姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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大戦初プレイ(拍手レス)
勿論英傑伝ですが、英傑伝すら負ける弱っぷりを遺憾なく発揮してまいりました。
いや、まじ見るのとやるの大違い過ぎる。わたわたしてるうちに試合が終わる。
ちなみにデッキは友人からのもらい物というか借り物というかで組んでもらった魏武です。
曹丕・曹植・トウ艾・楽進・羊コ 軍師は郭嘉と司馬懿
逢坂「曹丕と司馬懿を同じデッキに入れたいです!」
友「……、……軍師司馬懿でよければ……」
機略と魏武が一緒に入ってたっていいじゃない!(←無謀)
大戦知らない方にはさっぱりな雑記ですみません。
続きは拍手レスです。
いや、まじ見るのとやるの大違い過ぎる。わたわたしてるうちに試合が終わる。
ちなみにデッキは友人からのもらい物というか借り物というかで組んでもらった魏武です。
曹丕・曹植・トウ艾・楽進・羊コ 軍師は郭嘉と司馬懿
逢坂「曹丕と司馬懿を同じデッキに入れたいです!」
友「……、……軍師司馬懿でよければ……」
機略と魏武が一緒に入ってたっていいじゃない!(←無謀)
大戦知らない方にはさっぱりな雑記ですみません。
続きは拍手レスです。
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唯一で無二の貴方へ(公瑾)
(公瑾GOOD後、CDネタは持ってないのでなかったことにしています/花嫁修業)
「……ごあいさつ?」
「そんな、日本語でおkみたいな顔しなくてもいいじゃないですか」
「メタな発言やめましょう……(ここって何語なんだろう?)じゃなくて、えーっと、誰にですか?」
「ベタなボケもやめましょうか」
にこにこといつもの顔で笑われると真意が読めない。
喬姉妹は私の前では大分表情が変わるというけれど、余り自覚出来ないのが残念なところだ。せいぜい、不機嫌な顔は多いかも、と思うくらいで。
でも、このあいだ呉に遊びに来た芙蓉姫からも、「花の前だとあの仮面がぼろぼろ剥がれて面白いわ」と言っていたから、事実なのは確かだろう。
(……今、わかりやすければいいのに)
恨めしく見上げても、公瑾の笑顔は変わらない。
花は精一杯眉を寄せた。
「か、身体が治りきってから、のほうが」
しどろもどろになってしまうのが悔しいけれど、緊張してしまうのは仕方が無い。
そう、喬姉妹に聞いたのだ。公瑾の家は、呉でも指折りの名家だと。
花自身はごく一般庶民の家に生まれた上、今はその家も無い身の上だと言っていい。身分的に釣り合うわけが無いのは当然のことながら、年齢的にも、十の開きがある二人だ。
「もう、治ったようなものですよ」
「……信用できません」
「おや」
前科がある身だ。公瑾は肩を竦めた。
「……ですが、……こちらにも事情というものがあるのです。協力してはいただけませんか」
(……あ、)
(……今は、わかった)
笑顔は変わらないように見えて――けれど確かに変わったのを、感じた。
ほんの僅かだけ笑みの色が薄れて、覗いたのは、真摯な眼差しだった。
「わかりました」
それだけで、どんな願いでも聞いてしまえる気がした。感情を悟らせない公瑾の、ほんの時折触れることの出来る生身の思いは、なんでもとても愛おしいと思う。
「ありがとうございます。……では、行きましょうか」
「え、すぐですか」
「はい。思い立ったが吉日、と、言うでしょう?」
「(……この時代にも、言うのかなぁ……)」
* * *
連れて行かれたのは、静かな丘のようなところだった。
長江を臨むその丘は、穏やで静謐な空気が漂っている。
