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姫金魚草

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やさしいキスを (翼徳)

花は少し、浮かれていた。
玄徳軍が益州に居を構えてから、どうにも忙しい日々が続いていた。
「そろそろ落ち着いてきたし、明日はおやすみにしようか」
「え」
突然孔明がそう言って、明日は一日休みになった。きっと明日はいい天気だよと、かの孔明のお墨付きまで頂いた。なんだかとてもうきうきしてくる。
翼徳は休みではないだろうけれど、調練が早く終わったら、少しのんびりできるかもしれない。久しぶりに手の込んだものを作って待っているのもいい。とにかく、お休みだ。孔明について働くのは楽しいし、役に立っていると思うと誇らしい。それでも毎日書簡に向かい、ばたばたと廷内を走り回りでは、たまの休みも欲しくなる。
「ありがとうございます!」
「うんうん、弟子の喜ぶ顔は嬉しいねぇ。ま、ゆっくり羽を伸ばしておいで」
明後日からはまたしっかり働いてもらうからね――そう釘をさされても、やはり、浮き立つ気分は止められなかった。

* * *

「……翼徳さん、遅いな……」
浮き立つ気分は、数刻も持たなかった。帰ってきて、早速休みのことを伝えようと、わくわくしながら待っているのに、大分夜が更けても翼徳は帰ってこない。
今日は宴の予定はなかったと思うんだけど、仕事が忙しいのかな。冷めた夕餉を前にしょんぼりとしていると、表から声が聞こえてきた。
帰って来た。
ぱっと顔を上げて、館を出、門へと走る。遅かったですねと、文句の一つも言ってやろうと、そう思っていた花は、表の様子を見て固まった。
「……すみません、すっかり潰れてしまわれて」
申し訳なさそうな顔をする兵士が三人。とにかく大柄な翼徳を運ぶのには、並みの兵士が三人は要るということか。微妙に現実逃避気味に思ってから、我ながら冷えた声だと自覚しつつ、問いを発した。
「……今日は、宴席の予定がありましたっけ?」
「え、と。翼徳将軍が、相談があると言って、お酒を持ってこられて」
彼等は悪くない。花にも勿論そんなことはわかるので、追求するのはやめにした。
「そうなんですか。……すみません、私一人じゃ運べないので、中までお願いしてもいいですか?」
「はい」
兵士三人はとかく恐縮した面持ちだ。そのうちの一人が見知った顔だと気がついて、花はますます気分が下がるのを感じた。
「あれ、……芙蓉姫の」
「あ、えっと、……はい」
僅かに頬を染めて頷いた兵士は、雲長の部下の、名前は忘れてしまったけれど、最近芙蓉姫の想いの通じた相手だ。これは芙蓉姫にまで迷惑をかけたかもしれないと思えば、思わず溜息も漏れてしまう。
明日の休みは、この件を質すところからはじまりそうだ。……うきうきしていた気分が吹き飛んでしまうには、充分すぎる出来事だった。

* * *

三人がかりで寝台まで運んでもらって、やっと落ち着く。翼徳は何も知らぬ顔で、平和な寝息を立てている。恨めしい、と思いながら、つんとその頬をつついた。
最近はこんなことも、随分減ってきていたのに。
翼徳は、酒癖のいいほうではない。それでも花と――祝言を挙げてからは、あまり無茶をやらなくなっていた。
喉もと過ぎれば? ……少し違うか。
(それとも、……違わない、のかな)
嫌な考えだ。慌てて頭を振る。相談事と言っていた。もちろん、なにか事情があって……
(……相談、ごと)
嫌な考えが――嫌な方向に、結びつく。
今はこうして二人――花も孔明の元で働いているから、家のことを手伝ってくれる者は雇っているけれど、基本的には二人で、館で暮らしている。
(いやに、なった、とか)
人の気持ちは移ろうものだ。花だって、それくらいのことは弁えている。
反面、突飛な考えであるともわかっていた。翼徳は変わらずやさしいし、忙しいけど幸せな日々を過ごしていると思う。
(……だけど)
疑う理由も、――あるのだ。
花は、眠る翼徳を見下ろした。子供のような顔で眠っている。……寝顔を見るのは、久しぶりだった。
同じ褥で寝ていないなど、芙蓉姫あたりが知ったら愕然とするだろう。物凄い勢いで問いただしてくるか、翼徳のところに殴りこみに行くか。
遅くなることもあるからと。
自分は身体が大きいからと。
そんな風にしどろもどろに言って、翼徳は花のために寝室を一つ誂えた。どちらも頷ける理由ではあったので、それ以来花はそちらで寝起きをしている。
寂しいと思うのは、はしたないだろうか。
花は翼徳の髪に手を伸ばした。癖のある、柔らかい髪。なんだか随分と、ふれていないような気がした。
「……さみしい、です」
だからあんなに、休みが嬉しかったのかもしれない。翼徳と少しでも長い時間一緒にいられるかもしれないと、思ったから。
その瞬間に。
「……ん」
手の中の髪が、ふわりと揺れた。小さな声の後、ゆっくりと目が開かれる。
起こしてしまった、と、慌てて手を離す。
そのままひっこめようとした腕が、掴まれた。
「!」
「……花、」
まだ酔いが残っているのか、とろりとした目をしている。手が熱い。どうしていいかわからずに固まっていると、そのままぐいと腕を引かれた。
翼徳の胸に、倒れこむような形になる。酔っているからだろうか、なんだかとても熱い肌に、どくんと一つ大きく鼓動が跳ねた。
「翼徳さ、」
「花、」
息も熱い――なにもかもが、融かされる、と思うほどに、熱かった。身動きが取れなくなる。痛みを感じるほどの、強い力で抱きしめられた。
「……っ」
息が詰まる。痛いのに、嬉しいと思う。もっと強く抱きしめて欲しいと思う。抱きしめ返そうと背に回した腕が、呟きで止まった。
「壊さないかって、……聞いたんだ」
「……え?」
「ちっちゃくて細くてやわらかくて。……オレみたいなのが触ったら、潰れちゃうんじゃないかって」
何の話だろうと思い、思い至った瞬間に、体温が上がる。
「大丈夫だって笑われた。……大丈夫なのかな。痛くない?」
少し痛い。けれど、嬉しいほうが強いから、痛くないです、とささやきを返した。あまり、聞こえている気はしないけれど。
「やさしくしたい。痛いのはダメだ。……でも一緒に寝てたり。ぎゅってしてると。そういうことを忘れちゃうんだ」
「……」
そんなことを。
そんなことを、考えていたのか。
なんだか脱力してしまうような、笑ってしまうような――どうしようもなく、嬉しいような。
口の端が上がってしまう。止まっていた手で、思い切り抱きしめる。
「忘れちゃってください」
そんなことは、忘れたって、全く構わないことだから。
「忘れて――もっとずっと、ぎゅってしてください」
どうしようもなく幸福だ。花の声に、翼徳が頷いたような気がした。腕の力が僅かに緩んで、顔が見えた。まだとろんとしている目だ、今日のことは忘れてしまうかもしれない。
けれど――こうして想いが聞けた。
翼徳の唇が、降りてくる。反射で目を閉じると、その優しい唇は、唇ではなく頬におちた。いとおしむように慈しむように、とにかくただただ、大切にするように。
花もまた、同じ思いを込めて、口付けを返した。今日はこのまま、眠ってしまおうと思う。くっついて、ぎゅっとして。

何せ明日は、おやすみなのだから。














(頬へのキスは、厚意の)
(まだぷらとにっくな……)(え)

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