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あなたの幸せを願う (孟徳)

戦支度を整えた男を見るときはいつも、胸が痛んだ。
無表情の男の手甲を、せめてもの想いの現われとして丁寧に結ぶ。彼を守って欲しいという想いを込めて。
「……ごめんね。悲しい顔をさせてしまう」
「いえ」
御武運を、と、震える声で囁く。負けるはずのない戦だということを、知っていた。けれど震えた声に、彼は何を見ただろうか。苦笑が深くなるのを見る。
「ごめんね」
彼はそれ以外を口にしなかった。仕方の無いことだとも、望んでやっているわけではないとも、何一つ。全てがただの言い訳に過ぎないことを知っているからかもしれないし、そうでなくても彼は何も言わないかもしれないとも思った。多弁で、けれど、自分の為の言葉は、口に出せない人なのだと、もう、知っていた。
ゆっくりと首を振って、祈るように男の左手をとった。消えることのない火傷痕を、包み込むように。
「悲しく、ありません」
嘘をついた。嘘だとわかられることを知っていて、嘘をついて、笑った。男が傷付いたように眉を歪めるのを見て、言葉を重ねた。
嘘ではない、言葉を。

「私は、自分で選んだんですから」

選ぶということは、捨てるということだ。
噛み締めるように思って、男を見つめた。男は僅かに目を見開いて――やはり、なにか痛みを堪えるように、目を眇めた。痛みから逃れられないことは、知っていた。花はこの痛みから――この哀しみから、苦しみから、逃れることはできないだろうし、そうすれば男もまた、花を思って心を痛めるだろう。
男が、どんな痛みも取り除きたいと思ってくれていることを、知っていた。申し訳ない、と思うけれど、同時に、抱えなければいけない痛みだ、と思った。
(彼を、想うことに決めた)
(彼の幸せを、願うことに、決めた)
それはどうしても、彼以外の幸せを願わないということに、なってしまうのだ。
「……ごめんね」
三度目の言葉は、優しかった。宥めるように落とされた唇と共に、男は囁いた。せめて安らかであれ、と、祈るような言葉に、すこし、涙が出た。














(蜀との決戦前のイメージで。)
(「君にはそんな選択をしたと、自覚して欲しくなかったんだけどなぁ」)

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