「……ここ、は?」
「言ったでしょう。挨拶に行くと」
この丘が墓標だと気付くまでに、少しの時間が必要だった。
来る途中で詰んでいた花を静かに置いて、公瑾が目を閉じる。
美しいと、思った。
ふわりと風が待って、ざあ、と、草が音を立てる。
ここは、聖域なのだ。
隣に並んで、手を合わせる。ここに眠っているであろう人。孫伯符という人のことを、少し考えた。
呉にとって無二であった人。――周公瑾にとって、無二であった人。
私は彼のことを何も知らないけれど、呉の人々に残る彼の存在が、その偉大さを、その性質を教えてくれる。
花がゆっくりと目を開けても、公瑾いまだ、祈るように頭を垂れたままだった。
(――ああ、)
(この人を、幸せにしよう)
その思いは、湧きあがるように胸に起こり、そのまま溢れるようだった。
墓参に行くと言えなかったのは、彼の弱さだ。
一番弱い部分を晒すことを最後まで怖がる、彼の。
「……花?」
「、はい」
「どうしたのですか」
「?」
いつの間にかこちらを向いていた公瑾が、不思議そうな顔をする。
「泣きそうな顔を、していましたよ。……伯符のことを、考えていたんですか?」
否と答えることは、この場には相応しくない。
けれど、私は首を振った。
「……ならば、何を?」
「公瑾さんのことを」
「……、」
「公瑾さんを、幸せにしたい、って、……考えていました。ごめんなさい」
ざぁ、と。
もう一度、少し強い風が吹いた。公瑾は驚いたように眉を上げた。それから、困ったように笑う。
「何故、謝るのです」
「わからない、ですけど」
此処に眠る、強く、優しく、公瑾の唯一であったであろう人。
「伯符さんから、公瑾さんを、……奪ってしまうような気がしたからかもしれません。此処は、伯符さんと、公瑾さんのための場所なのに」
「……」
だから、ごめんなさい。
口に出すと、それは随分と重い、真実であるような気がした。泣いてはだめだと思うけれど、込み上げてくるものがある。
だって私が、思わなかったと、誰が言えるだろう。
あのとき、死に掛けたこの人の手を握って、連れて行かないでと願わなかったと、誰が――
「……そんな顔をさせるために、つれて来た訳ではありませんよ」
「ごめ、なさ」
「……やれやれ」
公瑾は溜息とともに、花の身体を抱き寄せた。
「こんなことまで先に言われてしまうとはね。……挨拶に来たと言ったでしょう」
「……」
「私にも、幸せにしたい人が出来たと――伯符以来の、大切な者が出来たと、そう言いにきたのですよ」
紹介しないと、祟られそうですからね。
最後は冗談めかして、公瑾はそう言葉を結んだ。
手が、自然と、縋りつくように公瑾の胸元を掴んでしまう。離さないように。離れないように。
「……!」
そのとき、光が射した。
光が丘を包み込む。柔らかな風が吹いて、二人の髪を擽るように揺らす。
「……笑われているような気がします」
「え?」
「時間がかかりすぎだと。心配を、掛け過ぎたかもしれません」
公瑾は穏やかな顔で、何時もの笑みよりも優しく、柔らかく、温かい顔で、微笑んだ。
胸元から手を離して、代わりに手を握った。誓うように。
――幸せにしたい。
「……嫁の方が男前だといわれたような気がします……」
「ず、随分具体的ですね」
「でもまぁ、私はどちらでも構いませんから」
「え?」
「幸せにしていただいても。私が貴女を幸せにすることさえ出来ればいいですから」
どうぞ、思う存分、私を幸せにしてください。
そう笑う公瑾はなんだか充分に幸せそうで、多分私も幸せそうに見えるのだろうと思ったら、願いなんて何でも簡単に叶う気がして、握る手にきゅっと力を込めた。
(今頃策は天国で大爆笑だよ! 「あいつのあんな緩んだ顔はじめて見た!(げらげら)」みたいな!)
