姫金魚草
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カテゴリー「恋戦記・魏」の記事一覧
- 2024.11.25 [PR]
- 2010.04.04 Yo bailo (孟徳)
- 2010.04.03 赤い人がどんどん駄目に
- 2010.04.01 苦労性と四月馬鹿(文若)
- 2010.04.01 孟徳=ウサギ説
- 2010.03.31 狼二匹に兎が一匹(孟徳)
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Yo bailo (孟徳)
(孟徳√中。火事前日を想定)
優しくやわらかい舌で、ひやりとした心を舐められる。
触れた温かさで、はじめて自分が冷たくなっていたことに気付く。
母猫が傷付いた我が子を舐めるような。
そんな風に触れられたのだ。
あのとき恋に落ちたのだろう。
彼女にとって余りに想定外に、勝手に一人で恋をしたのだ。
それでも、そうと気付いてしまった以上、どうしたって彼女を手放すことなど出来ないのだけれど。
* * *
「……花ちゃん」
呟いて手を伸ばす。彼女は居ない。自分は多忙で、彼女は捕虜だ。本来であれば、こんな風に恋をするほどに、触れ合うことすらなかっただろう。
自身の収集癖は心得ている。珍しいものがすきなのだ。――それに彼女は、孟徳が失ったものをたくさん持っていて、孟徳が持っていないものをたくさん持っていた。そういうものに憧れるのは、人の性なのだろうと思う。
それでも、こんな風になってはいけなかった。
手を掲げる。
醜い傷痕。遠い日の戒め。
手を握っていて欲しい。
ずっと、この手を握っていて欲しい。
君が言ったように、君の手で、俺の傷を隠してしまって欲しい。――そうすれば。
(……そうすれば、)
(なんだと、言うんだろう)
ふわりと浮かび出てきた思いはなんだかとても危険なものであるような気がして、首を振る。手を握る。
けれど、自分で握ったところで、傷痕は醜く晒されたままだ。
(……ああ、だから)
(君が居ないと、駄目なんだ)
もうこの手を握ってくれる人は、君しか居ない。
なんだかひどく浅ましいことを考えているように思えた。
恋というには余りに歪なこの思いが、歪みきって彼女を閉じ込めてしまう前に、彼女に俺を止めて欲しい。この恋が育ちきってしまう前に。
(……なのに、あんなふうに)
(簡単に、好きだなんて言って)
あれは彼女の優しさで、気安さで、とてもこの歪みに釣りあうような何かではないのに。
それが判っているのに、もう、俺には止めることが出来ない。
彼女には相応しい世界があって――その隣に俺が居ることができるはずがないことは、わかりきっていることなのに。
(……ああ、)
(……静かだ)
夜の静寂。そっと、彼女が握ってくれた傷痕に、唇を寄せる。
相反した行為だと、判っている。
けれど、今は夜だから。静かな夜だからきっと、全て、なかったことにしてくれるだろう。
(愚かだって、知っているから)
今は全てに、目を瞑っていて欲しい。夜が過ぎれはまた、ちゃんとするから。
今はこうして――彼女のくれたささやかな優しさに、縋っていたい。
明日からは、ちゃんとするから。
誰にともなく許しを乞い、もう一度、目を閉じて手に唇を寄せた。
* * *
そのすぐ後に――その静寂を切り裂いて、罪深い炎が全てを燃やし。
それはまるで俺の描いた歪な喜劇で、彼女は何処にも逃げられなくなるのだけれど――
遠く篝火のように見えた炎を決して望んでいたわけではないことを、彼女は、信じてくれるだろうか。
信じて欲しい、なんて、許されない願いかもしれないけれど。
愛して欲しい、なんて、愚かしい願いかもしれないけれど。
(イメージソング・ジョバイロ/ポルノグラフィティ)
(歌詞がとても孟徳です、本当に(ry)
(『哀しい花つける前に貴方の手でつんでほしい』)
(『折れ掛けのペンで物語を少し変えようとしたら 歪な喜劇になった』)
(『貴方の隣に居る自分を 上手く思い描けない』)
(『離れないよう繋いでいたのは 指じゃなく不安だった』)
優しくやわらかい舌で、ひやりとした心を舐められる。
触れた温かさで、はじめて自分が冷たくなっていたことに気付く。
