姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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安らかであれ (仲謀√で、花と公瑾)
(仲謀GOOD後)
(死にネタです。ご注意下さい)
痛むというより、ただ、蝕まれているような感覚だった。侵されていく、とは、こういう感覚なのだろう。自分の身体が最早自分の意のままにならず、精神は乖離していくようだ。
死ぬのだろうな、と、熱でぼんやりとした意識の中で、思った。
自分は此処で、死ぬのだろう。友であり主であった男を喪ってから、亡霊のように生きてきた自分には、似合いの末路のような気がした。こうなれば、認めてしまうことも容易かった。――自分は何処かで、間違えたのだ。
「……」
ぼんやりと、目を開けた。目を閉じるときは、いつも怖い。いつか必ず、目を開けられなくなる日が訪れることを知っているからだ。その日はとても、恐らく思っているよりも余程はやく、やってくるのだろう。
「公瑾さん、……目が覚めましたか」
ぼんやりと霞む視界に、何かが映った。ほっとしたような柔らかな声が、ひたひたと身体を取り囲み始めた冷たい空気を、ほのかに温めたような気がした。
「……花、殿」
なぜ彼女が此処に居るのだろう。熱の所為で回らない頭でも、その疑問くらいは湧いて出てきた。ひんやりとした――ここは牢だ。実際にはただの病室で、獄に落とされたわけではないけれど、牢のようなものだとは知っていた。
それだけのことをした、自覚もあった。
「具合はまだ、悪いですか」
彼女は公瑾の病状について、詳しく聞かされていないのだろう。医者がどう診ているかは知らないが、助からない傷であることを、公瑾自身が知っていた。
「そうですね……余りよくはありませんが。……仲謀様が、お召しですか」
ならばどんなに無理をしてでも、彼の元に行かねばならない。仲謀は、公瑾の最後の主だった。
身体を起こそうとすると、花は慌てて首を振った。
「違います! ……私が、公瑾さんにただ、逢いたかっただけで」
お体に触るなら、すぐに出て行きます。少女は本心からの心配を覗かせる瞳をこちらに向けて、言った。公瑾はぼうとした頭で彼女の言葉を受け止めて、構いませんよ、と笑った。笑えていたかどうかは、わからない。
もう、表情一つ、思うままにはならなかった。
「もう触るような身体も、……残っては、いませんから」
呟くと、花はその美しい、穢れたものを何も診たことがないような澄んだ瞳を見開いた。それから、すぐにその見かけに寄らない敏い頭で、公瑾の言を理解して――泣きそうに、顔を歪める。
「なんで、そんな事を言うんですか」
「事実だから、ですよ。……貴女が来てくれて、丁度良かった」
「……え?」
「言伝を、頼んでも構いませんか」
誰にとは、言わなかった。言わなくても、わかるはずだった。
花は泣き出しそうな顔のまま、必死の様子で頭を横に振った。
「……いやです。……いやです、公瑾さん」
「聞かぬ人ですね。……貴女にしか、頼めないことなのです」
彼女は気付いているのだろう――これが、遺言だと。
子敬にも、小喬にも、伯言にも子明にも、他の誰にも、頼むことの出来ないことだった。
他の誰から伝えられても、真っ直ぐに届くことはない気がした。伯符よりも余程素直で――同時にとても繊細な、若い主には。
「聞いてください。……お願いします」
今度は、上手く微笑むことが出来たような気がした。清々しいような気分だった。思い残すことなど、ないような気がした。
伯符に自分が居たように――仲謀にはこの少女が居るのだ、と、すとんと、胸の奥に落ちてくるように、素直に思った。
少女は歪んだ顔のまま、根負けしたような形で小さく、頷いた。公瑾は穏やかな気持ちのまま、息と共に、言葉を吐き出した。
「許してください、と」
今まで、どうしても、言うことのできなかった言葉だった。そうしているうちに、謝らなければならないことはどんどん溜まっていって、今では口にしてはいけないほどになってしまった。
