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キストキメキと。 (孟徳)

朝方部屋を訪れた男は、寝起きの花が慌てるのも気にせずにその腕に花を抱え込んで、以来ろくに何を喋るでもなく、花の額となく頬となく唇となく、どこか眠たげな風情のままに、柔らかく唇を落としていた。
寝起きを襲われたに近い花は反駁のタイミングを失って、こちらもまだ眠たいこともあり、自然とされるがままになってしまう。恐らく孟徳は眠らず朝を迎えたのであり、こんな風に疲れた風情の彼が甘えてくることがそう珍しいことではないことを、花はすっかり学習していた。
(……とは、言っても)
(今日はちょっと、長いなぁ……)
いつもならば疾うに、そのまま寝台に倒れて、眠ってしまっている頃である。花のほうはそろそろ覚醒してきて、触れてくる唇がくすぐったいやら恥ずかしいやらで、身の置き所に困り始めていた。
「……、孟徳さん?」
「んー?」
「くすぐったいですよ」
「んー」
聞いているのか居ないのか、半分瞼の落ちた瞳をこちらに向ける。可愛らしいとすら言える顔にすこし笑って、花はやわらかな髪を撫でるように手を添わせた。
「孟徳さん。……そんなにしたら駄目ですよ」
「……なんで」
声もまた半ば眠っている。孟徳がよくせがむ御伽噺を語る口調で、花はゆっくりと答えた。
「口付けには、場所によって意味があるんですよ。そんなにたくさんしたら、どの意味だかわからなくなっちゃいます」
「……いみ、」
「はい」
とろんとした目が花を見る。花はゆっくりと、子供をあやすように孟徳の額に唇を落とした。
「額へは、友情の」
続けて、瞼へ。
「瞼は、憧れ」
なるべく唇を離さずに、添わすように下ろしていく。
「頬は、思いやりの」
孟徳の瞼が落ちていく。力の抜けかけた手をとって。
「手の甲は、尊敬。掌は、懇願」
昔――今はもう遠い世界の恋多き友人が、憧れるように語ってくれたそれを思い出しながら。
「手首は――欲望」
すっかり瞼を閉じた男には、もう聞こえていないだろうと、そんなことまで。
そうして勿論、最後には――

「ここはまた、起きたときに。おやすみなさい、孟徳さん」

すっかり寝息に変わった息を掠め取るように口付けて――花はゆっくりと、やさしく笑う。
友情。憧憬。尊敬。懇願。欲望。――愛情。
この身に抱く全ての想いを、叶うなら貴方に捧げたい。
孟徳の身体にそっと毛布をかけながら――それは甘い、甘い朝の出来事だった。














(丞相は欲張りでした……)
(リクエストを貰っておきながら書かないという所業。明日から頑張ります……)
(1キャラいくつでも書こうと思うので、丞相リクエストもまだお待ちしております。)

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