母猫が傷付いた我が子を舐めるような。
そんな風に触れられたのだ。
あのとき恋に落ちたのだろう。
彼女にとって余りに想定外に、勝手に一人で恋をしたのだ。
それでも、そうと気付いてしまった以上、どうしたって彼女を手放すことなど出来ないのだけれど。
* * *
「……花ちゃん」
呟いて手を伸ばす。彼女は居ない。自分は多忙で、彼女は捕虜だ。本来であれば、こんな風に恋をするほどに、触れ合うことすらなかっただろう。
自身の収集癖は心得ている。珍しいものがすきなのだ。――それに彼女は、孟徳が失ったものをたくさん持っていて、孟徳が持っていないものをたくさん持っていた。そういうものに憧れるのは、人の性なのだろうと思う。
それでも、こんな風になってはいけなかった。
手を掲げる。
醜い傷痕。遠い日の戒め。
手を握っていて欲しい。
ずっと、この手を握っていて欲しい。
君が言ったように、君の手で、俺の傷を隠してしまって欲しい。――そうすれば。
(……そうすれば、)
(なんだと、言うんだろう)
ふわりと浮かび出てきた思いはなんだかとても危険なものであるような気がして、首を振る。手を握る。
けれど、自分で握ったところで、傷痕は醜く晒されたままだ。
(……ああ、だから)
(君が居ないと、駄目なんだ)
もうこの手を握ってくれる人は、君しか居ない。
なんだかひどく浅ましいことを考えているように思えた。
恋というには余りに歪なこの思いが、歪みきって彼女を閉じ込めてしまう前に、彼女に俺を止めて欲しい。この恋が育ちきってしまう前に。
(……なのに、あんなふうに)
(簡単に、好きだなんて言って)
あれは彼女の優しさで、気安さで、とてもこの歪みに釣りあうような何かではないのに。
それが判っているのに、もう、俺には止めることが出来ない。
彼女には相応しい世界があって――その隣に俺が居ることができるはずがないことは、わかりきっていることなのに。
(……ああ、)
(……静かだ)
夜の静寂。そっと、彼女が握ってくれた傷痕に、唇を寄せる。
相反した行為だと、判っている。
けれど、今は夜だから。静かな夜だからきっと、全て、なかったことにしてくれるだろう。
(愚かだって、知っているから)
今は全てに、目を瞑っていて欲しい。夜が過ぎれはまた、ちゃんとするから。
今はこうして――彼女のくれたささやかな優しさに、縋っていたい。
明日からは、ちゃんとするから。
誰にともなく許しを乞い、もう一度、目を閉じて手に唇を寄せた。
* * *
そのすぐ後に――その静寂を切り裂いて、罪深い炎が全てを燃やし。
それはまるで俺の描いた歪な喜劇で、彼女は何処にも逃げられなくなるのだけれど――
遠く篝火のように見えた炎を決して望んでいたわけではないことを、彼女は、信じてくれるだろうか。
信じて欲しい、なんて、許されない願いかもしれないけれど。
愛して欲しい、なんて、愚かしい願いかもしれないけれど。
(イメージソング・ジョバイロ/ポルノグラフィティ)
(歌詞がとても孟徳です、本当に(ry)
(『哀しい花つける前に貴方の手でつんでほしい』)
(『折れ掛けのペンで物語を少し変えようとしたら 歪な喜劇になった』)
(『貴方の隣に居る自分を 上手く思い描けない』)
(『離れないよう繋いでいたのは 指じゃなく不安だった』)
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苦労性と四月馬鹿(文若)
(文若GOOD後です。)
「え? 花ちゃん? 花ちゃんなら今頃俺の部屋で寝てるよ」
いつもの時間に執務室にあらわれない花を探してうろうろしていた文若を捕まえたのは、満面の笑みの孟徳だった。
ぴし、と、自分の顔が凍りついたのを自覚する。
「じゃ、俺は仕事があるから」
何時もはいかに逃げ回るかを考えているくせに、こんなときばかりひらりと手を振って去っていく。
(……丞相の、部屋で?)
いまあの赤いのは何と言ったのか。主君に対して不敬に過ぎる呼び名が自然と胸から湧いて出る。
(……いや、とにかく、探しに)
はっと我に返って、(かなりの間微動だにせず立ち尽くしていた文若の姿を、柱の影からにやにやと眺めていた赤いのには気付かずに)慌てて孟徳の部屋に向かいかける。
しかし。
(……丞相の、部屋?)
