姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
夢を生きる (雲長)
(所謂IF END)
「……花」
「、はい?」
身一つで来た身には纏める物などない。
白紙が埋まり、色の変わった本をぼんやりと眺めていた花のもとを、訪ねてきた人物。
低く優しい声を持つ彼が何を話しに来たのか――花には、なんとなくわかるような気がした。
「すまないな、遅くに」
「いえ……お茶を、淹れますね」
柔らかく微笑む男からは、特有の陰のようなものが薄れた気がする。花はゆっくりと茶を淹れた――心の準備には、それくらいかかるような気がしたので。
「ありがとう。……菓子を作ってきたんだ」
丁度いいな、と、笑う彼もまた、何かを先延ばしにするように殊更緩慢に動く。
茶席の準備が整っても、暫くはゆっくりと菓子を口に運び、茶を啜る、柔らかな沈黙が横たわるだけだった。
心地よいこの沈黙を、失いたくない。
けれど、永遠は、何処にも無い。
花は伏せていた視線を上げた。
「……、」
ずっとこちらを見ていたのだろうか。雲長の視線と視線がぶつかり、逸らしそうになる。
(……だめだ)
何からも、逃げないと決めた。もう充分、猶予は貰った。
「花、……俺は……」
雲長は少し困っているような、けれど、もうすっかり決めてしまっている様子で、口を開いた。
「俺は、もう、逃げないと決めた。……だから、」
此処に、残ろうと思う。
花は一度目を瞬いた。雲長の、静かな瞳。けれどそこには深い闇も、諦めもない。
ただ、煌くような――眩しいような光が、あるだけだ。
「はい」
「……あんなに言ってくれたのに、すまない。でも、俺は」
この世界に、まだ、出来ることがある。
お前が変えてくれた『関雲長』の未来で、出来ることが、あるんだ。
本物の――物語の雲長は、あの日、荊州で命を落とすはずだった。
その未来が変わり――此処から先は、誰も知らない、物語。
「お前が俺の生を願ってくれた――俺もまた、俺の生を、願った。そうして手に入れた未来を、……俺は、大切にしたいと、思う」
そうして、充分に生きたら。
俺はきっと、きちんと、俺自身として――関雲長でも、長岡広生でもなく、――また、その両方である俺として、死ぬことが出来るだろう。
雲長が淡々とそう語るのを、ひとつも聞き漏らさないように。
花は息をつめて――彼の言葉を、聞いていた。
「だから、……お前は」
「帰れなんて言ったら、怒りますよ」
雲長がはじめて、表情を変えた。
花はきっぱりと、笑った。雲長が決めていたように、花もまた、最初から決めていたのだと、伝えるために。
「私も此処で――この世界で、この世界の住人として、……雲長さんのそばで、生きていきます」
それは、おかしな願いですか?
首を傾ける。雲長は驚きに見開いた目を――ゆっくりと、細めた。
「……いや、」
困ったような、――くすぐったい様な、笑顔。
雲長がこうして笑うのを、ずっと見ていたい。それは、幼い願いかもしれない。逸った決断かもしれない。
けれど、花が此処で手に入れたもの。この世界を生きるということ。天秤にかけるような話ではなく、比べることなど出来よう筈もない。それでも、雲長が決めたように、花もまた、決めたのだ。
花はそっと、本の上に手を置いた。
「一緒に、生きて。一緒に、……」
「言わなくていい。……わかっている」
雲長が、手を重ねる。長く戦ってきた男の、無骨な手。そのまま手を握られて、――気付いたときには、顔が、すぐ近くにあった。
「……、雲長さん、」
「幸せにする」
「……」
「絶対、お前を幸せにするから」
「……はい」
花は、自分が泣きそうになっていることに気付いた。それは決別の涙であったし、喜びの涙であったし、――郷愁の涙であったのかもしれない。
唇が、重なる。
二人の手の下で、役目を終えた本がひっそりと消えたことに、目を閉じたままの二人は、気付かなかった。
