瑾のことが、と、問うことは、出来なかった。
大喬は、少し困ったように首を振った。
「それは、わかんない。でも、多分違うの。ただ、」
伯符も、公瑾も、先に逝ってしまうなんて、思わなかったの。
大喬の声は、静かで、普段の子供のように高い彼女の声とは、まるで違って響いた。
二喬と、伯符と公瑾の、四人の関係を、言葉に表すことは、難しい。
友人と括ってしまうには深く、されとて恋仲とも言えなかった。ただそこに、仲謀の入れないなにかがあったことだけは、確かだった。
「でもね、わかっているの」
大喬の声は、ぼんやりとして、感情を伴わない。ただ、空虚な寂しさだけが、そこにあった。
「公瑾がここで、連れて行ってくれるようなひとだったら。こんなことには、ならなかったって」
彼女は悔いているのかもしれない、と、思った。
それは、仲謀が抱えているのと、同じ種類の後悔のはずだった。
残されたものの痛み。公瑾はそれを、良く知っているはずだったのに。
「……あいつは、勝手な男だよ」
恨み言を言うつもりは無かったのに、勝手に口が動いた。
「自分ひとりが苦しいつもりでいたんだ。自分ひとりが、苦しめばいいと思ってたんだ」
仲謀はいつも、置いていかれていた。今もそうだ。兄にも、あの男にも、結局追いつけないままに、こうして取り残されてしまった。
「そうして一人で死んだ。……ひとりで、だ」
「……自業自得だ、って言うのね」
そうかもしれない。
切り捨てることは容易かった。切り捨てなければいけないとも、また。
けれど仲謀は、首を振った。
「違う」
周公瑾。闇に追いつかれたあの男が、死に急ぐような生の中で、何を思ったのか。
「あいつは、……人を遠ざけて。そうして死ねば、苦しくないと思ったんだろうよ。誰も自分のように、苦しくはならないと」
露悪的なまでの彼の行動は、そうとでも言わなければ説明がつかなかった。
恨みを買って、憎しみを買って、そうして死ねば、誰の中にも痛みは残ることはない。
大喬の顔が歪んだ。ひどい、と、声にならない呟きが。静かな部屋を少しだけ揺らして、消えた。
「だからあいつは、絶対に、誰も、連れてはいかねぇだろうよ」
歪んでしまったのだ。いつからなのか、どこからなのか、なにがなのかも、もうよくわからないけれど。
彼の歪を止められなかった自分たちを置いて、彼はその歪んだ心の精一杯で、自分たちを想いながら逝ったのだ。
「だから、悲しむな。……苦しむな」
無体な事を言っている。けれどそうしなければ、彼の想いが無為になってしまう。
すれ違ったままの心は、行き違ったままの志は、こうして幕を閉じるより他に術がなかった。言葉が途切れる。小喬の穏やかな寝息だけが聞こえる中で、恐らく彼は、こうして安らかであれと祈ることさえよしとしないのだろう、と、苦く想った。
(どれだけ公瑾死後補完をすれば気が済むのか……)
ほんとうはずっと、具合が悪かったのだという。花でさえそれを知らなかったのは、大喬が必死で隠していたからだと知った。
見舞いに行くという花を留めて、仲謀はひとり、二喬の館を訪れた。
迎えに出た大喬は、すこしやつれたように見えた。普段の明るい笑顔がなくなると、幼い顔立ちの彼女は随分力なく見える。何も話さぬまま通された部屋で、小喬は静かな寝息を立てていた。
「……顔が白い」
「あんまり、御飯を食べなくて」
「医者には診せたのか」
「うん。でも、……」
気の病だ。薬でどうなるものでもない。
青白い顔をした少女は、どうしようもなく弱く、すぐにでも儚くなってしまいそうに見えた。
「連れて行かないで、って」
大喬が、小さく呟いた。同じように白い顔をして、表情も無く。
「お願いしてるの。……おかしいよね」
誰のことを、なんのことを、言っているかは判った。少しだけ、胸が痛む。
「小喬は、」
公瑾のことが、と、問うことは、出来なかった。
大喬は、少し困ったように首を振った。
「それは、わかんない。でも、多分違うの。ただ、」
伯符も、公瑾も、先に逝ってしまうなんて、思わなかったの。
大喬の声は、静かで、普段の子供のように高い彼女の声とは、まるで違って響いた。
二喬と、伯符と公瑾の、四人の関係を、言葉に表すことは、難しい。
友人と括ってしまうには深く、されとて恋仲とも言えなかった。ただそこに、仲謀の入れないなにかがあったことだけは、確かだった。
「でもね、わかっているの」
大喬の声は、ぼんやりとして、感情を伴わない。ただ、空虚な寂しさだけが、そこにあった。
「公瑾がここで、連れて行ってくれるようなひとだったら。こんなことには、ならなかったって」
彼女は悔いているのかもしれない、と、思った。
それは、仲謀が抱えているのと、同じ種類の後悔のはずだった。
残されたものの痛み。公瑾はそれを、良く知っているはずだったのに。
「……あいつは、勝手な男だよ」
恨み言を言うつもりは無かったのに、勝手に口が動いた。
「自分ひとりが苦しいつもりでいたんだ。自分ひとりが、苦しめばいいと思ってたんだ」
仲謀はいつも、置いていかれていた。今もそうだ。兄にも、あの男にも、結局追いつけないままに、こうして取り残されてしまった。
「そうして一人で死んだ。……ひとりで、だ」
「……自業自得だ、って言うのね」
そうかもしれない。
切り捨てることは容易かった。切り捨てなければいけないとも、また。
けれど仲謀は、首を振った。
「違う」
周公瑾。闇に追いつかれたあの男が、死に急ぐような生の中で、何を思ったのか。
「あいつは、……人を遠ざけて。そうして死ねば、苦しくないと思ったんだろうよ。誰も自分のように、苦しくはならないと」
露悪的なまでの彼の行動は、そうとでも言わなければ説明がつかなかった。
恨みを買って、憎しみを買って、そうして死ねば、誰の中にも痛みは残ることはない。
大喬の顔が歪んだ。ひどい、と、声にならない呟きが。静かな部屋を少しだけ揺らして、消えた。
「だからあいつは、絶対に、誰も、連れてはいかねぇだろうよ」
歪んでしまったのだ。いつからなのか、どこからなのか、なにがなのかも、もうよくわからないけれど。
彼の歪を止められなかった自分たちを置いて、彼はその歪んだ心の精一杯で、自分たちを想いながら逝ったのだ。
「だから、悲しむな。……苦しむな」
無体な事を言っている。けれどそうしなければ、彼の想いが無為になってしまう。
すれ違ったままの心は、行き違ったままの志は、こうして幕を閉じるより他に術がなかった。言葉が途切れる。小喬の穏やかな寝息だけが聞こえる中で、恐らく彼は、こうして安らかであれと祈ることさえよしとしないのだろう、と、苦く想った。
(どれだけ公瑾死後補完をすれば気が済むのか……)
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