内心でもう一度、繰り返す。丞相の私室――恐らくは寝室に、主の許可なく立ち入る権限など、何人にも与えられては居ない。それは、腹心ともいえる文若ですら例外ではない。
(……あれは、いつもの悪い冗談だ。そうに決まっている)
ようやっとのことでその考えに辿り着いた文若は、自分を納得させるように「悪い冗談、」と小さく呟きながら、踵を返す。執務室に戻れば、なんでもない顔で花が迎えてくれるだろう。そうに決まっている――
* * *
「ごめんなさいっ!」
「……!?」
焦るような惑うような、ふらふらとした足取りで執務室に辿り着いた文若を迎えたのは、確かに花だった。ただし、文若の姿を認めた途端、困りきった顔で頭を下げる――そんな予想外のリアクション付きの。
(……ごめんなさい……?)
遅れた事を怒るとでも思ったのだろうか。いや、それにしては、思い切り深く下げられた頭がいかにも大仰過ぎる。恐らくもっと別の――
(――別の、)
(謝るような、何かが?)
思い出されるのは、勿論、先程の孟徳の言葉である。
(いや、そんなことは、)
「孟徳さんに、なにか言われましたよね?」
「……!!?」
そんなことはない、と思いかけたところでの花の言葉に、文若の眉間の皺が深くなる。花はその表情を見て、やっぱり、と空を仰いだ。
「……花、どういう――」
どういうことだ、ありえない、けれどあの手の速さが通常の三倍の赤いのだし、いやでも花に限って、というか私はどうすればいいんだ? ああそうだ毒がまだ――
ぐるぐる回る思考に翻弄されながら尋ねた声を、花が遮る。
「今日は、嘘をついてもいい日なんです」
「……は?」
一瞬では理解が及ばずに、文若はさらに険しく眉を寄せた。
それを怒りととったのだろう。花は縮こまるようにしながらこちらを上目で見て、慌てて続けた。
「私の国に、そういう日があったんです……朝、ここに来る途中で孟徳さんに会って、それを教えたら『文若が皺を無くすくらい驚かせてやろう』って言って、そのままお庭に連れて行かれて、お茶とお菓子を出されて、しばらくゆっくりしててって言われて……」
「……、……」
「最初はちょっと面白いかも、って思っちゃって、でも、一人でお茶を飲んでるうちに、文若さんのことを色々考えてたら」
花がこちらを見上げる。
「文若さん、孟徳さんに嘘つかれたら、傷付くだろうなって思って。……慌てて、戻ってきたんですけど、居ないし、戻ってくるのが遅いから、何かあったんだろうと思って……」
間に合わなくて、ごめんなさい。
もう一度深く頭を下げる花に身体を起こさせて、文若はそのまま花の身体を抱きしめた。
「……? 文若さ、」
「つまり、丞相のあれは、嘘なんだな」
「……、何をおっしゃったかはわかりませんけど、嘘だと思います」
「……そうか」
一気に身体から力が抜ける。花に縋りつくような姿勢になった文若に、花は「どうしたんですか、そんなひどい嘘をつかれたんですか」とわたわたする。文若はもう一度ぎゅうと花を抱きしめてから、ゆっくりと笑った。
「……いや、……少しばかり、試されて踊らされただけだ。乗せられたこちらが悪い」
「嘘をつくほうが悪いに決まってます! ごめんなさい、私が――」
「いいんだ」
あれが本当でないのならば、なんだって、どうだっていい。
文若はすっかり力の抜けた顔で、眉間に皺の欠片もなく笑って、そっと花に口付けた。
* * *
「で、なんかいきなりぴたっと止まったかと思えばまた固まって。それからふらふらーっと歩き出して。変な病気の人みたいだったなー」
「……孟徳、お前は此処に仕事をしに来たのか、それとも文若の話をしに来たのか?」
「後者に決まってるでしょ。あー面白かった。あんなあいつはじめて見たよ」
「……しかし、それは、ややこしい話になってはいないのか? いや、あの二人のことだし、大丈夫だとは思うが」
「大丈夫だろ。大丈夫じゃなかったら、嘘を真にしちゃえばいいだけの話だし」
「……孟徳」
「これも嘘だって。今日は嘘をついていい日なんだからさ」
怖い声出すなよ、と笑う孟徳が、本当に楽しそうに見えて、元譲は目を細めた。
あの日から――文若が孟徳の命を救ったあの日から、孟徳が纏う空気は明らかに柔らかくなった。
(……それもこれも、あの娘のお陰か)
「次は誰を驚かそうかな」
「……いや、流石に文若以外はやめておけよ」
孟徳がこんな悪戯を仕掛けるなど、他に居ないと知っていて、釘を刺した。
はあい、と聞き分けよく頷いた孟徳は、残念だなと続けながらも、やはりとても、楽しそうに見えたのだった。
(エイプリルフールに間に合った……!)
