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姫金魚草

三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト

   

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どうにか。

入稿完了

泣かないで、蝟
A5/P68/700円

カウントしたら七万字近くあったのにまだいろいろ書き足りていないという現実に怖気が走ります


続きからちょこちょこ抜粋

「君は、どうしてそんなに無防備なのかな」
 孟徳はごく平坦な口調で言って、首を傾げた。
「え、……」
「表情を、繕うこともできないで」
 花の困惑に、孟徳は、にこりと笑った。そちらの方が無防備と言うか、無邪気にも見えるような顔だ。
そのくせ声は、ぞっとするほどひんやりとしている。
「俺の顔を見れば顔を歪めて伏せる。話そうと言われれば怯えて震えて、出世を褒められて困る。そんなふうになるんだったら」
 孟徳は、笑っている。花にいつも向けていた笑顔で。孟徳は静かに言葉を紡ぐ。花が聞いたことのない声音で。
「結果を受け止める覚悟がないんだったら、どうして何かを為そうとしたの」
「孟徳、さ――」
「『申し訳ない』」
 孟徳はすっと、目を細めた。そうすると笑みは、恐ろしいくらいに冷たい色を帯びる。机に肘をついて、こちらを舐めるように見上げる視線が、花の舌を凍らせる。
「そう、顔に書いてあるよ――そんな風に思うなら、世界を転がそうとしたりなんか、しちゃ駄目だ。憐みは勝者の特権だけど、心を傾けちゃあ、駄目だよ、花ちゃん」
 じゃないと、付け込まれるよ、と。
 孟徳はまるで悪魔のように言って、す、と、左手を花へと伸ばした。腕は首筋に触れて、凍りついたままの花の喉を、まるで気負いない所作で掴む。


* * *


 戦場にあるべき匂いではない。
 入口の幕を上げた孟徳は、咄嗟に寄りそうになる眉をどうにか押しとどめた。
「おお、孟徳。遅いじゃないか」
 中央に陣取った男は、形ばかりと一目でわかる所作で地図を開いて、赤い顔で笑った。今度こそ露骨に顔を顰めそうになって、寸でのところで笑みを取り繕う。
「ああ、ちょっと拾い物をな――随分ご機嫌じゃないか」
 それでも口調から皮肉の色が消せなかったのは、仕方がないことだっただろう。この大軍の盟主を気取る男は、しかし攻める気配もなくひたすらに軍議を称しては酒を飲んでいる。そして集まったほぼすべての者たちは、追従して昼間から酒宴としけこんでいるのだ。
(なにが袁家だ。――なにが、名家だ)
 内心で、唾を吐く。それでも表面上はにこやかに、孟徳は水を向けた。
「本初のことだ。そろそろいい案が浮かんだんじゃないか? 昔からお前は、思慮深く、けど最後には皆を驚かせることをやる男だった」
 臆病で、名家を傘にきた良い所取りだ。
 モノは言いようだ。本初はいい気になったように頷いた。
「そうだな、近々、お前もさぞ驚くだろう」
(――決まり、か)
「もったいぶらなくてもいいじゃないか。――俺たちがこうしている間にも、帝は、長安で心さびしい思いをしているに相違ないんだ」
 後半はわざと、騒ぎの中でも聞こえるように声を張り上げた。帝、の言葉に、さすがに酒宴のざわめきも小さくなる。
 集まるだけ集まってきておいて、いざ戦となれば、自らの手勢の消耗を嫌がって尻込みする。そんな志の欠片もない者たちであっても、最低限の罪悪感と言うものは所持しているらしい。孟徳はちらと周りを見て、畳み掛けようと本初へ向き直った。
 本初の企みは、まだ、本初とその周りのごく一部だけのもののはずだ。ここにいる者たちは、時期さえ来れば本初が献帝のために立ち上がるだろうと楽天的に信じている。もしくは、自分以外の誰かが何とかすると思っているのか。
(ひどい、香りだ)
 立ち上る酒精は腐ったように甘い。その実見交わされる視線は常にけん制し合っていて、自分が貧乏くじを引いてしまわないように必死なのだ。
 だれも。
 誰も、献帝を助けようなどとは思っていない。ただ、仲頴に先を越されてしまったからひとまずどうにかしなければならず、声が上がったから集まってきてみただけどいう、烏合の輩だ。



