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姫金魚草

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10 世界よ歪め 

(あなたのために)


 寝顔を見ているのが辛かった。
 眠っているときの彼女は、まるで年齢を感じさせない、孔明の知る『花』そのままの顔をしていた。
 諸葛孔明としての長い日々を思い出した。そしてその中にある、『花』という少女の記憶。優しくやわらかい、それは、孔明の愛した少女だった。
「……」
 今、彼女を愛しいと思うのが、その記憶に引き摺られている所為なのかが判然としなかった。ただ、痛みだけがある。この胸の痛みの所為で、感情の理由がわからなくなってしまっている。
 見ていられなくて、先に部屋を出た。

 自分たちは同じもので、まったく違うものでもあるのだ。
 あてがわれた役割を、押し付けあって奪い合った。
 そうして孔明ははじき出されて、花は永遠の牢獄に閉じ込められて、すべてを忘れてしまった。
 ここは、たがえようもなく牢獄だ。
 ――そして孔明には、孔明だけには、かつて愛した少女をここから解き放つことが出来るのだった。


 とりあえずの旅のための支度を終えて宿に戻った孔明は、花が出かけていることを知った。
 まずい、と、思った。彼女がこの地でやろうとすることなど、一つしかないことを知っていた。慌てて踵を返し、遠い遠い記憶をたどる。といっても町のつくりなどどこもそう大差はなくて、官吏の家がある場所など知らずともわかろうというものだ。
 そうして走ってたどり着いた先で、孔明は、間に合わなかったことに気付いた。
「おねーさん? どうしたの?」
「ううん……ごめんね、ありがとう。なんでもないの」
 立ち上がって、気丈に笑って、けれど明らかに打ちのめされて、花はそこにいた。痛々しい、青ざめた横顔。
 彼女は何を知っただろうか。なにを見ただろうか。
 こちらを見なければいいと思った。逃げ出したいような気がした。花が孔明を視界に収めるまでのごくわずかな時間を、永遠のように感じる。
 はたして。
 視線が合った瞬間に、孔明は、孔明がすべてを思い出したように、花もまた気づいたのだということを、知った。
「……花、」
「師匠」
 驚いたように、花は目を見開いた。お互いの口からこぼれた言葉の自然さが、泣きたいくらい胸に痛かった。そしてこれが、正しい形なのだ。今確かに孔明は、どうしようもない安寧が自分を包むのを感じていた。
「行こうか。……ボクたちには、やらなきゃいけないことがあるからね」
 自分の口からあふれ出る言葉は、花を師匠に、孔明を弟子に据えた子弟ごっこが、ただの欺瞞であったかのような思いを孔明に抱かせた。花の目が、自分を見ている。
 二人には為すべきことがあった。そして、それとは別に、孔明には、やらねばならないことがあったのだ。
「はい」
 花はほんのすこしだけうつむいて、頷いた。孔明は少しだけ考えて、迷って、やっと、花の頭に手を置いた。
「大丈夫だよ」
 花は顔を上げた。混乱の残る瞳に、なるべく優しく見えるように笑いかける。
「ボクが君を、導いてあげる。――全部まとめて、君はボクに預けてしまっていいんだ。ボクが君を」
 孔明はこれが果たして自分に相応しい台詞なのかわからなかった。亮と孔明は重なってまじりあって、けれどどうして一つにはならない。この言葉が『孔明』として相応しいのかわからない。けれど、この言葉以外に、孔明に言うことができることがあろうはずもないのだった。
「助けて、あげるから」
 花はほんの少し、目を見開いた。その少し濁った瞳が、涙のせいなのか、それ以外の何物かのせいなのか。判然としないまま、けれど孔明は、自らを正しいと思い込むことでしか、歩いていくことができないことを知っていた。

「まずは元の時間軸に戻らないとね。この本の」
 孔明はためらうことなく本を開いた。空白のある頁。
「ここが空いてるってことは、今はここよりも前だ。恐らくはこの空白を埋めて、ボクたちのいた世界と時代を 繋げなきゃいけない。ボクたちの世界でのこの空白のシナリオを、知ってるね?」
 花は頷いた。何処か怯えるように伸ばした手で、空白の前の行をなぞる。黄巾の反逆の、行く末を。
「黄巾の軍は、都までも辿り着く。反乱は、成功します」
「そうだ。――ボク達の知る歴史との違い、でもあるけど、そんなことはさしたる問題じゃないね。とかくボク達は、どういう手段でも構わないけれどとにかく、黄巾の乱を成功させなきゃならない」
 花はもう一度、頷いた。それから、ゆっくりと、口を開く。
「私は一度――この時代に、来たことがあります」
 なにか痛むように眉を寄せて、それでもはっきりと、花は言った。孔明はわずかに眉を上げる。
「一度だけです。私はその時、元の時代に戻ることが、出来ませんでした」
「――え?」
「元の時代だけじゃない。私はもうどこにも、帰る場所をなくしてしまったんです。――師匠」
 花は俯いて、本に添えた指を震わせた。ひどく大切なものに触れるような慎重さとも、ひどくけがらわしいものに触れるような臆病さとも言える手つき。花は暫く白い指先で本を撫でるようにしてから、なにか隠す様に、誤魔化す様に笑って孔明を見た。
「でも、師匠なら大丈夫ですよね」
「……?」
「さぁ、行きましょう。洛陽が落ちる前に」
 花は立ち上がり、その時にはもうその笑顔の中に、何の陰りも、何の含みを感じられない。けれど孔明はなにか、思い知らされたような気分になって息をのんだ。
(――彼女は)
「師匠? 今発てば、日暮れ前には次の街に着けます」
「ああ、わかってるよ」
(彼女の、――ボクの知らない数百年は)
 花はてきぱきと荷を纏めた。孔明の知る『花』には、不可能な手早さで。その指先はかさかさと荒れて、丸みを失ってすっきりとした頬の周りと、反対に女らしい円やかさを帯びた体――よく見ればそこかしこが、『花』とは違う。

(それはもう、取り返しのつかないものなのだ)

「師匠ー! ぼーっとしてるとおいていきますよ!」
 花が頬を膨らませる。子供じみた所作は、それでもまだ童顔な彼女にはよく似合っていて、そんな風に目を眇めると、花はまるで昔孔明をじとりと見たころと何も変わっていないようにも思えるのだ。
 孔明は荷を取った。
 元の時間軸に戻る。花にはそう告げながら、孔明は頭の中で、もう一つ向こうに花を押しやる方法を、必死で探し求めているのだった。














(正直はやくここにたどりつきたくてしょうがなかった。花孔明と亮の会話の違和感はぱない。)
(次回は不幸な人が友情出演する予定。)
(いつもごめんよ)

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