姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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獣の夜 (文若)
(タイトルほどひどくはない。)
文若の暮らしは、禄に比べて非情に質素なものだ。
酒も殆ど嗜まないため、遅くなるときは殆ど仕事が理由である。といってもすべてというわけではなくて、偶には断りきれぬ付き合いで、強かに呑んでくることもある。
この日も文若は苦虫を噛み潰したような顔で、少々遅くなると告げて出ていった。
そんなときの花は、一人で簡素な食事を終えると、文若のために酔い覚ましの果実と煎じ薬を用意して、待っているのが常だった。つかれきった顔で帰って来た文若が、出迎えた花の顔を見てほっと額の皺を緩ませる。その瞬間が、例えようも無く好きだった。
そろそろかな、と思った頃合に、玄関先で人の気配がした。
禄に不釣合いなのは館もだ。孟徳が幾ら言っても聞き入れずに、文若は小さな館に住み続けている。こちらの生活に大分慣れた花が、一人で切り盛りできるほどの小ささだ。しかし花はそんな、手の届く広さの暮らしが嫌いではなかった。
「おかえりなさい」
冷やした布巾を手に、ぱたぱたと駆けていく。強かに呑まされた顔をした文若はこの日もまた、花の顔を見てほっと息をついた。
その瞬間に。
(――あ、)
花の鼻先をなにか、酒精とは違う香りが掠めた。ふらりとこちらに倒れ掛かってくる文若を抱きとめると、その匂いは一層強くなる。
甘ったるいような香りは、あまり嗅いだ覚えのないものだ。そんな香りが文若から漂ってくることが嫌で、花は思わず顔を顰める。
「……花?」
酔いの回ったとろりとした声が、花の名を呼ぶ。いつもなら、はい、と同じように甘く返すところで、しかし、いつものように声が出なかった。
(この匂い、……知ってる)
思い出したのだ。花がまだ丞相府に仕官していた頃、この手の甘ったるい香りを放っていたのは、孟徳の周りに擦り寄っている侍女たちだった。着物に焚き染める類の香だ。文若があまり好まないため、花自身は殆ど使ったことのないものでもあった。
今日の宴は恐らく、女性の侍る類のものだったのだろう。堅物の文若がその手の宴を好まぬことは知れ渡っているはずだが、それを唯の噂と笑い飛ばすような輩の主催だったのかもしれない。だとしたらより気疲れしただろう――と、労わる気持ちは湧いてきたものの、しかしやはり、面白くない気持ちもある。
面白くない。他の女の香りをつけて、帰ってくるだなんて。
気持ちのままに、無言で文若を引き摺っていく。普段より冷たい筈の花の態度も、酔いで気付かないのだろうか、文若はされるがままにふらふらと引き摺られて、大人しく今の椅子に納まった。
濡れ布巾を適当に文若の額に乗せて、台の間に下がる。酔い覚ましの一揃いを出さないのも大人気ないかと、水を水差しに汲んでいたところで、文若が大人しくしていなかったことに気がついた。
ふわり。背後から、甘い香りが漂ってくる。眉を寄せて振り返ると、覆いかぶさるように抱きしめられた。
「ちょっ、……文若さんっ」
甘い香り。水差しを取り落としそうになったのも相俟って、思わずきつい声が出た。しかし文若はまるで聞こえていない様子で、花の首筋に顔を寄せる。
「文若さん! 怒りますよ、……っ」
首筋に、文若の息がかかって、思わず身体が震えた。寄っているくせに何故かそんなところにだけ気付く文若の手が、花の手から水差しを取り上げて脇の台に置く。着物を鷲掴むように抱きしめられて、怒りよりも困惑の度合いが強くなった。
「文若さ、……っ、んっ」
簪を引き抜かれ、まとめていた髪がはらりと落ちる。この酔っ払い、と怒鳴りつけようとした声はしかし、文若が唇で首筋をなぞった所為で吐息に変わった。
「っ、なに、……どうしたんですか、……っ」
わけがわからないでいるうちに、するりと帯が解かれて、柔らかな布が床に落ちる。これはますますもっていけないことになりそうだ、と慌てて文若の手を掴むも、酔っているはずの男の力は妙に強い。
「文若さんっ……! もっ、……やめ、」
文若はしきりに花の首筋に顔を寄せて、ゆるりと唇を這わせている。擽るような動きに背筋がぞくりとして、抵抗する力も失われてしまう。はぁ、と文若がやたら熱い息を吐いてやっと、囁くように、言った。
「……お前の、匂いだ」
耳元に、吹き込まれるように声が響いて。
まるで鼻をこすりつけるようだった所作の理由にやっと得心がいく、と、同時に、瞬時に体温が上がるのを感じた。鼓動が跳ね上がり、やり場の無い手が思わず文若に縋りつくようになってしまう。
文若の頭を掻き抱くようにして、深く、息をつく。誘われるように顔を上げた男は、酔いで濡れた目をしていて、少し赤く染まった淵が奇妙に色めいて見える。
誘われる。唇が重なる。文若の唇は熱く、熱を注ぎ込まれるように深く、口付けられる。
大げさなくらいに、文若の身体に腕を回して抱きしめる。
嫌な匂いなど、消してしまえばいいのだ。
文若はまだなにか確かめるように、鼻をひくつかせている。獣のような動作だ、と思わず笑って、自分の思考の方がよほど獣のようだとは、気付かなかった。
(この続きは削除されました。全てを読むにはわっふるわっふる……、……ではなくて)
