姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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幕を下ろす (孟徳)
(孟徳と歌妓さん。)
(孟徳GOOD後ですが、花ちゃんは出てきません。)
(孟徳GOOD後ですが、花ちゃんは出てきません。)
孟徳から手渡された書簡を、女は柔らかく笑って受け取った。
孟徳の好きな笑みだった。穏やかで優しく、欲のない笑みだ。孟徳は自分が強欲であるのを知っていたから、こういう女が好きだった。
「はい、……確かに、この通りに」
女は書簡の上に視線を滑らせると、特有のゆったりとした声で言った。孟徳は気安い笑みを返して、少し困ったように眉を下げた。
「悪いね。君にはいつも、面倒事ばかり頼んでる気がする」
「今更ね」
女はころころと、鈴の鳴るような声で笑った。そして、紅を引いた唇を柔らかく上げたまま、それもこれで最後でしょう、と、言った。
気負いは無かった。
本当は、永遠にそうであると、思っていた。あの柔らかで停滞した孟徳の作り上げた楽園に、終わりが来るなど想像もしていなかった。それでも女は、納得していた。とても寂しく――けれど同時に何処か、嬉しいような気もしていた。
「……本当は、」
変わらず笑みを浮かべ続ける女に、孟徳は迷うように口を開いた。
「本当は、これは、俺が死ぬときに――君に、渡すつもりだったんだけど」
孟徳は心底申し訳なさそうな顔をしていて、思わず吹き出しそうになった。死に逝く際に、囲った女の後について指示する書簡を受け取ったら、例えばあの頭の固い文官辺りはそんな場だというのに孟徳を叱るかもしれない。それでも目の前の男は、宜しく頼むよと笑って死ぬつもりだったのだろう。
「貴方が死んで、これを渡されたら、……例えば私は、聞かずに死んだかもしれないわ」
ゆっくりと想いを辿るように、口を開く。孟徳とは随分長い付き合いで、対等であったことは一度も無かった。館に居る全ての女がそうだろう。あの館は柔らかく優しく包まれて、怖いことなどなにもなかった。そうしてくるりと守られた女達は、庇護者の死に耐えることが出来ただろうか。
孟徳は目を瞬いて、それから、ふっと息をつくように笑った。
「それなら俺は、今、こうすることが出来て良かったよ」
残酷な男だ、と、可笑しいような気分で思った。
その方が、幸せだったかもしれないわ。
そう続くはずだった言葉は、こんな笑みを向けられては、最早口には出せなかった。言えば孟徳は、困るだろう。こんな状況になっても彼を困らせたくないと思っていることに気がついて、女は少し、自嘲するように笑った。
貴方に殺される覚悟は、随分昔から、出来ていたけれど。
貴方の居ない世界で生きる覚悟は、全く出来ていなかった。
そんなことを言ったら、男は、困ったように笑うだろう。
そんなことを言っても、男は、困ったように笑うだけだろう。
結局困らせたくないと言って、傷付きたくないのだと、知っていた。随分前から、判っていたことであるような気がした。孟徳と共に生きるのは、辛い。孟徳と共に生きることが出来なくなった時から、彼を置いて安寧の中にたゆたってしまった時から、この終わりは決まっていたのだ、と、思った。
貴方に殺される覚悟は、本当に、出来ていたの。
でも、貴方と生きることは、随分前に、諦めてしまったのね。
幼い少女の顔が、脳裏に浮かんだ。孟徳に殺される覚悟の無い、孟徳のために死ぬ覚悟のある、孟徳と共に生きることに決めた、少女の顔。清々しいようで、あまりにすkっきりとしているものだから、涙が出そうになった。哀しいからじゃないと、寂しいからじゃないと、自分に言い聞かせるように、思った。
(蒼天で、曹操が側室の身の振り方を遺言に書いているのを読んで、なんとなく、)
孟徳の好きな笑みだった。穏やかで優しく、欲のない笑みだ。孟徳は自分が強欲であるのを知っていたから、こういう女が好きだった。
「はい、……確かに、この通りに」
女は書簡の上に視線を滑らせると、特有のゆったりとした声で言った。孟徳は気安い笑みを返して、少し困ったように眉を下げた。
「悪いね。君にはいつも、面倒事ばかり頼んでる気がする」
「今更ね」
女はころころと、鈴の鳴るような声で笑った。そして、紅を引いた唇を柔らかく上げたまま、それもこれで最後でしょう、と、言った。
気負いは無かった。
本当は、永遠にそうであると、思っていた。あの柔らかで停滞した孟徳の作り上げた楽園に、終わりが来るなど想像もしていなかった。それでも女は、納得していた。とても寂しく――けれど同時に何処か、嬉しいような気もしていた。
「……本当は、」
変わらず笑みを浮かべ続ける女に、孟徳は迷うように口を開いた。
「本当は、これは、俺が死ぬときに――君に、渡すつもりだったんだけど」
孟徳は心底申し訳なさそうな顔をしていて、思わず吹き出しそうになった。死に逝く際に、囲った女の後について指示する書簡を受け取ったら、例えばあの頭の固い文官辺りはそんな場だというのに孟徳を叱るかもしれない。それでも目の前の男は、宜しく頼むよと笑って死ぬつもりだったのだろう。
「貴方が死んで、これを渡されたら、……例えば私は、聞かずに死んだかもしれないわ」
ゆっくりと想いを辿るように、口を開く。孟徳とは随分長い付き合いで、対等であったことは一度も無かった。館に居る全ての女がそうだろう。あの館は柔らかく優しく包まれて、怖いことなどなにもなかった。そうしてくるりと守られた女達は、庇護者の死に耐えることが出来ただろうか。
孟徳は目を瞬いて、それから、ふっと息をつくように笑った。
「それなら俺は、今、こうすることが出来て良かったよ」
残酷な男だ、と、可笑しいような気分で思った。
その方が、幸せだったかもしれないわ。
そう続くはずだった言葉は、こんな笑みを向けられては、最早口には出せなかった。言えば孟徳は、困るだろう。こんな状況になっても彼を困らせたくないと思っていることに気がついて、女は少し、自嘲するように笑った。
貴方に殺される覚悟は、随分昔から、出来ていたけれど。
貴方の居ない世界で生きる覚悟は、全く出来ていなかった。
そんなことを言ったら、男は、困ったように笑うだろう。
そんなことを言っても、男は、困ったように笑うだけだろう。
結局困らせたくないと言って、傷付きたくないのだと、知っていた。随分前から、判っていたことであるような気がした。孟徳と共に生きるのは、辛い。孟徳と共に生きることが出来なくなった時から、彼を置いて安寧の中にたゆたってしまった時から、この終わりは決まっていたのだ、と、思った。
貴方に殺される覚悟は、本当に、出来ていたの。
でも、貴方と生きることは、随分前に、諦めてしまったのね。
幼い少女の顔が、脳裏に浮かんだ。孟徳に殺される覚悟の無い、孟徳のために死ぬ覚悟のある、孟徳と共に生きることに決めた、少女の顔。清々しいようで、あまりにすkっきりとしているものだから、涙が出そうになった。哀しいからじゃないと、寂しいからじゃないと、自分に言い聞かせるように、思った。
(蒼天で、曹操が側室の身の振り方を遺言に書いているのを読んで、なんとなく、)
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