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姫金魚草

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祝福を知る (孟徳)

(色々と似非い妄想が渦巻いています)


「それじゃあちょっと、行ってくるよ」
孟徳はごく近くに出かけるような口調で言って、花は僅かに眉を寄せて口を開こうとした。けれど男のやさしい指が、花の唇に軽く触れて、それを留める。
「駄目だよ。連れて行けない。今の漢中は死地だよ。それに」
それに、と、孟徳は花を宥めるように優しい声で言った。
「今の彼らに会うのは、彼らにとっても君にとっても、ただ辛いだけだろ」
花は、俯いた。今の花はもう軍師でもなんでもなく、あえて言うならば孟徳の伴侶という、ただそれだけの存在だ。それを不服と思ったことはなく、本もない花に軍師働きをすることは最早不可能だ。けれど、今だけは、自分に力がないことが哀しかった。
漢中で、孟徳の古参の武将が死んだ。元譲の弟で、旗揚げから孟徳とともに歩んできたうちの一人だという。廷内では漢中は捨て置くという声も根強かったが、孟徳は自ら漢中に軍を出すことに決めた。
「弔いなどと、やっていたらキリが無いけど。でもまぁ、玄徳とは、けりをつけないといけないしね」
孟徳は笑ったまま言って、花の唇から手を離した。やっと声を解放されて改めて言葉を出しかけた花に、けれど次は、柔らかな唇が唇を塞ぐ。
冷たい、と思った。
「……ちゃんと挨拶してくるからさ。君は此処で、俺を待ってて」
希うように言われれば、頷く以外の方はなかった。
彼らに会いたいわけではないと、言えなかった。
会ったとして何が言えただろう。子龍の手を振り払い、玄徳の言葉を打ち捨てた花に、彼らに想いをかける資格はなかった。たしかに花は裏切り者で、詫びる術も贖う術も持たず、道が重なる未来など、どこにも見えよう筈がなかった。

* * *

孟徳は僅かに米神に指を当てて力を込めた。
「丞相?」
脇に使える武官が案じるような声を上げるのに、軽く手を振って大事無いと答えた。暫く収まっていた頭痛がぶり返した理由を、知っていた。
妙才。また一人死んだと、そんな事を思った。そうしてどんどん、人が減っていく。それが乱世の習いなのか。何をしてもどうせ皆、死んでいくのではないか。思えば何処か、虚しいような気さえした。
「戦がないと、生きている気がしないが。……あればあるで煩わしいな」
呟くと、武官は反応に困ったような顔をした。らしくない呟きだと知っていた。決着をつけようという気分が、不思議なほどに沸き起こってこない。ただ、哀しい。何が哀しいのかもわからずにただ、行軍の道行きは静かだった。

