姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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秘めやかな祈り(孟徳)
(泡沫BAD後、孟徳と元譲)
(見ようによっては、元譲→孟徳かもしれません)
大丈夫な方は続きよりどうぞ↓
(見ようによっては、元譲→孟徳かもしれません)
大丈夫な方は続きよりどうぞ↓
魏の宮廷内に吹き荒れた粛清の嵐は、禅譲に反対していた者達を中心に多くのものを殺して、それでも御染まることを知れないかに見えた。
しかし、一人の文官の死が――孟徳が右腕と称すほどの、「王佐の才」と予言された一人の文官の死が――荒れ狂っていた孟徳の勢いを押し留めた。
服毒死だった。――孟徳は、それを半ば予測していた自分に気がついて、愕然とした。
愕然として――それからふつりと、発条仕掛けが切れた人形のように、動きを止めた。
禅譲の準備を淡々と進め、益州を手に入れた孟徳、揚州で力を蓄える仲謀を見据えながら、まるで丞相という名の人形であるかのように国を治める姿は――多くの者にとっては安堵の対象だったかも知れない。
それはそういう風に、恐れられるように振舞ってきた自分の責任であって――そもそも、辛いとも思うような心は、残念ながら持ち合わせていない。
それでも――やはりこれは、罰、なのだろうか。
* * *
「……、孟徳、風邪をひくぞ」
窓際に寄りかかって月を眺める姿に、元譲が静かに声をかける。
もう、孟徳が酒を酌み交わす相手は、元譲しか居ない。それを哀しいと思う者も、もう元譲しか居ないのだろう。孟徳自身も含めて、元譲しか。
「彼女の国では、」
元譲の言葉など耳に入らないように、孟徳は一人で言葉を紡ぐ。
「どうやって、死者を弔うのかな」
聞いておけばよかった、と、小さく呟く。ぼんやりと月を眺める姿は、彼の方が余程死者に近い顔色をしていた。
「ああ……でも、彼女の国では、戦が無いと言っていたから、……もしかしたら、彼女は、人が死ぬのを、此処ではじめて見たのかなぁ……」
「……孟徳」
その考えは、駄目だ。
あの可憐で――小さな少女は、まるで子供のような目をしていた。
それは彼女の国が平和で、温かく、優しいもので溢れていたからだ。
彼女はそんな国から、何故かこの戦乱の世を訪れて――そして、闇の手に倒れた。
孟徳の目の前で――
――孟徳の、身代わりとなって、死んだのだ。
元譲は、あの少女のことが、決して嫌いではなかった。
孟徳と上手くいけば良いと思っていたし――彼女と居ると、孟徳がちゃんと笑っているのが、嬉しかった。
「……俺が殺した」
「孟徳!」
「あんなに小さくて、……痛みも何も知らないような子を、……俺が殺した」
「……孟徳、やめ」
「俺は、」
愛する人を、殺すことしか出来ないんだ。
呟いた孟徳の目は、遠く遠く、過去の炎を見ているようだった。
――親を殺され。
――親友を殺し。
――そうして、守りたいと思った少女もまた――
「……ああ、忘れていた。お前に笑われてしまうな」
「……」
「誰も信じない。……誰も、愛さない」
孟徳はやっと、元譲のほうを見た。月明かりに照らされて表情はよく見えず、けれど恐らく、笑っているのだろうと思った。
(……ああ、もう)
(お前が、あの少女の前で笑ったように――笑うことは、ないのだろう)
元譲はこんな風に凄絶に笑う孟徳を、見たことがある。
二度と、見たくないと思っていた。
「誓いも、二度になっては野暮だな……祈る程度に、しておこうか」
孟徳はゆっくりと、杯を月に掲げた。
それは確かに、祈るような姿だった。
(……)
(俺は死なないと)
(……此処で言うのは、罪だろうな)
俺は、死なないと。
戯れでも、慰めでも。それが孟徳の救いになるのなら、どんな無茶な約束でもしてやりたかった。
けれど、元譲は知っていた。――それはなんの救いにもならないし、寧ろ、孟徳を、どうしようもない淵まで追い詰めるだろう。
(……俺は死なない、などと言ったら)
(孟徳は、気付いてしまう)
「……、……元譲? どうかしたか」
「いや」
飲もう、と、杯を掲げる。
孟徳は静かに微笑んでいる。