口にしなくてもいいと思っていた――許しなど、乞える身でもないと思っていた。
それでも今になれば、もっとはやく、告げるべきだったような気がした。伯符にも、仲謀にも、――それ以外の皆にも。
全ては自分の責だと抱えて、顧みられたくないと立っていた、自分はとても愚かだったのだろう。もっと早くに曝け出して、愚かな身を叱ってもらわなければならなかったのだ。
「もう、こんなことを言うのもおこがましいですが、……犯した罪も、こうして」
こうして、先に逝くことも。
「どうか、許して欲しいと、……伝えて、いただけますか」
これは甘えだ。最期の刻を迎えてやっと、意地を張るのにも疲れたのだろう。少女は何も言わずに公瑾の言葉を聞いていたが、ゆっくりと息を吐いて口を閉じると、決然とした眼差しをこちらに向けた。
眩しいような瞳だった。
こういう目をする男を、知っていた。
「そんなの、……そんなの、だめです」
少女は真っ直ぐに公瑾を見て、震える声で言った。膝の上で握られた手が、握りすぎて白くなっている。
「だめです、……そんなの、直接言わないと、意味なんてないです。それに」
ぽろり、と。
ついに、少女の瞳から一つ、雫が零れた。決壊してしまえば、もう、留めることが出来ないようだった。涙の所為でつっかえながらも、少女は必死で言葉を続けた。
「それに、わるいことをしたなら――したって、わかっているのなら。そんな風に謝るんじゃなくて、ちゃんと、ちゃんと償ってください」
公瑾さんは、ずるいです。
子供のような口調で言われて、笑ってしまった。
確かに自分はとてもずるい。この状況で、許すと言えない人間はそう居ないだろう。少女が余りに稀有なのだ。
「すみません」
笑ったままに言えば、少女はますます顔を歪めて、堪えきれぬ涙を拭おうともしないまま、もう一度、ずるいです、と言った。
それでも彼女は、きちんと伝えてくれるだろう。
ほんとうに、もう、やることがないような気がした。あとはこれから行く先で、同じように、伯符に許しを請えばいいのだ。
ふわりと、温かい何かが身体を包んだような気がした。なんだかとても、眠い。
目を閉じた。
目を閉じるのはもう、怖くなかった。
(永久の眠りに)
(途中で出てきた名前は、陸遜(伯言)と呂蒙(子明)です。チョイスは適当。)
死ぬのだろうな、と、熱でぼんやりとした意識の中で、思った。
自分は此処で、死ぬのだろう。友であり主であった男を喪ってから、亡霊のように生きてきた自分には、似合いの末路のような気がした。こうなれば、認めてしまうことも容易かった。――自分は何処かで、間違えたのだ。
「……」
ぼんやりと、目を開けた。目を閉じるときは、いつも怖い。いつか必ず、目を開けられなくなる日が訪れることを知っているからだ。その日はとても、恐らく思っているよりも余程はやく、やってくるのだろう。
「公瑾さん、……目が覚めましたか」
ぼんやりと霞む視界に、何かが映った。ほっとしたような柔らかな声が、ひたひたと身体を取り囲み始めた冷たい空気を、ほのかに温めたような気がした。
「……花、殿」
なぜ彼女が此処に居るのだろう。熱の所為で回らない頭でも、その疑問くらいは湧いて出てきた。ひんやりとした――ここは牢だ。実際にはただの病室で、獄に落とされたわけではないけれど、牢のようなものだとは知っていた。
それだけのことをした、自覚もあった。
「具合はまだ、悪いですか」
彼女は公瑾の病状について、詳しく聞かされていないのだろう。医者がどう診ているかは知らないが、助からない傷であることを、公瑾自身が知っていた。
「そうですね……余りよくはありませんが。……仲謀様が、お召しですか」
ならばどんなに無理をしてでも、彼の元に行かねばならない。仲謀は、公瑾の最後の主だった。
身体を起こそうとすると、花は慌てて首を振った。
「違います! ……私が、公瑾さんにただ、逢いたかっただけで」
お体に触るなら、すぐに出て行きます。少女は本心からの心配を覗かせる瞳をこちらに向けて、言った。公瑾はぼうとした頭で彼女の言葉を受け止めて、構いませんよ、と笑った。笑えていたかどうかは、わからない。
