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懐かれすぎて、食べられない(玄徳)

押さえていた想いが、彼女の言葉で溢れ出す。
彼女の涙。零れる涙。堪え切れなかった口付けの先で、彼女は確かに俺を選んでくれた。
帰さなければいけないと思っていた。
家族の下へ。彼女のいるべき世界へ。
彼女の幸せのために。

けれど彼女は、あんなふうに泣いて、俺を好きだと言ったのだ。


* * *


控えめな扉の音は、それだけで彼女の音だと知れる。
「……、ん、誰だ?」
けれど、気付いていることを知られるのは面映いから、いつもこう尋ねる。
「花です。師匠からの書簡を届けに伺いました」
すっかり助手役が板についた彼女が答えるのは、もう、儀式のようなものだ。
花は知らない。自分への用件に限って、孔明が直接玄徳に使わせるのを。
あの、弟子の幸せを願う師匠は、聡明すぎて、恋路を邪魔することも出来ないのだ。
「ああ、入ってくれ」
おずおずと扉を開けて、花が姿を現す。軍師服も板について、一人前の文官の顔をしている。
もはや我が軍に彼女の才を認めないものなどいない。それなのに彼女がいつも一歩引いているのが、いじましく、可愛らしいと思う。
「荊州の件と、こちらは、献帝への献策について――直接お話がしたいとのことでした」
「ああ、わかった。目を通して……夜に伺うと伝えてくれ。日中は空きそうにないからな」
「はい、師匠もそう言っていました。玄徳様は武のお方だから、急かすなと」
「……見越されているな」
苦笑すると、花が小さく笑う。
「机の前にいるような方ではないのを、縛り付けているのだと笑ってました」
「本当に、お前の師匠はなんでもわかっているな。……遠くに駆けていきたい気分になる」
玄徳は元々、一介の傭兵であり、侠の者に過ぎない。為政など、孔明の助けがなければ、とてもつとまってはいないだろう。溜息とともに呟くと、花は困った顔をした。
「ああ、そんな顔をさせたいわけではなかったんだ。心配せずとも、仕事はきちんとやるさ」
「……、……でも」
「ん?」
花は困ったような顔のまま、書簡を棚に揃え、玄徳を見る。

「それで、玄徳さんが――そんな顔をしているのは、いやです」
「――」

目を瞬いた玄徳の前で、花は続ける。
「最近、難しい顔ばかりしているような気がして、……お仕事、さぼったらいけないのはわかるんですけど、……なんだか……」
つらそうです、と。
そちらのほうがよほどつらそうな顔で、花は呟いた。
「……」
「……! ごめんなさい! 玄徳さんだって忙しいのに、そんな」
「……いや」
慌てる様に、笑みが零れた。
「俺のことを、心配してくれているのだろう?」
からかうように言うと、見る間に顔が赤くなる。手招きすると、赤い顔のままに近付いてくる。
「……心配しちゃ、だめですか」
「いや。うれしい」
「……」
素直に答えると、さらに顔が赤くなった。手を伸ばすと、警戒もなくさらにこちらへ近付いてくる。
――撫でられると、思っているのかもしれない。
「――!」
そのまま伸ばした手で花の腕を掴み、引き寄せる。急なことに体勢を崩した身体を支えつつ、顔を寄せた。
「、玄徳さ、」
「……かわいいことばかり言う、お前が悪い」
「え、……っ!」
触れ合った唇は温かく、柔らかい。
目の前に真っ赤になった可愛らしい顔がある。笑みをつくると、怒っていいのかどうしていいのかわからないような顔をする。そんな反応をするから、付け上がらせる。
「……」
「……どうした?」
「……師匠から、……たまには遠乗りとかしたいかもね、って……言われた、んですけど」
孔明がそう言うという事は、つまりお許しだ。驚いた玄徳の前で、花は精一杯と見た目でわかる虚勢を張って、言葉を続けた。
「玄徳さんは元気そうだから、必要なさそうだって、言っておきます」
口をへの字に曲げても、顔が赤くては説得力が無い。そう指摘しようかとも思ったけれど、彼女に対してはより効果的な策があるのを、玄徳は既に知っていた。
「それは残念だな。……そろそろ、花が見頃の場所を知っているのだが」
「……そんなこと言ったって」
「一緒に、行ってくれないのか?」
「……!」
わざと眉を下げてみせるのを、大人の技だと許して欲しい。花は赤い顔のまま、困ったような、緩んだような顔をする。
「孔明には、俺が怒られておくから」
「……」
「一緒に行こう」
優しい少女は、下手に出られると断れない。まして今は、政務に疲れた玄徳の身を案じている。
「……な?」
駄目押しのように手を握る。
困って俯いた愛しい少女が、了承の変わりに手を握り返すまで、僅か数刻も必要としなかった。


(……ああ、こんな風だから)
(こんなふうに、意のままになってしまうから)


「……玄徳さん?」
「……いや。かわいいな、花は」
次の口付けは額へと。
だからこれ以上進めないのだと、もしかしたらこんな風に息を抜かせるのも過保護な師匠の策略かと思いながら、玄徳は優しく唇を落とした。


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