* * *

「諸葛孔明、これほどのものか」
彼女の師匠だという男を軽んじていたわけではなかった。
けれど若しかしたら、知らぬということが致命的であったのかもしれない。孔明の戦略と戦術を得た玄徳軍は最早、流れの傭兵集団ではなかった。元々前線で戦い続けてきた群なのだ。知略を得させればこうなることをある程度は予測していたが、想定以上と言わざるを得なかった。漢中の地を取り戻すことは最早叶わず、益州に続いて漢中を得た玄徳軍はもはや一勢力ではなく国というべき存在になる。
玄徳とも長い付き合いだな、と、まるで旧友を思うかのように思った。眩しいくらいにまっすぐで、純な男だった。最初に会ったのは、反董卓連合の陣でだ。あの時はまだ孟徳の軍勢は小さかったが、玄徳はそれに輪をかけて無勢で、そのくせ妙に堂々としていた。食えない男だと、そう思ったことを思い出す。
生き残っているのは、自分たちだけだ、という気がした。
黄巾の乱から十年と少し、数々の群雄が中華の地に立って、争って、死んでいった。玄徳はもとより、孟徳よりも余程巨大な勢力を誇った本初や、圧倒的な武勇を響かせた奉先、今は揚州で機会を伺っている若い君主の父文台と兄伯符。たくさんの者が覇を競ったけれど、あの時からこうして立ち続けているのは確かに自分たちだけだった。
不意に脳裏に、少女の姿が閃いた。群雄の中で生き残った二人。その二人に接触している、異世界から来た少女。
まるで運命のようじゃないか、と、思った。
まるで仙女のようじゃないか、と、――笑った。
「勝利の、女神か」
口に出して呟けば自然口の端が上がってしまいそうな、そんな気がする言葉だった。
孟徳は神を信じていない。神を信じるくらいなら己を信じるし、神も己も、何も信じなくても生きていくことなど容易かった。
それでももしも彼女が神なら。
加護を乞う事も、信じることも崇めることも、幾らでもしようと笑いながら思った。
仲康に守られて逃げる道筋。聞こえないと判っていながらも、叫ばずにはいられなかった。
「――劉玄徳! 漢中の地は一時預けた!」
負けているのに、奇妙に晴れやかな気分だった。こうして天下三分が成ったとして、勝つのは自分だという気がした。漢中を手に入れた玄徳に、仲謀は必ず荊州の返還を求めるだろう。子敬が病に倒れ、二国の同盟は最早風前の灯だ。そうして三つ巴で争う時代が来れば、勝つのは単純に国力で勝る魏となろう。
「だが、――だが! 悪いけど、天女はもう、俺のものだ」
これからも人は死ぬだろう。これからも、沢山の者を喪うだろう。それでも如何して、劉玄徳と自分は、最後まで対峙し合う運命である気がした。そんな二人の共通項である一人の少女が、自分を――曹孟徳を選んだ。
これはもう、天命だ。
頭痛はもう、どこかに消え去っていた。喪ったものも喪うものも、全てが因縁の前に吹き飛んだ。そうして唯一つ残った光が、孟徳の道を照らしている。彼女にそんな自覚はまるでないだろうが、彼女は――あの非力で幼く、優しく柔らかなあの少女は、たしかに曹孟徳の、祝福であるのだった。

* * *

「これで、一区切り」
孔明は涼しい顔のままに言ったが、主はその声に答えなかった。
「……玄徳様?」
訝しげな声にはっとして、どこか遠くを見ていた目が、孔明を捉える。ぱちりと二度瞬いて、玄徳はなにか、やっと地に足がついたような風で、笑った。
「どうかなさいましたか」
「いや、……曹孟徳のことを考えていた」
「……」
「声が、聞こえたように思ってな。届くはずもないのに」
孔明はいつもの読めぬ笑みのまま、どうでしょうと笑った。
「聞こえたのかもしれません。……玄徳様とあの男は、そういう風に生まれついておいでだ」
「……?」
「因縁ですよ。……かの乱から十年。変わらず立ち続けるものの、なんと少ないことか」
孔明もまた、どこか遠くを見るような顔をした。遠い空に何を見るのか、玄徳には少し判るような気がした。
「因縁か。……終わるときは、死ぬときだろうな」
「どちらかが滅びるとき、でも、過言ではないでしょうね」
そういう風に生まれついている、と。
孔明は先の台詞を、もう一度繰り返した。玄徳は言いかけた言葉を、飲み込んだ。
彼女は。
彼女はこの戦で、泣いているだろうか。
問うことは最早、無意味だった。彼女は彼女自らの意志で、あの国をあの男を、選んだのだ。それがどういう選択なのか、遠く離れたこの地では知れよう筈もない。
「そう簡単に、死んでも滅びてもやれないな。……勝者の感傷か? これは」
負け続けが長くてよくわからん、と玄徳は笑い、その言葉に孔明もまた、小さく笑った。
「勝っていただかなければなりません。……天命が何処にあるのか問う」
「そういう風に生まれついている?」
「そういうことです」
互いに言葉を避けていた。曹孟徳、と、胸のうちで呟いた言葉には、不思議なほどに陰の色が薄かった。憎むべき相手で、倒すべき相手だ。
それでも――この乱世を生き抜いてきた二人だ。
もう一度、空を仰いだ。蒼天の空は、どこまでも続いているようで、天の意思を問うように、玄徳は僅かに瞼を落とした。














(蒼天を読破したらなんとなく書きたくなった)
(というか、丞相が玄兄に「悪いけど貰ったからよろしく!」っていう話を書きたくて、そのために赤壁以降の邂逅の機会がありそうな漢中を選んだのに結局上手くかけなかった……修行不足。このあと荊州で関羽が死んで、そうすると孟徳もそろそろお亡くなりなんだけどそこはまぁ、年齢設定が違うしとかうだうだ考える。)

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