* * *



 戦場は、混沌としていた。
 孟徳の軍は、哨戒をしていた董卓の手勢と運悪く克ち合い、その場で混戦状態に陥ったのだった。体勢を立て直したのは孟徳軍の方が多かったが、数は向こうの方が多く、戦況は芳しいとは言えない。
「花ちゃん! 生きてる!?」
「は、はいっ」
「よかった! 抜けるよ!」
 言う間に、孟徳の剣がひとつ、敵の槍を切り落とした。花がとっさに身をかがめた上を、振り回された剣が掠めて行った。背筋が冷える暇もない。ただ、馬を必死で繰って、孟徳についていく。
 乗馬を習っておいて、良かった。恐らく孟徳があてがってくれた馬もよかったのだろう。まるで花を守るかのように、主よりも余程巧みに戦を避ける。
 孟徳が自ら先陣に立つ傾向の強い主だということを知ったのは、こうなってからのことだった。克ちあったと知るや否や、孟徳は真っ先に剣を抜いて、辺りに指示を出しながら馬の腹を蹴った。
「まずはこの状況を抜ける。正直、出来ればいったん退きたい!」
「でも、鮑信さんや、孟卓さんの姿が――」
「人にかまってられる状況じゃ、――というか」
 孟徳はふと、顔をひきつらせた。遠く遠く、何かどうしようもなく禍々しい気配を、確かに花も感じた。
「――――来たか。負けだ」
「……え?」
「完全に俺たちの負けだ! 逃げるよ」
「え、ええっ」
「ここで死ぬわけにはいかないだろ、俺も君も! いいから、絶対に」
 孟徳は一瞬だけ、真っ直ぐに花を見た。
「絶対に、俺から離れないで」
 花が頷くのも確認せずに、孟徳は力任せに剣を振り回してから、思い切り馬の腹を蹴った。花も慌てて馬首を返し、馬にへばりつくように姿勢を低くしながら、ひたすらに孟徳を追いかける。
(――来た)
 孟徳は何か、知っていたのだろうか。頭上を矢が掠める。賢い馬は器用に矢を避けて、孟徳の馬の後を勝手に追いかけてくれる。だから花は、背後を見ることもできない。見たいとも思わない。
 なにが。
 なにが、来たと――
「りょ、」
 そんな花の背に、悲鳴めいた声が届いた。ぐわっ、とした、圧倒的な気配に思わず息をのむ。
 姿を、見てもいないのに、なにかがいると、わかる。
 それは誰かなどと言う、生易しい気配ではなかった。「なにか」だ。人だなどとは、とても思えない。
 だから。
 振り向いてはいけないと思っていたのに、振り向いてしまった。そのとても人には思えない気配の主が、一体なんであるのかが、知りたくて。
「呂布だ――!」
 声はいったい、誰のものだったか。
 花の視線の先。遠くに、なにか、黒いものが見える。それがあまりに戦場の混乱から浮き出て黒く見えたものだから、花にはそれがたしかに、人ではないナニモノかに思われた。
 けれどそれは、たしかに、人であるのだった。
 赤く見える濃い色の、普通の倍ほどもありそうな馬に乗った、黒い甲冑を着た男が、ひとつ腕を振るたびに、十の兵が飛ばされて落ちる。
 とても自らの目が信じられずに、花は無理矢理顔を前に向けなおした。呂布。叫び声が何時までも耳に残る。呂布。
 あれが、呂布。
 花は知っていた。三国時代のことを知らない花でさえ、知っていた。
 天下無双。
 最強の武と謳われた将。花はぞっとして、ただひたすらに、孟徳の背だけを見つめて、馬を駆けさせ続けた。