(もしかしたら10月にこの手のネタを集めてオムニバスな18禁本を出すかもしれません。)
酒も殆ど嗜まないため、遅くなるときは殆ど仕事が理由である。といってもすべてというわけではなくて、偶には断りきれぬ付き合いで、強かに呑んでくることもある。
この日も文若は苦虫を噛み潰したような顔で、少々遅くなると告げて出ていった。
そんなときの花は、一人で簡素な食事を終えると、文若のために酔い覚ましの果実と煎じ薬を用意して、待っているのが常だった。つかれきった顔で帰って来た文若が、出迎えた花の顔を見てほっと額の皺を緩ませる。その瞬間が、例えようも無く好きだった。
そろそろかな、と思った頃合に、玄関先で人の気配がした。
禄に不釣合いなのは館もだ。孟徳が幾ら言っても聞き入れずに、文若は小さな館に住み続けている。こちらの生活に大分慣れた花が、一人で切り盛りできるほどの小ささだ。しかし花はそんな、手の届く広さの暮らしが嫌いではなかった。
「おかえりなさい」
冷やした布巾を手に、ぱたぱたと駆けていく。強かに呑まされた顔をした文若はこの日もまた、花の顔を見てほっと息をついた。
その瞬間に。
(――あ、)
花の鼻先をなにか、酒精とは違う香りが掠めた。ふらりとこちらに倒れ掛かってくる文若を抱きとめると、その匂いは一層強くなる。
甘ったるいような香りは、あまり嗅いだ覚えのないものだ。そんな香りが文若から漂ってくることが嫌で、花は思わず顔を顰める。
「……花?」
酔いの回ったとろりとした声が、花の名を呼ぶ。いつもなら、はい、と同じように甘く返すところで、しかし、いつものように声が出なかった。
(この匂い、……知ってる)
思い出したのだ。花がまだ丞相府に仕官していた頃、この手の甘ったるい香りを放っていたのは、孟徳の周りに擦り寄っている侍女たちだった。着物に焚き染める類の香だ。文若があまり好まないため、花自身は殆ど使ったことのないものでもあった。
今日の宴は恐らく、女性の侍る類のものだったのだろう。堅物の文若がその手の宴を好まぬことは知れ渡っているはずだが、それを唯の噂と笑い飛ばすような輩の主催だったのかもしれない。だとしたらより気疲れしただろう――と、労わる気持ちは湧いてきたものの、しかしやはり、面白くない気持ちもある。
面白くない。他の女の香りをつけて、帰ってくるだなんて。
気持ちのままに、無言で文若を引き摺っていく。普段より冷たい筈の花の態度も、酔いで気付かないのだろうか、文若はされるがままにふらふらと引き摺られて、大人しく今の椅子に納まった。
濡れ布巾を適当に文若の額に乗せて、台の間に下がる。酔い覚ましの一揃いを出さないのも大人気ないかと、水を水差しに汲んでいたところで、文若が大人しくしていなかったことに気がついた。
ふわり。背後から、甘い香りが漂ってくる。眉を寄せて振り返ると、覆いかぶさるように抱きしめられた。
「ちょっ、……文若さんっ」
甘い香り。水差しを取り落としそうになったのも相俟って、思わずきつい声が出た。しかし文若はまるで聞こえていない様子で、花の首筋に顔を寄せる。
「文若さん! 怒りますよ、……っ」
首筋に、文若の息がかかって、思わず身体が震えた。寄っているくせに何故かそんなところにだけ気付く文若の手が、花の手から水差しを取り上げて脇の台に置く。着物を鷲掴むように抱きしめられて、怒りよりも困惑の度合いが強くなった。
「文若さ、……っ、んっ」
簪を引き抜かれ、まとめていた髪がはらりと落ちる。この酔っ払い、と怒鳴りつけようとした声はしかし、文若が唇で首筋をなぞった所為で吐息に変わった。
「っ、なに、……どうしたんですか、……っ」
わけがわからないでいるうちに、するりと帯が解かれて、柔らかな布が床に落ちる。これはますますもっていけないことになりそうだ、と慌てて文若の手を掴むも、酔っているはずの男の力は妙に強い。
「文若さんっ……! もっ、……やめ、」
文若はしきりに花の首筋に顔を寄せて、ゆるりと唇を這わせている。擽るような動きに背筋がぞくりとして、抵抗する力も失われてしまう。はぁ、と文若がやたら熱い息を吐いてやっと、囁くように、言った。
「……お前の、匂いだ」
耳元に、吹き込まれるように声が響いて。
まるで鼻をこすりつけるようだった所作の理由にやっと得心がいく、と、同時に、瞬時に体温が上がるのを感じた。鼓動が跳ね上がり、やり場の無い手が思わず文若に縋りつくようになってしまう。
文若の頭を掻き抱くようにして、深く、息をつく。誘われるように顔を上げた男は、酔いで濡れた目をしていて、少し赤く染まった淵が奇妙に色めいて見える。
誘われる。唇が重なる。文若の唇は熱く、熱を注ぎ込まれるように深く、口付けられる。
大げさなくらいに、文若の身体に腕を回して抱きしめる。
嫌な匂いなど、消してしまえばいいのだ。
文若はまだなにか確かめるように、鼻をひくつかせている。獣のような動作だ、と思わず笑って、自分の思考の方がよほど獣のようだとは、気付かなかった。
(この続きは削除されました。全てを読むにはわっふるわっふる……、……ではなくて)
(もしかしたら10月にこの手のネタを集めてオムニバスな18禁本を出すかもしれません。)
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