「え? 花ちゃん? 花ちゃんなら今頃俺の部屋で寝てるよ」
いつもの時間に執務室にあらわれない花を探してうろうろしていた文若を捕まえたのは、満面の笑みの孟徳だった。
ぴし、と、自分の顔が凍りついたのを自覚する。
「じゃ、俺は仕事があるから」
何時もはいかに逃げ回るかを考えているくせに、こんなときばかりひらりと手を振って去っていく。
(……丞相の、部屋で?)
いまあの赤いのは何と言ったのか。主君に対して不敬に過ぎる呼び名が自然と胸から湧いて出る。
(……いや、とにかく、探しに)
はっと我に返って、(かなりの間微動だにせず立ち尽くしていた文若の姿を、柱の影からにやにやと眺めていた赤いのには気付かずに)慌てて孟徳の部屋に向かいかける。
しかし。
(……丞相の、部屋?)
内心でもう一度、繰り返す。丞相の私室――恐らくは寝室に、主の許可なく立ち入る権限など、何人にも与えられては居ない。それは、腹心ともいえる文若ですら例外ではない。
(……あれは、いつもの悪い冗談だ。そうに決まっている)
ようやっとのことでその考えに辿り着いた文若は、自分を納得させるように「悪い冗談、」と小さく呟きながら、踵を返す。執務室に戻れば、なんでもない顔で花が迎えてくれるだろう。そうに決まっている――
* * *
「ごめんなさいっ!」
「……!?」
焦るような惑うような、ふらふらとした足取りで執務室に辿り着いた文若を迎えたのは、確かに花だった。ただし、文若の姿を認めた途端、困りきった顔で頭を下げる――そんな予想外のリアクション付きの。
(……ごめんなさい……?)
遅れた事を怒るとでも思ったのだろうか。いや、それにしては、思い切り深く下げられた頭がいかにも大仰過ぎる。恐らくもっと別の――
(――別の、)
(謝るような、何かが?)
思い出されるのは、勿論、先程の孟徳の言葉である。
(いや、そんなことは、)
「孟徳さんに、なにか言われましたよね?」
「……!!?」
そんなことはない、と思いかけたところでの花の言葉に、文若の眉間の皺が深くなる。花はその表情を見て、やっぱり、と空を仰いだ。
「……花、どういう――」
どういうことだ、ありえない、けれどあの手の速さが通常の三倍の赤いのだし、いやでも花に限って、というか私はどうすればいいんだ? ああそうだ毒がまだ――
ぐるぐる回る思考に翻弄されながら尋ねた声を、花が遮る。
「今日は、嘘をついてもいい日なんです」
「……は?」
一瞬では理解が及ばずに、文若はさらに険しく眉を寄せた。
それを怒りととったのだろう。花は縮こまるようにしながらこちらを上目で見て、慌てて続けた。
「私の国に、そういう日があったんです……朝、ここに来る途中で孟徳さんに会って、それを教えたら『文若が皺を無くすくらい驚かせてやろう』って言って、そのままお庭に連れて行かれて、お茶とお菓子を出されて、しばらくゆっくりしててって言われて……」
「……、……」
「最初はちょっと面白いかも、って思っちゃって、でも、一人でお茶を飲んでるうちに、文若さんのことを色々考えてたら」
花がこちらを見上げる。
「文若さん、孟徳さんに嘘つかれたら、傷付くだろうなって思って。……慌てて、戻ってきたんですけど、居ないし、戻ってくるのが遅いから、何かあったんだろうと思って……」
間に合わなくて、ごめんなさい。
もう一度深く頭を下げる花に身体を起こさせて、文若はそのまま花の身体を抱きしめた。
「……? 文若さ、」
「つまり、丞相のあれは、嘘なんだな」
「……、何をおっしゃったかはわかりませんけど、嘘だと思います」
「……そうか」
一気に身体から力が抜ける。花に縋りつくような姿勢になった文若に、花は「どうしたんですか、そんなひどい嘘をつかれたんですか」とわたわたする。文若はもう一度ぎゅうと花を抱きしめてから、ゆっくりと笑った。
