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救済者 (公瑾)

ぐるぐるぐるぐる、と。
茶に沈めた干果を潰すようにかき混ぜる。そんな花を囲んだ二喬は、んー、と鏡合せのように逆方向に首を傾けた。
「不思議」
「不思議ねー」
「だから、私に言われても……」
花は溜息と共に、すっかり冷めた茶に口をつけた。二喬はでも、とまた口をそろえた。
「もう祝言も近いのに」
「軽いちゅーだけ、って、公瑾、へたれ?」
「へた、」
この二人が歯に衣を着せるということを知らないのはしっているけれど、本人が聞いたら確実に笑顔の上で青筋を立て、同時にちょっと傷付いたりするだろう。そうなると宥めるのも大変だから、なるべく言わないであげてほしいなぁ、とすこしずれた感想を抱いて――それから、僅かに眉を下げる。
「それは多分、私が、……私が、子ども過ぎるからで」
公瑾と花は、一回り以上年が違う。彼はいつも飄々としていて、恐らくは花のペースに合わせてくれているのだと、そう、思うのだけれど。
(……もしかして、)
(もしかして、子供過ぎるから――そんな気にならないとか)
不安が頭をもたげないことも、無いではないのだ。
公瑾の花への態度はとても優しく、紳士的だけれど――それが恋人のものかと言われると、首を傾げたくなるときもある。それは彼が大人だと、そういうことなのだろうけれど。
(寂しい気がするのは――私が、子供だからなんだろう)
お茶を一気に煽ると、渋みと、甘い干果が交じり合った味が――まるで今の花の気持ちのように、割り切れないものを齎した。


* * *


花はすでに公瑾の館で暮らしている。
夕刻を過ぎたところで、仕事を終えて帰宅した公瑾を彼の部屋で迎えるのが、花の日課となっていた。
祝言への支度もあり、彼は普段よりも更に忙しい日々を送っていた。周家はこのあたりでは知れた名家で、となるとやはりそうした儀は大掛かりにならざるを得ないらしい。花の身代については、公瑾が上手くやってくれたようで、花自身は詳しく知らされていなかった。
「お疲れ様です」
疲れた様子で肩を叩く公瑾に茶を差し出す。礼と共に受け取った男は、寝台に腰掛けてゆっくりと息をついた。
「どうも、雑事が多くて困ります。仕事を任せられるようなものが、はやく育てばいいのですが」
呉では、優秀な将軍が政務を兼任するのが一般的なのだと聞いた。彼は文句無く優秀な将であり、同時に文官としての才も秀でている。どうしても、軍事に政務にと引っ張りだこになってしまうらしい。
「なんだか、すみません」
「? ……なぜ貴女が謝るのです」
「お忙しい時期に、ますます忙しくさせてしまっている気がして」
花の立場について、そして祝言の段取りについて。こちらの作法もわからず、なんの立場も持たない花は、彼の力になることが出来ない。迷惑ばかりかけてしまっているようで、花は眉を下げた。
なにについていっているのか、すぐに知れたのだろう。公瑾は柔らかく笑った。
「気にすることはありませんよ。日取りを急ぐのは、こちらの事情もありますし」
「? 事情ですか?」
「ええ」
それ以上を語る気はないようで、公瑾は頷く以上のことをしなかった。なんだろう、と首を傾げていると、そんなことよりも、と公瑾はこちらを見た。
「二喬が訪ねて来たそうですね」
「あ、はい。こちらの館に来てから、不慣れだろうとよくお話をしにきてくれて」
「そうですか」
今日の話の内容は、とても彼に言えるようなことではない。追求されたらどうしようか、と思っていたため、そこで彼が言葉を止めてくれたことは、ありがたかった。
しばし、沈黙が落ちる。
柔らかな静寂は、嫌いではない。穏やかで、安らかで、眠ってしまいそうな。
けれど。
触れ合わない距離と、穏やかな時間。足りないと――思っていることに気がついて、心臓が跳ねた。
(昼に、あんな話をしたからだ)
(だから、こんな)
物足りないような、心細いような気分になるのだ。僅かに身じろいだ花に、公瑾が不思議そうに目を瞬く。訊ねられても、答えられない。触れて欲しいだなんて、言えない。
俯いた花の手に、公瑾の手が、重なる。
「……?」
「やれやれ、……また、余計な事を言ってくれたようだ」
「え、」
「触れても、構いませんか」
公瑾は困ったように笑った。もう触れている――と、手に視線を注いで、ああ、もっとと言うことかと――頬が染まった。ごく小さく頷くと、重ねられた手が捕まれて、持ち上げられる。驚いて握りそうになったのを、指をなぞって開かせて。
掌に――唇が、触れた。
「まさか。……まさか、私が貴女に触れたいと思っていないなどと――そんな勘違いは、していませんよね?」
「え、」
「私は貴女に、二度救われた」
二度。
言っていることがよくわからずに居ると、公瑾はなにか、苦いような顔をして言った。
「命を。……そして、心を。貴女は私の、救世主のようなものなのですよ」
「……」
彼が何について言っているのか、おぼろげにだが理解出来たような気がした。許すなどと、言ってよかったのか、今になってはわからないけれど――けれどそれで彼が救われたのなら、間違っていなかったのだと思える。
「それは、……私がただ、公瑾さんに、死んで欲しくなかっただけで」
結局のところ、それは花の、我侭でもあったのだ。そんな風に言われると困ってしまうし――なにか、寂しいような気もしてしまう。眉を寄せる花に、公瑾はまた、柔らかな口付けを落とした。
「それでも、ですよ。だから私は、乞うことしかできない」
「……乞う?」
「ええ。全てを――貴女に救われた私は、簡単に、貴女を汚すことも出来ない」
囁くような言葉に滲む、それは、流石の花でも勘違いのしようのない色だった。
「だから祝言を、……せめてはやく体裁だけでも整えて」
先ほどの、事情、という言葉が脳裏を掠める。
「そうしてやっと、……許しを乞えると思ったのですが」
不安にさせましたか、と、笑った彼の目が――すこし、怖いような気がした。
手加減されていたのだと、知っていたつもりで、なにも、判っていなかった。
公瑾の唇が、花の掌を這うようになぞる。背筋に何か這い上がってくるような感覚に、花はびくりと身を震わせた。
「許すと、言ってくれますか」
「……っ」
心臓の音が煩い。指先まで脈打っているようで、全て彼に知られているようで――身が竦んだ。許すと言ったら――全て許すといったなら、本当に全て、もって行かれてしまうのだと、わかった。
ふるりと――もう一度大きく震えた花に、公瑾は唇を離して、笑った。
「……今度は別の意味で、不安がらせてしまいましたかね」
そう言った彼は、もうすっかりもとの顔になっていて、それにホッとしてしまった花は、やはり自分はまだ子供なのだと内心で思う。そして彼は大人で――感謝しなければいけないのだと、改めて思った、ところで。
「ですが。……できれば、祝言のときには、許していただけると、嬉しいのですが」
「……!」
頬をするりと撫でられて、もう一度、体温が上がった。顔を真っ赤にして俯く花に、公瑾は楽しそうに笑って、今はまだ優しい大人の眼差しで、花を見つめたのだった。














(公瑾で掌)
(たまには大人らしい公瑾で。……大人らしいということはエロいということではない筈なのですが)

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