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終焉の愛 (孟徳と文若)

すみません。とてもBL臭がします。(孟徳×文若くさいです……)
ばっちこいな方のみ、続きからどうぞ。



禅譲の噂が蔓延する中――文若は、孟徳の私室を訪れた。
真偽を確かめようと思ったわけではない。どちらの答えを渡されても、自分が孟徳を信じられよう筈がないことを、文若はわかっていた。曹孟徳は、信じるには、怖い男だ。彼が誰も信じないように、彼もまた誰からも信じられていない。権力とは結局のところそういうものなのかもしれなかった。
「文若です」
扉ごしに声を掛けると、低く、入れという声が応じた。部屋に入ると、持ち帰っていたらしい書簡の広がる机に肘をついて、孟徳はこめかみに指を当てていた。
「……痛むのですか」
「少しな」
「医者を、」
「いや、大事無い」
孟徳は顔を上げて、首を振った。感情の篭らない眼差しを文若に向け、用件を問う。
「噂が、蔓延っております。真実か否かを問うつもりはありませんが、廷内が二分する状況は、よろしくないのではないかと」
「……その話か」
孟徳はゆっくりと、息を吐いた。すこし、苦く笑ったようでもある。
「こんな時間に訪ねて来て、労わる気は欠片もないか。お前らしいな」
「最近貴方はお忙しい。こうした話など、昼間には出来ぬでしょう」
「色気がないなって言ってるんだよ」
「……」
ふざけたことを言う。文若の眉間に皺が寄った。孟徳はうっすらと笑ったまま、首を傾けた。
「お前は、どうしろって言いたいの」
「私がどうしろとは言えません。ご配慮をお願いしたいだけです」
「言いたいことを、言えばいいのに」
孟徳は、文若がなにを――どうあることを望むかなどと、承知しているだろう。それでも言わせようとするのは、試されている、ということなのだろうか。
「私の意見など、疾うにご承知の筈でしょう」
受けて立つつもりはなかった。この男相手になにか本気になって、報われたことなど一度もない。結局のところ、彼はいつも一つ上から眺めているのだ。そうして彼の立場としてもっとも利益となる選択肢を、苦もなく選んでいく。それは人間の所作というよりも、なにか、神めいたものを感じさせた。
静かに告げた文若に、孟徳はそっか、と小さく頷いた。納得したわけではないことが――続いて吐き出された問いで知れた。
「もし、俺が、お前の望むとおりにしなかったら――どうする?」
全て見透かすような目でこちらを見ながら、孟徳は低く訊ねた。文若は思わず瞳を伏せた。この問いを予期せずして、ここに来たことが間違っていた、と、後悔が湧き上がる。孟徳はこうしていつも、人を試すのだ。信じることなど出来ないのに、信用していいかを問う悪趣味。
文若は、答えられなかった。答えられないということがなにより明確だとわかっていながら、もしかしたら文若は、まだ、孟徳を――信じて、いたかったのかも知れない。
けれどそれが信じるということなのか、自分の都合のいいように望むということなのか、それもまた、文若には判別のしようのないことだった。窮する文若を一瞥して、孟徳は、どこか、疲れたように息を吐いた。
「……お前が、女だったらよかったのにと、たまに思うよ」
力の無い、静かな声だった。こちらを見る顔は、僅かに、笑みに近く見える形に、歪んでいた。
「お前が女だったら――信じられなくても、お前が俺を憎んでも、――どういう形でだって、愛することが出来たのに」
文若は僅かに息を呑んだ。目の前の男が文若に残す何らかの思いがあるということが、信じられなかった。けれどそれは、孟徳の本心であるのだろうと、すぐに知れた。
孟徳は人を信じないが――けれどどうしようもなく、人に惹かれてしまう男だった。だから彼は、信じる代わりに愛でるのだ。包み込むように、館に囲う女達であろうと、彼の元に集まる才知であろうと変わりなく、自分はひとつ、上に立って。
けれどそれに政治が絡めば――どうしても、ただその才を愛でてはいられない。孟徳は確かに、自分の才を愛しているのだろうと思った。女にするように、政の思惑の絡まぬところで愛でておきたいというのは、政に関する才しか持たぬ自分に抱くには、随分とおかしな思いであるとは思ったけれど。
(……それでも)
(それでも私は、女でなくて、よかった)
そのように大切にされることが出来たなら、どんなに安らかであっただろう。このように思いがぶつかって、疑心に駆られることもなく、ただ相手への、信頼ではなく愛情だけで、日々を過ごすことができたらどんなにか。
「丞相。……私はならば、男であってよかったと思います」
「……」
このような戯れごとに答えたのが意外だったのだろう。孟徳は僅かに目を眇めた。文若はどこか苦い思いで、言葉を接いだ。
「女であったら、私の才では、貴方を佐けることが出来なかったでしょうから」
そうすれば恐らく、孟徳と出会うこともまた、なかっただろう。それはそれで安らかな人生だったかもしれない、と一方で思い――孟徳を主と頂くことのない人生が想像出来ない、と、一方で思う。
曹孟徳。
結局のところ彼は、荀文若の唯一の主だった。信じることも愛することも、信じられることも愛されることも、出来なかったけれど。
孟徳は目を瞬いて――くしゃりと、顔を歪めた。笑っているような、泣き出しそうな、おかしな顔だった。その顔を見て、ああ、と、溜息をつくように、思った。

(ああ、)
(私はこの人のことを、愛したかった)

もう、喪われてしまった可能性ではあるけれど――信じることは出来なくとも、せめて、想うことが出来ればよかった。孟徳という、もはや人と対等に触れ合うことの出来ない男を、せめて、人として想ってやることが出来ればよかった。
詮無い思いだと、知っていた。ひたひたと、なにかが迫ってくるのを、感じていた。ただ愛することも、ただ愛でられていることもできない文若は、もう孟徳の傍にいることが出来ないのだろう。それなのにどうして、こんな風に笑う孟徳のことを気にかけている自分が、なんだか可笑しかった。
それはもしかしたら、諦念という感情なのかもしれなかったけれど。














(貴方の幸せを願うことは、愛だろうか?)

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