「……いや、……少しばかり、試されて踊らされただけだ。乗せられたこちらが悪い」
「嘘をつくほうが悪いに決まってます! ごめんなさい、私が――」
「いいんだ」
あれが本当でないのならば、なんだって、どうだっていい。
文若はすっかり力の抜けた顔で、眉間に皺の欠片もなく笑って、そっと花に口付けた。
* * *
「で、なんかいきなりぴたっと止まったかと思えばまた固まって。それからふらふらーっと歩き出して。変な病気の人みたいだったなー」
「……孟徳、お前は此処に仕事をしに来たのか、それとも文若の話をしに来たのか?」
「後者に決まってるでしょ。あー面白かった。あんなあいつはじめて見たよ」
「……しかし、それは、ややこしい話になってはいないのか? いや、あの二人のことだし、大丈夫だとは思うが」
「大丈夫だろ。大丈夫じゃなかったら、嘘を真にしちゃえばいいだけの話だし」
「……孟徳」
「これも嘘だって。今日は嘘をついていい日なんだからさ」
怖い声出すなよ、と笑う孟徳が、本当に楽しそうに見えて、元譲は目を細めた。
あの日から――文若が孟徳の命を救ったあの日から、孟徳が纏う空気は明らかに柔らかくなった。
(……それもこれも、あの娘のお陰か)
「次は誰を驚かそうかな」
「……いや、流石に文若以外はやめておけよ」
孟徳がこんな悪戯を仕掛けるなど、他に居ないと知っていて、釘を刺した。
はあい、と聞き分けよく頷いた孟徳は、残念だなと続けながらも、やはりとても、楽しそうに見えたのだった。
(エイプリルフールに間に合った……!)
孟徳=ウサギ説
さみしくなるとヤンデレになります。(←
兄ぃ=おおかみさん
雲長=シャム猫
翼徳=大型犬
文若=はむすたー
王子=豹
公瑾=わんこ
草案=野良猫
師匠=亀
なイメージがあります。花ちゃんは皆の飼い主です(あれ?
ひさしぶりの落書きとか
兄ぃ=おおかみさん
雲長=シャム猫
翼徳=大型犬
文若=はむすたー
王子=豹
公瑾=わんこ
草案=野良猫
師匠=亀
なイメージがあります。花ちゃんは皆の飼い主です(あれ?
ひさしぶりの落書きとか
狼二匹に兎が一匹(孟徳)
刃の傷から回復してから、花は以前と同じように文若の元で施政を手伝うことを望んだ。
「身体が完全に治るまでは、じっとしてくれないと心配だよ」
しゅんと眉を下げた顔で言う孟徳と、「働かざるもの食うべからずです!」と主張する花との妥協点は、花が部屋で読み書きを学びつつ急ぎでない書類に目を通す、というものだった。
以来、孟徳は執務室を抜け出し、花の部屋を訪ねることが多くなったわけだが――
* * *
「花ちゃん、お土産だよ!」
いつものように部屋にやってきた孟徳は、手にたくさんの赤い果実を抱えていた。
「わ、……わぁ、すごい、林檎ですね」
「林檎? 君の国にも、これと同じ果実があったの?」
花が書簡を片付ける間もなく机に果実を撒いた孟徳は、向かいに座って首を傾ける。
「はい。あ、私、これを剥くのが得意なんですよ! 皮を切らずに剥けるんです」
唯一の特技である。胸を張って言った花に、へぇ、と感心したような声をあげた孟徳は、いつもの好奇心に溢れた顔で、用意していたらしい小刀を取り出した。
「ほんとは、君に刃物なんて触らせたくないんだけど」
「大丈夫ですよ! こう見えても器用なんですから」
こちらに来てから、林檎などはじめて見た。うきうきと小刀を手にとった花は、手馴れた様子でくるくると林檎を剥いていく。
「……おおー……すごい。ほんとに皮が切れない。これ、どっかの特産らしくてさ。貢物として貰ったんだけど、これは、ちゃんと褒章与えないとな。おいしいの?」
「勿論ですよ! このままでも美味しいけど、砂糖で煮たりしても美味しいんですよ。長持ちしますし」
