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姫金魚草

三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト

   

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源氏の夢 (花孔明in魏)

R曹丕自引き記念! やったね!
もう恋戦記である意味が何処にも無いとか言ってはいけません。
壊れやすいとはまた別次元の、花孔明が魏に居る展開だと思ってください。(適当ですみません……)


長江の北を制して帝を頂き、魏王として、荊州、益州、涼州の地を平らげたまさに覇者たる人物を父に持つ、と言うのは、一種の不幸だ、と、思う。父は人として持てる全てを持った人物であり、そしてその才を惜しみなく使って、人として望む全てを手に入れた男だった。
声をかけられて、顔を上げる。至高の頂に辿り着いた男が、そこに居る。我が父。視線の先、王者の椅子。
そしてその傍らに――控える、と言うよりも、侍る、と言いたくなるような。
薄らと、曖昧な笑みを浮かべる女。父の傍らで覇業を支えた叡智の軍師。父の愛を一身に受ける美しき寵姫。その修飾詞が全て過分にも見える、何処か幼い風貌の――はじめて見たときからまるで歳を取らないように見える、幼くあどけない顔立ちの、臥龍と称されし、天女のような女。
諸葛孔明。
父は僅かに目を眇めて――お前を正式に嗣子と発しようと思う、と、告げた。傍らで女が、僅かに笑みを深めたように、見えた。


* * *


彼女とはじめて会ったのは、まだ父が魏王でなかったころ――まだ、世が乱れていた頃の、話だった。
父はとかく、人の才を愛していた。臥龍の名が父の心に留まったのは当然のことで、彼女は隠れ住んでいた庵から、引きずり出されるように父に召された。当時父の傍に居た得体の知れぬ人物の働きかけが合ったらしいと聞くが、幼い自分にはその辺りの事情は知れなかった。
彼女は父に使え、父の覇道を支えたが――それもまた、幼い自分には知れぬ次元の話だった。彼女との最初の邂逅は――父が彼女に与えた静かな館の庭に自分が迷い込んだことにより生まれた。当時の自分はただ、こっそりと父のあとをつけていった先にある、花で満たされた美しい庭に何があるのか、純粋な好奇心にのみ囚われていた。

「……おや。悪い子ね」

自分の姿を認めた彼女は、開口一番、困ったようにそう言った。悪い子、と、そんな風に称されるのは初めてで、吃驚したことを覚えている。上の兄二人を喪い、曹孟徳の長子であった自分は、幸いなことに文武の才に恵まれて、褒められることの多い日々を過ごしていたのだ。
「……だれだ、お前は」
「しかも、失礼な子。尋ねる前に、名乗ろうよ」
「……、曹子桓だ」
名乗りなさい、と。
自分の周りに、自分の名を知らぬものなど居なかった。はじめての問いに驚いて、つい、素直に言葉が出ていた。子桓、と小さく呟いた彼女は、それだけで全てを了解したと言いたげに頷いて、言った。
「私は孔明。……悪いことは言わないから、直ぐに此処から出て行って。そうして此処のことは、忘れなさい」
なにを言うのだ、と、不思議に思った。そんな事を言われては、大人しく出て行くことなど出来なかった。応じずに、訊ねた。
「此処はなんだ。お前は、父上のなんなのだ?」
「人の言うことを聞かないところ、似てるなぁ……。私は軍師。慌てなくても、直ぐに逢えるよ。だから」
「軍師? 女の軍師など、聞いたことがない」
「人の話を聞こうよ……。君には厳しい先生が必要そうだね」
「お前も、俺の問いに答えろ」
今思うと、ひどく噛み合わない会話だった。当時の自分は確かに慢心していて、まるでこちらに諂う様子のない女に苛立っていたのだろうと思う。彼女がそんな自分をどう見ていたのかは、知らないが。
「私が居るんだから、女の軍師だって居るんでしょう。……父上の了解を得て、此処に来たわけではないんでしょ? ご不興を買いたくなければ、さっさと出て行ったほうがいいと思うなぁ」
「父上など、怖くない」
「……血筋だね」
怖くないわけはなかったが、そんな言い方をされては、大人しくうなずく気にはなれなかった。彼女は溜息をついたが、どこか面白そうな顔でもあった。
「じゃあどうしたらいいのかなぁ……。……此処はね、王だけが来ていい庭なんだよ」
「父上は、王ではないが」
「じゃあ、王になるものだけが、と言っておこうか。君は王にならないでしょう」
「……」
わからないことを言う、と思った。父が王になるのなら、その長子の自分もまた王になるのではないかと思い――そういう意味ではないことも、また、理解していた。
覇者たる資格があるのかと。
彼女は不遜に、そう問うて居るのだった。お前にそれだけの何があるのかと、問うことは出来なかった。美しく花の咲き乱れる庭、豪奢ではないが美しい館、絶世の美貌というわけではないのにどこか神秘的な容貌をした女――そこはまるで、天女の庭だった。
「ならば、俺が王になるならば、此処に来てもいいのか?」
神かなにか、とかく圧倒的ななにかに問うような気分だった。女は柔らかく微笑んで、いいよ、と、ごく軽く答えた。それは傲岸で我侭な子供を黙らせる、些細な約定だったのかもしれない。
けれどそれは――幼い自分にとって、圧倒的で絶対の、約束だった。


