姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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王者の孤独 (玄徳と花孔明)
(花孔明モノ、玄徳Ver)
この表情を見るのも、何度目だろう。
益州の地を手に入れて――一国の主となった劉玄徳の、何か抜け落ちたような、その表情を。
「……雲長」
ぽつりと呟いた声には、色が無かった。傍らに控えていた花は、ああ、まただ、と、ほんの少しだけ何かを悼むような表情をした。おそらく、玄徳は気付かなかっただろうが。
関雲長の死。
それが齎すものを、花は知っていた。この後劉玄徳は――大軍を以って復讐を叫び、夷陵の地で大敗を喫する。そして失意のうちに、義兄弟の後を追うこととなる。
遺された孔明――花は、玄徳の遺児である劉公嗣を立て、五丈原の地まで、蜀漢へ尽くし、死を迎える。
もう、何度も辿った道だ。
それでも――もう、我が君、とも呼びなれた、玄徳の絶望の表情を見るのは――そして、この後の悲劇を見るのは、辛かった。
「孔明」
花は、この後に続く言葉を、知っていた。
手をあわせて臣下の礼をとり、勅を受けるために顔を伏せる。
幾ら止めても、覆されることは無い命。玄徳を、更には蜀を滅亡へ導く戦が始まる。もはやなんの力も無い花には、その運命を覆すことは出来ない。
だからただ、孔明として正しくあろう。そう思っていたところで――
「……お前は、……此処で、止めてもいい」
「……!?」
思わず、顔を上げた。
仰ぎ見た表情は、花がもう何度も見た――哀しみと怒りと絶望と、そして、彼には全く似合わない、復讐に燃える暗い色をしている。
けれど――囁くように呟かれた言葉は、今まで一度も聞いたことの無いものだった。
「俺には、俺を止めることが出来ない――雲長をこんな形で失って、何も為さないことは、俺の義が……俺の誓いが、許さない」
低く、淡々と紡がれる言葉。暗く沈む瞳。全てが同じだ。破滅に向かう前の色だ。沈んでいく日を思わせる光だ。
「だが、孔明――お前は、……」
ふと、玄徳の顔が、歪んだ。笑いだと気付くのに、少しかかるような――そんな歪み方だった。
「お前は、……いつも、遠くを見ていた。今も、そうなのだろう」
「……」
目を逸らすことが、できなかった。見透かされるような感覚よりもずっと強く、もうこの後、義兄弟の迎えを臨終で見るまで――柔らかに笑むことの出来ない彼を、想った。
「だからお前は――付き合わなくても、いいんだ」
「……」
そんなことは、出来ない。恐らく此処で花がこの命を拝しても、結局、運命が花をこの蜀の地へ引き止めるだろう。
けれど、それ以上に。
(ああ、どうして)
(私はこの人を、死地から救うことが出来ないのだろう)
(どうして、私は――)
こんなに、無力なのだろう。
それは、何度も感じた絶望だった。
何度も何度も、心が擦り切れるまで感じた、絶望だった。
だからもう、こんな思いをすることは、無いと、思っていたのに。
「――我が君」
花は、ゆっくりと頭を下げ、もういちど、礼を取り直した。
「私は、最期まで――我が君と共に」
何度も口にした言葉だ。
けれど、こんな風に――全てを捧げたいような気持ちで言ったのは、初めてだった。
(ああ、我が君)
どうして私は、こんなにも無力なのだろう。
こんなにも、こんなにも――あなたを救いたいと、思っているのに。
それは花が孔明となってから、はじめて――はじめて、強く抱いた願いだった。
(花孔明に我が君と言わせ隊)
益州の地を手に入れて――一国の主となった劉玄徳の、何か抜け落ちたような、その表情を。
「……雲長」
ぽつりと呟いた声には、色が無かった。傍らに控えていた花は、ああ、まただ、と、ほんの少しだけ何かを悼むような表情をした。おそらく、玄徳は気付かなかっただろうが。
関雲長の死。
それが齎すものを、花は知っていた。この後劉玄徳は――大軍を以って復讐を叫び、夷陵の地で大敗を喫する。そして失意のうちに、義兄弟の後を追うこととなる。
遺された孔明――花は、玄徳の遺児である劉公嗣を立て、五丈原の地まで、蜀漢へ尽くし、死を迎える。
もう、何度も辿った道だ。
それでも――もう、我が君、とも呼びなれた、玄徳の絶望の表情を見るのは――そして、この後の悲劇を見るのは、辛かった。
「孔明」
花は、この後に続く言葉を、知っていた。
手をあわせて臣下の礼をとり、勅を受けるために顔を伏せる。
幾ら止めても、覆されることは無い命。玄徳を、更には蜀を滅亡へ導く戦が始まる。もはやなんの力も無い花には、その運命を覆すことは出来ない。
だからただ、孔明として正しくあろう。そう思っていたところで――
「……お前は、……此処で、止めてもいい」
「……!?」
思わず、顔を上げた。
仰ぎ見た表情は、花がもう何度も見た――哀しみと怒りと絶望と、そして、彼には全く似合わない、復讐に燃える暗い色をしている。
けれど――囁くように呟かれた言葉は、今まで一度も聞いたことの無いものだった。
「俺には、俺を止めることが出来ない――雲長をこんな形で失って、何も為さないことは、俺の義が……俺の誓いが、許さない」
低く、淡々と紡がれる言葉。暗く沈む瞳。全てが同じだ。破滅に向かう前の色だ。沈んでいく日を思わせる光だ。
「だが、孔明――お前は、……」
ふと、玄徳の顔が、歪んだ。笑いだと気付くのに、少しかかるような――そんな歪み方だった。
「お前は、……いつも、遠くを見ていた。今も、そうなのだろう」
「……」
目を逸らすことが、できなかった。見透かされるような感覚よりもずっと強く、もうこの後、義兄弟の迎えを臨終で見るまで――柔らかに笑むことの出来ない彼を、想った。
「だからお前は――付き合わなくても、いいんだ」
「……」
そんなことは、出来ない。恐らく此処で花がこの命を拝しても、結局、運命が花をこの蜀の地へ引き止めるだろう。
けれど、それ以上に。
(ああ、どうして)
(私はこの人を、死地から救うことが出来ないのだろう)
(どうして、私は――)
こんなに、無力なのだろう。
それは、何度も感じた絶望だった。
何度も何度も、心が擦り切れるまで感じた、絶望だった。
だからもう、こんな思いをすることは、無いと、思っていたのに。
「――我が君」
花は、ゆっくりと頭を下げ、もういちど、礼を取り直した。
「私は、最期まで――我が君と共に」
何度も口にした言葉だ。
けれど、こんな風に――全てを捧げたいような気持ちで言ったのは、初めてだった。
(ああ、我が君)
どうして私は、こんなにも無力なのだろう。
こんなにも、こんなにも――あなたを救いたいと、思っているのに。
それは花が孔明となってから、はじめて――はじめて、強く抱いた願いだった。
(花孔明に我が君と言わせ隊)
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