もう、表情一つ、思うままにはならなかった。
「もう触るような身体も、……残っては、いませんから」
呟くと、花はその美しい、穢れたものを何も診たことがないような澄んだ瞳を見開いた。それから、すぐにその見かけに寄らない敏い頭で、公瑾の言を理解して――泣きそうに、顔を歪める。
「なんで、そんな事を言うんですか」
「事実だから、ですよ。……貴女が来てくれて、丁度良かった」
「……え?」
「言伝を、頼んでも構いませんか」
誰にとは、言わなかった。言わなくても、わかるはずだった。
花は泣き出しそうな顔のまま、必死の様子で頭を横に振った。
「……いやです。……いやです、公瑾さん」
「聞かぬ人ですね。……貴女にしか、頼めないことなのです」
彼女は気付いているのだろう――これが、遺言だと。
子敬にも、小喬にも、伯言にも子明にも、他の誰にも、頼むことの出来ないことだった。
他の誰から伝えられても、真っ直ぐに届くことはない気がした。伯符よりも余程素直で――同時にとても繊細な、若い主には。
「聞いてください。……お願いします」
今度は、上手く微笑むことが出来たような気がした。清々しいような気分だった。思い残すことなど、ないような気がした。
伯符に自分が居たように――仲謀にはこの少女が居るのだ、と、すとんと、胸の奥に落ちてくるように、素直に思った。
少女は歪んだ顔のまま、根負けしたような形で小さく、頷いた。公瑾は穏やかな気持ちのまま、息と共に、言葉を吐き出した。
「許してください、と」
今まで、どうしても、言うことのできなかった言葉だった。そうしているうちに、謝らなければならないことはどんどん溜まっていって、今では口にしてはいけないほどになってしまった。
口にしなくてもいいと思っていた――許しなど、乞える身でもないと思っていた。
それでも今になれば、もっとはやく、告げるべきだったような気がした。伯符にも、仲謀にも、――それ以外の皆にも。
全ては自分の責だと抱えて、顧みられたくないと立っていた、自分はとても愚かだったのだろう。もっと早くに曝け出して、愚かな身を叱ってもらわなければならなかったのだ。
「もう、こんなことを言うのもおこがましいですが、……犯した罪も、こうして」
こうして、先に逝くことも。
「どうか、許して欲しいと、……伝えて、いただけますか」
これは甘えだ。最期の刻を迎えてやっと、意地を張るのにも疲れたのだろう。少女は何も言わずに公瑾の言葉を聞いていたが、ゆっくりと息を吐いて口を閉じると、決然とした眼差しをこちらに向けた。
眩しいような瞳だった。
こういう目をする男を、知っていた。
「そんなの、……そんなの、だめです」
少女は真っ直ぐに公瑾を見て、震える声で言った。膝の上で握られた手が、握りすぎて白くなっている。
「だめです、……そんなの、直接言わないと、意味なんてないです。それに」
ぽろり、と。
ついに、少女の瞳から一つ、雫が零れた。決壊してしまえば、もう、留めることが出来ないようだった。涙の所為でつっかえながらも、少女は必死で言葉を続けた。
「それに、わるいことをしたなら――したって、わかっているのなら。そんな風に謝るんじゃなくて、ちゃんと、ちゃんと償ってください」
公瑾さんは、ずるいです。
子供のような口調で言われて、笑ってしまった。
確かに自分はとてもずるい。この状況で、許すと言えない人間はそう居ないだろう。少女が余りに稀有なのだ。
「すみません」
笑ったままに言えば、少女はますます顔を歪めて、堪えきれぬ涙を拭おうともしないまま、もう一度、ずるいです、と言った。
それでも彼女は、きちんと伝えてくれるだろう。
ほんとうに、もう、やることがないような気がした。あとはこれから行く先で、同じように、伯符に許しを請えばいいのだ。
ふわりと、温かい何かが身体を包んだような気がした。なんだかとても、眠い。
目を閉じた。
目を閉じるのはもう、怖くなかった。
(永久の眠りに)
(途中で出てきた名前は、陸遜(伯言)と呂蒙(子明)です。チョイスは適当。)
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