姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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悋気も蜜 (公瑾)
「あーあ。まただよ」
「花ちゃん、怒っていいんだよー」
二喬は花の周りに纏わりつくようにしながら、唇を尖らせた。
視線の先には、城の宮女に囲まれた公瑾の姿がある。
「公瑾さん、大人気なんですね」
すこしずれた感想を漏らす花に、二喬は憤慨した表情のままに答えた。
「美周朗とか言われていい気になってるんだよ!」
「ねー、糸目のくせにねー」
(それは、微妙にメタ発言じゃないかな……)
「美周朗?」
「うん。美しい周家の若者、ってことだよ。徒名みたいなものかな」
花は漢字を脳内に思い浮かべて、やっと納得した。なるほど。
「公瑾さん、格好いいですからね」
素直に言うと、二喬は露骨に溜息をついた。
「花ちゃん。そこは納得したらだめなんだよ」
「うんうん。それと、絶対公瑾の前で言ったらだめだからね」
「そんな、本人の前でなんて、言えませんよ」
花は顔を赤くした。花ちゃん、ずれてるよ……処置ナシと言いたげに首を振る二人を片目に、花は窓から遠く、向こうの廊下に見える姿をちらと見やる。
(美周朗、か)
(たしかに、格好いいもんね。しょうがない)
公瑾は何時もと変わらずに微笑んで、如才なく侍女達の相手をしているように見える。
華やかで、花よりも随分大人の彼女等を見て、何も想わないわけではないが。
なんだか、それを顔に出したら負けな様な気がする。二喬が憤慨しているのを宥めながら、平常心平常心、と心の中で呟いた。
* * *
「見ていたでしょう」
「はい?」
花の部屋を訪れて早々、茶を所望した公瑾は、恨めしげな目で花を見た。
「先程の、廊下のことですよ」
こちらから見えていたということは、あちらからも見えていたということか。
「ああ、えっと、楽しそうでしたね?」
「本当にそう見えていたとしたら、医者を紹介して差し上げます」
「え」
目を瞬いた花に、公瑾は溜息をついた。
「……女人は集まるとかしましくていけません。前にも言ったような気がしましたが」
「あ、……あのとき」
あの時――まだ、花と公瑾の間に距離があったとき。侍女に囲まれて困っていた公瑾の口実にされ、琵琶の調律に付き合ったときのことか。
「そういえば、そうでしたね。……でも、小喬さんたちが」
「彼女等が、何か言いましたか」
「えーっと、美周朗っていわれて、大人気だって」
(いい気になってる、とはさすがに言えないな)
「そんなことを……。下らない話ですよ。そのせいで、下らないやからが集まってくる」
「下らないだなんて」
花は眉を寄せた。彼女等の中には、本気で思いを寄せるものも居るだろう。それは花にとって歓迎すべき存在ではないが、だからといって、そんな風に切り捨てられていいとも思えない。
「下らないですよ。美醜など、一概に言えるものでもない。なのにそんな徒名が蔓延るせいで、ああしてつられて集まってくるのです」
「そんなものでしょうか……」
「そうですよ」
「公瑾さんは、格好いいと思いますけど」
思わず、というか、余り意識せずに、言葉が出た。公瑾は細い目を見開いて、こちらを見ている。
(……あ)
自分が何を口走ったかに気がついて、頬が赤くなった。しかも、今のは多分、よろしくないタイミングだ。
「あ、えっと、」
「それは、うれしいですね」
調子を取り戻すのは、公瑾の方がはやかった。柔らかく微笑んで、余裕ぶってそんなことを言う。花はまだ顔を赤くしたまま、公瑾を睨み上げる。
「わ、私は、公瑾さんが美周朗って言われてるから、そう思うわけじゃなくて」
「わかってますよ。それ以上言われると、こちらも照れます」
「照れてるように見えません……」
そんなことありませんよ、という余裕が憎らしくて、先程の二喬のようにむくれてしまう。
「そんなこと言って。……やっぱり、かっこいいって言われなれてて、みんなにでれでれしてるんじゃないですか」
「でれでれ?」
意味がわからなかったらしい。花はすこし考えて、言いなおした。
「鼻の下を伸ばしてる」
「……随分な言い草ですね」
「だって、あんなによく囲まれてるんじゃ、好きで囲まれてるように見えます」
拗ねたような声が出た。平常心、と呪文のように唱える前に、公瑾が――なんだかとても嬉しそうに、笑った。
「……なんですか」
「いえ。貴方に妬かれるのは、なかなか新鮮だなと思いまして」
「……!」