「……ごあいさつ?」
「そんな、日本語でおkみたいな顔しなくてもいいじゃないですか」
「メタな発言やめましょう……(ここって何語なんだろう?)じゃなくて、えーっと、誰にですか?」
「ベタなボケもやめましょうか」
にこにこといつもの顔で笑われると真意が読めない。
喬姉妹は私の前では大分表情が変わるというけれど、余り自覚出来ないのが残念なところだ。せいぜい、不機嫌な顔は多いかも、と思うくらいで。
でも、このあいだ呉に遊びに来た芙蓉姫からも、「花の前だとあの仮面がぼろぼろ剥がれて面白いわ」と言っていたから、事実なのは確かだろう。
(……今、わかりやすければいいのに)
恨めしく見上げても、公瑾の笑顔は変わらない。
花は精一杯眉を寄せた。
「か、身体が治りきってから、のほうが」
しどろもどろになってしまうのが悔しいけれど、緊張してしまうのは仕方が無い。
そう、喬姉妹に聞いたのだ。公瑾の家は、呉でも指折りの名家だと。
花自身はごく一般庶民の家に生まれた上、今はその家も無い身の上だと言っていい。身分的に釣り合うわけが無いのは当然のことながら、年齢的にも、十の開きがある二人だ。
「もう、治ったようなものですよ」
「……信用できません」
「おや」
前科がある身だ。公瑾は肩を竦めた。
「……ですが、……こちらにも事情というものがあるのです。協力してはいただけませんか」
(……あ、)
(……今は、わかった)
笑顔は変わらないように見えて――けれど確かに変わったのを、感じた。
ほんの僅かだけ笑みの色が薄れて、覗いたのは、真摯な眼差しだった。
「わかりました」
それだけで、どんな願いでも聞いてしまえる気がした。感情を悟らせない公瑾の、ほんの時折触れることの出来る生身の思いは、なんでもとても愛おしいと思う。
「ありがとうございます。……では、行きましょうか」
「え、すぐですか」
「はい。思い立ったが吉日、と、言うでしょう?」
「(……この時代にも、言うのかなぁ……)」
* * *
連れて行かれたのは、静かな丘のようなところだった。
長江を臨むその丘は、穏やで静謐な空気が漂っている。
「……ここ、は?」
「言ったでしょう。挨拶に行くと」
この丘が墓標だと気付くまでに、少しの時間が必要だった。
来る途中で詰んでいた花を静かに置いて、公瑾が目を閉じる。
美しいと、思った。
ふわりと風が待って、ざあ、と、草が音を立てる。
ここは、聖域なのだ。
隣に並んで、手を合わせる。ここに眠っているであろう人。孫伯符という人のことを、少し考えた。
呉にとって無二であった人。――周公瑾にとって、無二であった人。
私は彼のことを何も知らないけれど、呉の人々に残る彼の存在が、その偉大さを、その性質を教えてくれる。
花がゆっくりと目を開けても、公瑾いまだ、祈るように頭を垂れたままだった。
(――ああ、)
(この人を、幸せにしよう)
その思いは、湧きあがるように胸に起こり、そのまま溢れるようだった。
墓参に行くと言えなかったのは、彼の弱さだ。
一番弱い部分を晒すことを最後まで怖がる、彼の。
「……花?」
「、はい」
「どうしたのですか」
「?」
いつの間にかこちらを向いていた公瑾が、不思議そうな顔をする。
「泣きそうな顔を、していましたよ。……伯符のことを、考えていたんですか?」
否と答えることは、この場には相応しくない。
けれど、私は首を振った。
「……ならば、何を?」
「公瑾さんのことを」
「……、」
「公瑾さんを、幸せにしたい、って、……考えていました。ごめんなさい」
ざぁ、と。
もう一度、少し強い風が吹いた。公瑾は驚いたように眉を上げた。それから、困ったように笑う。
「何故、謝るのです」
「わからない、ですけど」
此処に眠る、強く、優しく、公瑾の唯一であったであろう人。
「伯符さんから、公瑾さんを、……奪ってしまうような気がしたからかもしれません。此処は、伯符さんと、公瑾さんのための場所なのに」
「……」
だから、ごめんなさい。
口に出すと、それは随分と重い、真実であるような気がした。泣いてはだめだと思うけれど、込み上げてくるものがある。
だって私が、思わなかったと、誰が言えるだろう。
あのとき、死に掛けたこの人の手を握って、連れて行かないでと願わなかったと、誰が――
「……そんな顔をさせるために、つれて来た訳ではありませんよ」
「ごめ、なさ」
「……やれやれ」
公瑾は溜息とともに、花の身体を抱き寄せた。
「こんなことまで先に言われてしまうとはね。……挨拶に来たと言ったでしょう」
「……」
「私にも、幸せにしたい人が出来たと――伯符以来の、大切な者が出来たと、そう言いにきたのですよ」
紹介しないと、祟られそうですからね。
最後は冗談めかして、公瑾はそう言葉を結んだ。
手が、自然と、縋りつくように公瑾の胸元を掴んでしまう。離さないように。離れないように。
「……!」
そのとき、光が射した。
光が丘を包み込む。柔らかな風が吹いて、二人の髪を擽るように揺らす。
「……笑われているような気がします」
「え?」
「時間がかかりすぎだと。心配を、掛け過ぎたかもしれません」
公瑾は穏やかな顔で、何時もの笑みよりも優しく、柔らかく、温かい顔で、微笑んだ。
胸元から手を離して、代わりに手を握った。誓うように。
――幸せにしたい。
「……嫁の方が男前だといわれたような気がします……」
「ず、随分具体的ですね」
「でもまぁ、私はどちらでも構いませんから」
「え?」
「幸せにしていただいても。私が貴女を幸せにすることさえ出来ればいいですから」
どうぞ、思う存分、私を幸せにしてください。
そう笑う公瑾はなんだか充分に幸せそうで、多分私も幸せそうに見えるのだろうと思ったら、願いなんて何でも簡単に叶う気がして、握る手にきゅっと力を込めた。
(今頃策は天国で大爆笑だよ! 「あいつのあんな緩んだ顔はじめて見た!(げらげら)」みたいな!)