* * *


「――三十万」
「はい?」
「かき集めろと言われた。冬を越せるように、と。殿は私を、怪しげな術師か何かと勘違いしておられるのではないか」
 ため息交じりに文若は言った。三十万。黄巾の残党の、ほぼ全て。花はふと思って、首を傾げてみた。
「無茶ばかり言う人だって――後悔してますか」
 確かに孟徳は、無茶だ。黄巾の残党を攻めると聞いたとき、公台をはじめとした文官も、元譲らの将たちも、皆が無謀だと反対した。なにせその圧倒的な、三十万と言う数である。
 対して孟徳は、やっと手に入れた兗州一つを領土として、兵の数は三万と言ったところだ。かなうはずがない。
「後悔、か」
「はい」
 文若は意外なことを聞かれた、と言いたげに目を見張った。それから少し、表情を柔らかくして言う。
「私は最初、殿にお仕えするつもりではなかった」
「そうなんですか?」
「ああ。北の袁本初を、知っているだろう。私の家は、それなりに才を排出するとして有名だからな。彼に招かれていた、というか、僅かの期間ではあるが、彼の元にいたこともある」
 出てきた名に、花は僅かに驚いた。花自身本初に会ったことがあるわけではないが、少なくとも孟徳と孟卓の話から、とても好感を抱けそうにないことだけは知っていたからだ。
「だが――私は昔、『王佐の才』と称されたことがあってな」
 聞き覚えのある単語だった。文若自身の口から、聞いたことがあるのだ。もちろん、今の文若からではないが。
「私の王が彼だとは思えなかった。だから出てきた」
「じゃあ、孟徳さんが、文若さんの王ですか」
 文若はほんのすこし、眉を寄せた。素直に認めるのは癪だ、とでも言いたげな風情だ。けれどこの話の流れで、肯定しないこともまた不可能である。
「そういうことに、なるんだろうな。すくなくとも殿は、本初のように、今の帝を蔑になさることはないし――民を慰撫することを、知っている」
 文若の視線が柔らかい。まだ若い文若は、花の知る彼よりも随分と表情に起伏が激しく、その感情の有り処が読みやすい。そして花は文若が語る言葉から、彼の求めるものを知りはじめている。
 一つは、漢王朝の復興。
 もう一つは――民の平穏だ。
 文若はただ、漢王朝の元での秩序を、平和を、取り戻したいと思っているのだ。それがあるべき姿だと信じている、と言ってもいい。
 だから、帝を救うために戦わなかった本初に見切りをつけて、帝のために立ち上がり、今は民を守るために奔走している孟徳を主と選んだ。
「文若さん。孟徳さんのことが、好きですか」
 思わず尋ねたのは、僅かに笑った口元が、数年後の彼と重なったからだった。宿している感情は、正反対と言っていいのに。
 文若は僅か驚いたように目を見張って、それから、怒ったようにきゅっと眉を吊り上げた。花は思わず、なんでもない、と言葉を撤回しそうになる。けれどそれより先に、文若は言った。
「下らぬことを聞くな」
「で、ですよね。ごめんなさ……」
「好ましく思っていなければ、どんなに殿の思想が私の願いと重なっていても――こんな無茶ばかりの城、疾うに出て行っている」
「……え?」
視線の先で、文若の頬が、不思議なくらいに赤い色をしている。
 照れているのだ。花は思わず、笑ってしまった。
「私も」
 不思議なくらい素直に言葉が出た。
「好きです。孟徳さんのことが」



* * *





(――祈りは、聞き届けられない)






* * *






(魏6・群3・蜀1程度の登場人物分布です)
(あいかわらずの史実傾倒です……)

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