(俺もまた――死ぬのだということに)
(どうか、気付かないでくれよ、孟徳)
出来ればこの、一つ年下の従弟より、一秒でも長く生きていられるよう。
杯を掲げて、元譲もまた、秘めやかな祈りを捧げたのだった。
(あなたにとってさいごのひとり)
しかし、一人の文官の死が――孟徳が右腕と称すほどの、「王佐の才」と予言された一人の文官の死が――荒れ狂っていた孟徳の勢いを押し留めた。
服毒死だった。――孟徳は、それを半ば予測していた自分に気がついて、愕然とした。
愕然として――それからふつりと、発条仕掛けが切れた人形のように、動きを止めた。
禅譲の準備を淡々と進め、益州を手に入れた孟徳、揚州で力を蓄える仲謀を見据えながら、まるで丞相という名の人形であるかのように国を治める姿は――多くの者にとっては安堵の対象だったかも知れない。
それはそういう風に、恐れられるように振舞ってきた自分の責任であって――そもそも、辛いとも思うような心は、残念ながら持ち合わせていない。
それでも――やはりこれは、罰、なのだろうか。
* * *
「……、孟徳、風邪をひくぞ」
窓際に寄りかかって月を眺める姿に、元譲が静かに声をかける。
もう、孟徳が酒を酌み交わす相手は、元譲しか居ない。それを哀しいと思う者も、もう元譲しか居ないのだろう。孟徳自身も含めて、元譲しか。
「彼女の国では、」
元譲の言葉など耳に入らないように、孟徳は一人で言葉を紡ぐ。
「どうやって、死者を弔うのかな」
聞いておけばよかった、と、小さく呟く。ぼんやりと月を眺める姿は、彼の方が余程死者に近い顔色をしていた。
「ああ……でも、彼女の国では、戦が無いと言っていたから、……もしかしたら、彼女は、人が死ぬのを、此処ではじめて見たのかなぁ……」
「……孟徳」
その考えは、駄目だ。
あの可憐で――小さな少女は、まるで子供のような目をしていた。
それは彼女の国が平和で、温かく、優しいもので溢れていたからだ。
彼女はそんな国から、何故かこの戦乱の世を訪れて――そして、闇の手に倒れた。
孟徳の目の前で――
――孟徳の、身代わりとなって、死んだのだ。
元譲は、あの少女のことが、決して嫌いではなかった。
孟徳と上手くいけば良いと思っていたし――彼女と居ると、孟徳がちゃんと笑っているのが、嬉しかった。
「……俺が殺した」
「孟徳!」
「あんなに小さくて、……痛みも何も知らないような子を、……俺が殺した」
「……孟徳、やめ」
「俺は、」
愛する人を、殺すことしか出来ないんだ。
呟いた孟徳の目は、遠く遠く、過去の炎を見ているようだった。
――親を殺され。
――親友を殺し。
――そうして、守りたいと思った少女もまた――
「……ああ、忘れていた。お前に笑われてしまうな」
「……」
「誰も信じない。……誰も、愛さない」
孟徳はやっと、元譲のほうを見た。月明かりに照らされて表情はよく見えず、けれど恐らく、笑っているのだろうと思った。
(……ああ、もう)
(お前が、あの少女の前で笑ったように――笑うことは、ないのだろう)
元譲はこんな風に凄絶に笑う孟徳を、見たことがある。
二度と、見たくないと思っていた。
「誓いも、二度になっては野暮だな……祈る程度に、しておこうか」
孟徳はゆっくりと、杯を月に掲げた。
それは確かに、祈るような姿だった。
(……)
(俺は死なないと)
(……此処で言うのは、罪だろうな)
俺は、死なないと。
戯れでも、慰めでも。それが孟徳の救いになるのなら、どんな無茶な約束でもしてやりたかった。
けれど、元譲は知っていた。――それはなんの救いにもならないし、寧ろ、孟徳を、どうしようもない淵まで追い詰めるだろう。
(……俺は死なない、などと言ったら)
(孟徳は、気付いてしまう)
「……、……元譲? どうかしたか」
「いや」
飲もう、と、杯を掲げる。
孟徳は静かに微笑んでいる。
(俺もまた――死ぬのだということに)
(どうか、気付かないでくれよ、孟徳)
出来ればこの、一つ年下の従弟より、一秒でも長く生きていられるよう。
杯を掲げて、元譲もまた、秘めやかな祈りを捧げたのだった。
(あなたにとってさいごのひとり)
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