03 ずっと変わることが無い景色
「外に行こうよ。街を見せてあげる」
彼が私を誘うのは、決して帰さないという思いの表れか、自らの国の様子が知れても脅威にはならないという自信の表れか、どちらなのだろうと思ったけれど。
「あそこの料理が美味しいんだ。あ、装飾品ならぜったいあの通りだよ。布ならあっちの区画だし……どこに行きたい?」
有無を言わせず手をひいて、慣れた様子で雑踏を歩く姿は、ただの宝物を自慢したい子供にしか見えない。
曹孟徳は不思議な男だ。
こちらに来てからそう思うのは何回目だろう。世知に長け、知略に富み、時に横暴で、圧倒的に凶悪。人々の囁くその噂もまさしく、彼に相応しいものだと思うのに、花の前での孟徳は、恐ろしいほど敏いのに、呆れるくらい無邪気な、過敏な子供のように見える。
「……、え、と」
「女の子だったら、やっぱりまずは甘いものとかかな」
「……、それ、やめてくださいませんか」
結局一度も否定できていなかった、『女の子』という呼称。流石に往来で言われるのは恥ずかしく、花はやっと機会を掴んで小さく言った。
「え? なんで」
「そんな歳ではないですから」
「え。だってまだ二十歳そこそこでしょう?」
待てこら。
思わず言いそうになったのを、すんでのところで堪える。
若く見られるのが嬉しいといっても、限度がある。というか、それは、幼く見られているのではあるまいか。
「……二十七です」
「へ?」
「私は、今年二十七になります」
「……は?」
ぱちぱちと瞬かれた目が、心底驚いたことを伝えてくる。嘘だ、と言われるかと思ったけれど、孟徳はなにも言わずに花の頬に手を伸ばした。
「……うわー、まさかこの俺が、女の子の歳を間違うとは思わなかった……」
「ですから、」
「あ、うん、ごめん。おんなのひと、ね」
何に感心しているのか、すごい、という呟きとともにぐりぐりと頬を撫でられる。
天下の往来でこんなことをされているのは、女の子呼ばわりよりもよほど恥ずかしい。やっとそれに思い至って、花は慌てて顔を下げた。
「叫びますよ」
「それはやめて……ごめんごめん。……さて、じゃあ女の子じゃない孔明殿は、甘いものなんか興味ないかな?」
にこり、と、悪戯めいた顔が向けられた。この話の流れでこう振ってくる男は、花が今まで羅列された選択肢の中で、何に一番興味を覚えたか、承知していると言いたげだ。
「……、……女人はいくつになっても、甘味の誘惑に抗えない生き物ですから」
「素直にあまいものたべたいー、って言えば良いのに」
可愛げのない返答にも楽しげに笑って、手を引いて歩き始める。質素な服に身を包み、こうして市場を歩いていると、どこにでもいる男に見える。いや、少しばかり辺りの視線が気になる程度には、見目のいい男ではあるけれども、けれど、それだけだ。
――どうして彼は、天下に野心など抱いたのだろう。
にこにこと辺りを紹介しながら歩くさまが、とても楽しそうに見えるものだから、――天下など望まず、ずっとこうしていればいいのに、と。
人の生き方を、戯れにでも気に掛けるなど、一体どれほどぶりかもわからない。
けれど、素直に、そんなことを、考えた。
* * *
甘味巡りにはじまって、装飾品(此処で無理矢理玉の耳飾を贈られた)、衣料品(ここでも無理矢理華やかな着物を)を見て回ると、あっという間に日が暮れた。
城に戻れば、花には冷たい視線が、孟徳には小言が待っているだろう。けれど街を見て回ることは、軍事的な視線などまるで思い浮かばないほどに楽しかった。
正しく統治された街の活気。定住の地を持たず、戦乱の中乞われて居所を転々とすることの多い玄徳軍では見ることの出来ない街の姿がそこにはあった。長い時の巡りの中で――荒れたところにいた時間の方が遥かに長い花にとって、その景色はあまりにも新鮮で、美しいものに見えた。
孟徳は、良き統治者だ。統治者が法を重んじ、公平で公正であるということが、民にとってどれだけの恩恵であることか。
「俺には、あんまり徳の持ち合わせは無いからさ」