* * *


「俺はまだ死ぬ予定はないんだけどね――古来、後継者争いが元で滅んだ家は多いと諭されては、まぁ、納得するしかないというか」
誰に、と問うのが、野暮だというのは知っていた。あの日から長じて、軍議にも加わるようになった自分は、確かに彼女の言うとおり、彼女に会うことができた。話すことはなかったが、彼女が父の軍師として、的確な献策を行うのを幾度となく目にしてきた。
そしてまた、才気はあるが陰の気のある自分と、天から与えられた詩才を持ち、多くのものに愛される弟と――後継について、争いが起こりかけていることもまた、理解していた。
「とにかく、そういうことだから」
父の言葉は、ひどく適当だった。その程度しか彼がこの問題を気にかけていないということだろうと、内心笑った。見た目も中身も若い父は、真に、自分が死ぬことなど想像していないのだろう。頷いて、礼をとり、立ち上がる。
喜びは――例えば王になるであるとか、弟に勝つであるとか、父に認められるであるとか、そう言ったことに対する喜びは、無かった。覇者の後継が単に喜んでいいものではないということくらいは、承知していた。王になるということは、即ち、人であることをやめるということなのだ。父の姿は、まさにそれを体現していた。
ただ――それでも、込み上げてくるものがあった。二人に背を向けて、知れず、胸を押さえた。遠い日の約束を覚えているのが自分だけだろうと言うことはわかっていて、それでも――ただ、嬉しかった。


* * *


「……相変わらず、表情の読めない奴だなぁ」
「それは、貴方の息子ですから」
「まぁ、俺は当分死なないし、いいんだけど。……あいつ、わかってるのかなぁ」
「貴方が思うよりは、ずっと」
「……君は昔から、随分彼を買っているよね?」
「そうでしょうか? 正しく評価しているつもりですが」
「そう言うなら、それでいいけどね……」
孟徳が笑む隣で、苦く笑う。なにもかも、彼のためにはならないだろうけれど、と、心で思い。
「私は、彼が治める世は、幸せであると思いますよ」
呟きは、おそらく、願いに近かった。


* * *


久方ぶりに訪れた庭は、時が止まったように、同じ様相をしていた。
違うのは、今回はきちんと、手順を踏んで、正門から足を踏み入れたというところだろうか。けれど結局通されたのはあの庭で、あの時と同じように庭に置いた椅子に座って、曖昧に笑んだ女が、出迎えた。
「早速何か、ご相談でも?」
問うた女は、なにも知らぬと言いたげな顔をしていた。そうなのだろうと、淋しく思うよりも納得した。首を振って、唇を吊り上げた。なるべく父に、似るように。
「約定を果たしたと、言いに来ただけだ。今日はそれだけ……また、訪れるが」
「それは、やめておいたほうがいいと思うなぁ。悪いことは言わないから」
似た台詞だった。またそれを言われるのかと、可笑しな気分になった。笑ったまま、答えた。
「それは、出来ぬ話だな。お前は軍師だろう。私が何を問いに来ても、可笑しなことはあるまい」
女は、困ったように笑った。
「……私は、藤壺になるつもりは無いからなぁ」
「……?」
呟きの意図は、知れなかった。問う前に、女は続けた。
「でも私は、知っていてああ言ったんだし。仕方が無いのかな」
「……わけのわからないことを言うな」
僅かに眉を寄せる。女は諦めたように笑って、それから不意に、顔から笑みを消した。
「貴方はいい君主になる。貴方には法を解し、法で国を治める才がある。それは、平時の王に欠かせない才だよ。貴方にしかない才でもある。……私がここで貴方に言えることは、これ以上でもこれ以下でもない。それ以上の何にも、私は応えられない」
「……」
「こんなに待たせたのに、それだけで、ごめんね」
覚えていたのかと――そして、知っているのかと。
畏れるように、そう思った。
ひどく、泣きたいような気分だった。同時に、笑い出したいような気分だった。
「いや、……いや。それで、充分だ」
そしてこれもまた、本心だった。充分だ、と思った。報われないことを、知っていた。報われたいとも、ほんとうは、思っていなかったのかもしれない。
彼女は父の天女だ。二代に渡り、この国を守ることは無い。
思いを弔うように、目を閉じた。この天界のような、時が止まったような庭は、そうして人の想いを葬るに相応しい場所であるように、思った。













(初恋を、弔う)

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