「へぇ……うわ、あっというまに赤くなくなった。ね、食べさせてよ」
かぱ、と孟徳が口をあける。普段なら恥ずかしがる花も、弟に林檎を剥いてやった時のことを思い出してか、そのまま刃で身を削り取って孟徳の口に放り込んでやった。
「ん。……うわ、ほんとだ。あまくてすっぱくて、おいしいねぇ」
驚いたように目を見張る孟徳の前で、花も一切れ口に入れる。現代のものよりも甘みは劣るが、そのぶんみずみずしく爽やかな香味が口いっぱいに広がった。
「おいしいですね!」
「うん、そうだねぇ」
にこにこと笑顔を交わしながら、あっという間にひとつ平らげてしまう。二つ目を剥こうと手にとったところで、花はふと思いついて、林檎を六等分に切り分けた。
「ん? こんどは綺麗に剥かないの?」
「はい。私の国では、こうやって……」
切り分けた欠片にV字に切れ込みをいれ、半分だけ皮を剥くようにする。
なになに、と興味深々のていで身を乗り出した孟徳に、じゃん、と掌に載せた林檎を差し出した。
「さて、なんでしょう」
つん、とあかい皮の部分がふたつ尖って残されている。自信満々に差し出されたそれに、孟徳は一瞬だけ首を傾けて、それから、悪戯めいて花を見上げた。
「……当てたら、なにか賞品があるの?」
「え」
想像していなかった言葉に、花が目を瞬く。孟徳はにぱ、と笑って、つん、と林檎の先をつついた。
「じゃあ、当てたらこれ、花ちゃんの手で食べさせてね」
「? いいですよ」
さっきもやったし、と不思議そうにする花は、「はい、あーん」の状態に気がついていない。決まりね、と笑った孟徳は、自信満々に答えた。
「兎、でしょ。これが耳で、ちょっと飛び跳ねてるように見えるよね」
「はい、正解です」
楽しそうに笑う孟徳につられて、花もついつい笑顔になる。
「じゃ、はい、あーん」
先程と同じように、孟徳が口をあける。花は先程と同じように林檎を差し出した。
が。
「……?」
孟徳の手が、花の手を掴む。孟徳はそのまま兎の林檎をかじり、飲み込み、花の指先に口付けた。
「……!」
花の顔が、一気に朱に染まる。
「も、孟徳さん!」
「はは、ごめんごめん。……林檎みたいな顔してるよ」
「え、」
「真っ赤で、かわいい」
ぺろり、と花の指先を舐めながら、孟徳はそんなことを言った。
勿論、花の顔はもっと赤くなり――孟徳はその日、それ以上林檎を口にすることはできなかった。
* * *
「……ああ、丞相。これは、城下からの報告なのですが」
数日後。
政務の最中、許都の情勢についての報告をしていた文若が、なにげない風に口を開いた。
「この間献上された果実が、許都で大いに売れているそうで」
「……?」
たかが一作物の売れ行きをわざわざ報告するとは何事か。
不思議そうに先を促した孟徳の前で、文若は真面目腐った顔で続けた。
「なんでも、兎の形に切った食べ方が、『花兎の果実』として人気を誇っているとか……」
実は私も、この間頂いたのですがね。
誰からとは言わず、僅かに笑みさえ浮かべて付け加える。
そんな文若の言葉を最後まで聞かずに、孟徳は執務室を飛び出した。
俺はあれ以来食べさせてもらってないのに、という呪詛の声が聞こえたような気がするが、まあ、空耳だろう。
「……丞相、まだ仕事が残っているのですが? ……聞いていないということで、こちらで処理しますね」
「……お前もいい性格になってきたな、文若……」
書簡をまとめながらの文若の言葉に、孟徳の脇で控えていた元譲が溜息をつく。
今頃愛しの軍師に向かって兎林檎を強請っているであろう主の姿を思い浮かべ、二人は楽しげに笑ったのだった。
(この時代に林檎が珍しかったのかとか、何処で取れたのかとか、そういう細かいことは気にしちゃいけません!)
(そろそろタイトルに偽りあり。)