法の整備に力を入れている孟徳の姿に素直に感心すると、孟徳は苦笑しながら言った。
「人を納得させる、簡単な方法を考えたら、そうなっただけ」
「……」
それは徳よりも汎用性の高い、正しい政治の姿だと一瞬だけ思って、孔明である自分が思って良いことではないと、慌ててその思いを押し込める。沈黙をどう取ったのか、苦笑を深くした孟徳を、花には聞き覚えの無い声が呼んだ。
「丞相! ……、孔明、殿」
視線を向ける。
――驚いた。
声の主が身を包む衣服は、どう見てもこの時代のものではなかった。
隣で孟徳があからさまに顔を顰めたのも気にならないくらいに、驚いた。
――四人目は、魏に願ったのか。
「丞相、まさか孔明と、」
「お前の策は承知しているし、軽んずるつもりもない。今は下がれ」
「……」
恐らく叱責めいた言葉を口にしかけた男に対して、孟徳は淡々とした口調で言った。男は一瞬眉を寄せたものの、「失礼しました」と頭を下げる。
策。
――「孔明」に、関係のある策?
ぞくりとした。
どうしてこの可能性を考えていなかったのか――どうして安易に、玄徳達の元に帰れるなどと思ったのか。
物語は、「駒」の手で変わることは無い。駒と化した雲長や花が抗おうとしても、物語の流れとでもいうべきものは、個人の動きなどまるめて飲み込んで、元の居場所へ押し戻してしまう。だからこそ花は、魏に長居することは無いと思っていた。
しかし、――本の持ち主は、違う。
彼等の本の些細な動きが、物語を大きく変える。それはつまり、「駒」の位置も、変えることが出来るということだ。
(――まさか、)
(――まさか、今回の「持ち主」は)
呆然と立ち尽くす花に、「持ち主」が視線を向ける。二十歳ぐらいに見える、若い男。簡素なシャツとズボンに身を包んだ姿は、この空間にはいかにも異質だ。
「……失礼します、丞相、孔明殿」
格式ばった礼をして立ち去る、その一瞬。
(――笑った)
彼は確かに笑った。歪んだ唇が、告げているように見えた。
――逃がさない、と、弄ぶように。
(やっと舞台が整った?)
彼が私を誘うのは、決して帰さないという思いの表れか、自らの国の様子が知れても脅威にはならないという自信の表れか、どちらなのだろうと思ったけれど。
「あそこの料理が美味しいんだ。あ、装飾品ならぜったいあの通りだよ。布ならあっちの区画だし……どこに行きたい?」
有無を言わせず手をひいて、慣れた様子で雑踏を歩く姿は、ただの宝物を自慢したい子供にしか見えない。
曹孟徳は不思議な男だ。
こちらに来てからそう思うのは何回目だろう。世知に長け、知略に富み、時に横暴で、圧倒的に凶悪。人々の囁くその噂もまさしく、彼に相応しいものだと思うのに、花の前での孟徳は、恐ろしいほど敏いのに、呆れるくらい無邪気な、過敏な子供のように見える。
「……、え、と」
「女の子だったら、やっぱりまずは甘いものとかかな」
「……、それ、やめてくださいませんか」
結局一度も否定できていなかった、『女の子』という呼称。流石に往来で言われるのは恥ずかしく、花はやっと機会を掴んで小さく言った。
「え? なんで」
「そんな歳ではないですから」
「え。だってまだ二十歳そこそこでしょう?」
待てこら。
思わず言いそうになったのを、すんでのところで堪える。
若く見られるのが嬉しいといっても、限度がある。というか、それは、幼く見られているのではあるまいか。
「……二十七です」
「へ?」
「私は、今年二十七になります」
「……は?」
ぱちぱちと瞬かれた目が、心底驚いたことを伝えてくる。嘘だ、と言われるかと思ったけれど、孟徳はなにも言わずに花の頬に手を伸ばした。
「……うわー、まさかこの俺が、女の子の歳を間違うとは思わなかった……」
「ですから、」
「あ、うん、ごめん。おんなのひと、ね」
何に感心しているのか、すごい、という呟きとともにぐりぐりと頬を撫でられる。
天下の往来でこんなことをされているのは、女の子呼ばわりよりもよほど恥ずかしい。やっとそれに思い至って、花は慌てて顔を下げた。