(幸福な夢を生きる)
「……花」
「、はい?」
身一つで来た身には纏める物などない。
白紙が埋まり、色の変わった本をぼんやりと眺めていた花のもとを、訪ねてきた人物。
低く優しい声を持つ彼が何を話しに来たのか――花には、なんとなくわかるような気がした。
「すまないな、遅くに」
「いえ……お茶を、淹れますね」
柔らかく微笑む男からは、特有の陰のようなものが薄れた気がする。花はゆっくりと茶を淹れた――心の準備には、それくらいかかるような気がしたので。
「ありがとう。……菓子を作ってきたんだ」
丁度いいな、と、笑う彼もまた、何かを先延ばしにするように殊更緩慢に動く。
茶席の準備が整っても、暫くはゆっくりと菓子を口に運び、茶を啜る、柔らかな沈黙が横たわるだけだった。
心地よいこの沈黙を、失いたくない。
けれど、永遠は、何処にも無い。
花は伏せていた視線を上げた。
「……、」
ずっとこちらを見ていたのだろうか。雲長の視線と視線がぶつかり、逸らしそうになる。
(……だめだ)
何からも、逃げないと決めた。もう充分、猶予は貰った。
「花、……俺は……」
雲長は少し困っているような、けれど、もうすっかり決めてしまっている様子で、口を開いた。
「俺は、もう、逃げないと決めた。……だから、」
此処に、残ろうと思う。
花は一度目を瞬いた。雲長の、静かな瞳。けれどそこには深い闇も、諦めもない。
ただ、煌くような――眩しいような光が、あるだけだ。
「はい」
「……あんなに言ってくれたのに、すまない。でも、俺は」
この世界に、まだ、出来ることがある。
お前が変えてくれた『関雲長』の未来で、出来ることが、あるんだ。
本物の――物語の雲長は、あの日、荊州で命を落とすはずだった。
その未来が変わり――此処から先は、誰も知らない、物語。
「お前が俺の生を願ってくれた――俺もまた、俺の生を、願った。そうして手に入れた未来を、……俺は、大切にしたいと、思う」
そうして、充分に生きたら。
俺はきっと、きちんと、俺自身として――関雲長でも、長岡広生でもなく、――また、その両方である俺として、死ぬことが出来るだろう。
雲長が淡々とそう語るのを、ひとつも聞き漏らさないように。
花は息をつめて――彼の言葉を、聞いていた。
「だから、……お前は」
「帰れなんて言ったら、怒りますよ」
雲長がはじめて、表情を変えた。
花はきっぱりと、笑った。雲長が決めていたように、花もまた、最初から決めていたのだと、伝えるために。
「私も此処で――この世界で、この世界の住人として、……雲長さんのそばで、生きていきます」
それは、おかしな願いですか?
首を傾ける。雲長は驚きに見開いた目を――ゆっくりと、細めた。
「……いや、」
困ったような、――くすぐったい様な、笑顔。
雲長がこうして笑うのを、ずっと見ていたい。それは、幼い願いかもしれない。逸った決断かもしれない。
けれど、花が此処で手に入れたもの。この世界を生きるということ。天秤にかけるような話ではなく、比べることなど出来よう筈もない。それでも、雲長が決めたように、花もまた、決めたのだ。
花はそっと、本の上に手を置いた。
「一緒に、生きて。一緒に、……」
「言わなくていい。……わかっている」
雲長が、手を重ねる。長く戦ってきた男の、無骨な手。そのまま手を握られて、――気付いたときには、顔が、すぐ近くにあった。
「……、雲長さん、」
「幸せにする」
「……」
「絶対、お前を幸せにするから」
「……はい」
花は、自分が泣きそうになっていることに気付いた。それは決別の涙であったし、喜びの涙であったし、――郷愁の涙であったのかもしれない。
唇が、重なる。
二人の手の下で、役目を終えた本がひっそりと消えたことに、目を閉じたままの二人は、気付かなかった。
(幸福な夢を生きる)
PR
TRACKBACK
TrackbackURL
COMMENT