「叫びますよ」
「それはやめて……ごめんごめん。……さて、じゃあ女の子じゃない孔明殿は、甘いものなんか興味ないかな?」
にこり、と、悪戯めいた顔が向けられた。この話の流れでこう振ってくる男は、花が今まで羅列された選択肢の中で、何に一番興味を覚えたか、承知していると言いたげだ。
「……、……女人はいくつになっても、甘味の誘惑に抗えない生き物ですから」
「素直にあまいものたべたいー、って言えば良いのに」
可愛げのない返答にも楽しげに笑って、手を引いて歩き始める。質素な服に身を包み、こうして市場を歩いていると、どこにでもいる男に見える。いや、少しばかり辺りの視線が気になる程度には、見目のいい男ではあるけれども、けれど、それだけだ。
――どうして彼は、天下に野心など抱いたのだろう。
にこにこと辺りを紹介しながら歩くさまが、とても楽しそうに見えるものだから、――天下など望まず、ずっとこうしていればいいのに、と。
人の生き方を、戯れにでも気に掛けるなど、一体どれほどぶりかもわからない。
けれど、素直に、そんなことを、考えた。
* * *
甘味巡りにはじまって、装飾品(此処で無理矢理玉の耳飾を贈られた)、衣料品(ここでも無理矢理華やかな着物を)を見て回ると、あっという間に日が暮れた。
城に戻れば、花には冷たい視線が、孟徳には小言が待っているだろう。けれど街を見て回ることは、軍事的な視線などまるで思い浮かばないほどに楽しかった。
正しく統治された街の活気。定住の地を持たず、戦乱の中乞われて居所を転々とすることの多い玄徳軍では見ることの出来ない街の姿がそこにはあった。長い時の巡りの中で――荒れたところにいた時間の方が遥かに長い花にとって、その景色はあまりにも新鮮で、美しいものに見えた。
孟徳は、良き統治者だ。統治者が法を重んじ、公平で公正であるということが、民にとってどれだけの恩恵であることか。
「俺には、あんまり徳の持ち合わせは無いからさ」
法の整備に力を入れている孟徳の姿に素直に感心すると、孟徳は苦笑しながら言った。
「人を納得させる、簡単な方法を考えたら、そうなっただけ」
「……」
それは徳よりも汎用性の高い、正しい政治の姿だと一瞬だけ思って、孔明である自分が思って良いことではないと、慌ててその思いを押し込める。沈黙をどう取ったのか、苦笑を深くした孟徳を、花には聞き覚えの無い声が呼んだ。
「丞相! ……、孔明、殿」
視線を向ける。
――驚いた。
声の主が身を包む衣服は、どう見てもこの時代のものではなかった。
隣で孟徳があからさまに顔を顰めたのも気にならないくらいに、驚いた。
――四人目は、魏に願ったのか。
「丞相、まさか孔明と、」
「お前の策は承知しているし、軽んずるつもりもない。今は下がれ」
「……」
恐らく叱責めいた言葉を口にしかけた男に対して、孟徳は淡々とした口調で言った。男は一瞬眉を寄せたものの、「失礼しました」と頭を下げる。
策。
――「孔明」に、関係のある策?
ぞくりとした。
どうしてこの可能性を考えていなかったのか――どうして安易に、玄徳達の元に帰れるなどと思ったのか。
物語は、「駒」の手で変わることは無い。駒と化した雲長や花が抗おうとしても、物語の流れとでもいうべきものは、個人の動きなどまるめて飲み込んで、元の居場所へ押し戻してしまう。だからこそ花は、魏に長居することは無いと思っていた。
しかし、――本の持ち主は、違う。
彼等の本の些細な動きが、物語を大きく変える。それはつまり、「駒」の位置も、変えることが出来るということだ。
(――まさか、)
(――まさか、今回の「持ち主」は)
呆然と立ち尽くす花に、「持ち主」が視線を向ける。二十歳ぐらいに見える、若い男。簡素なシャツとズボンに身を包んだ姿は、この空間にはいかにも異質だ。
「……失礼します、丞相、孔明殿」
格式ばった礼をして立ち去る、その一瞬。
(――笑った)
彼は確かに笑った。歪んだ唇が、告げているように見えた。
――逃がさない、と、弄ぶように。
(やっと舞台が整った?)