なんで文句を言っているのに、喜ばれてしまうのか。妬いてなんか、とは、言ったところで無駄な足掻きだろう。確かに――真実、花は、妬いているので。
「わかりました。今度からは、自衛手段を講じるよう計らいましょう」
「……自衛手段って、なんですか」
「わかりませんか?」
なんだか、試されているようで腹立たしい。けれどすっかりむくれた花は、ぶすくれた顔でわかりません、と言った。
「あなたが、ずっと傍にいればいいんですよ。先程も、二喬に読み書きを習っていたんでしょう? 私の補佐をしていただければ」
「……!」
手習いのことは、公瑾には言っていなかったのに。……ここで暮らす以上必須のことだし、忙しい公瑾の助けになれば、と思っていたことも事実だが――全てお見通しということか。
「そうすれば、侍女達も無駄に世話を焼きには来なくなるでしょうし――それに、貴女は最近は、二喬ばかり構っていて」
「……え」
「別に手習いは構いませんがね」
(構わなくない。全然構わなくない顔をしてますよ)
「? なんですか?」
「いえ」
さっきまでの不機嫌も忘れて、花は笑った。この男が決して自分から言わないことには、もう慣れた。
「すみません、公瑾さんを全然構ってなくて」
「……! そんなことを言っているわけでは」
「役には立たないかもしれませんが、お仕事、やらせてください」
花がにこりと笑うと、公瑾は毒気を抜かれたような顔をした。
(確かに、)
(妬かれるのは、なんだか、嬉しいなぁ)
二喬にまで妬くのはどうかと思うけれど。花は微妙に心の狭い男を、なんだか微笑ましいような気分で見つめたのだった。
(あっさり侍女を追い払えるくらいになって欲しいものです、赤い人並に)
「花ちゃん、怒っていいんだよー」
二喬は花の周りに纏わりつくようにしながら、唇を尖らせた。
視線の先には、城の宮女に囲まれた公瑾の姿がある。
「公瑾さん、大人気なんですね」
すこしずれた感想を漏らす花に、二喬は憤慨した表情のままに答えた。
「美周朗とか言われていい気になってるんだよ!」
「ねー、糸目のくせにねー」
(それは、微妙にメタ発言じゃないかな……)
「美周朗?」
「うん。美しい周家の若者、ってことだよ。徒名みたいなものかな」
花は漢字を脳内に思い浮かべて、やっと納得した。なるほど。
「公瑾さん、格好いいですからね」
素直に言うと、二喬は露骨に溜息をついた。
「花ちゃん。そこは納得したらだめなんだよ」
「うんうん。それと、絶対公瑾の前で言ったらだめだからね」
「そんな、本人の前でなんて、言えませんよ」
花は顔を赤くした。花ちゃん、ずれてるよ……処置ナシと言いたげに首を振る二人を片目に、花は窓から遠く、向こうの廊下に見える姿をちらと見やる。
(美周朗、か)
(たしかに、格好いいもんね。しょうがない)
公瑾は何時もと変わらずに微笑んで、如才なく侍女達の相手をしているように見える。
華やかで、花よりも随分大人の彼女等を見て、何も想わないわけではないが。
なんだか、それを顔に出したら負けな様な気がする。二喬が憤慨しているのを宥めながら、平常心平常心、と心の中で呟いた。
* * *
「見ていたでしょう」
「はい?」
花の部屋を訪れて早々、茶を所望した公瑾は、恨めしげな目で花を見た。
「先程の、廊下のことですよ」
こちらから見えていたということは、あちらからも見えていたということか。
「ああ、えっと、楽しそうでしたね?」
「本当にそう見えていたとしたら、医者を紹介して差し上げます」
「え」
目を瞬いた花に、公瑾は溜息をついた。
「……女人は集まるとかしましくていけません。前にも言ったような気がしましたが」
「あ、……あのとき」
あの時――まだ、花と公瑾の間に距離があったとき。侍女に囲まれて困っていた公瑾の口実にされ、琵琶の調律に付き合ったときのことか。
「そういえば、そうでしたね。……でも、小喬さんたちが」
「彼女等が、何か言いましたか」
「えーっと、美周朗っていわれて、大人気だって」
(いい気になってる、とはさすがに言えないな)
「そんなことを……。下らない話ですよ。そのせいで、下らないやからが集まってくる」
「下らないだなんて」
花は眉を寄せた。彼女等の中には、本気で思いを寄せるものも居るだろう。それは花にとって歓迎すべき存在ではないが、だからといって、そんな風に切り捨てられていいとも思えない。
「下らないですよ。美醜など、一概に言えるものでもない。なのにそんな徒名が蔓延るせいで、ああしてつられて集まってくるのです」
「そんなものでしょうか……」
「そうですよ」
「公瑾さんは、格好いいと思いますけど」
思わず、というか、余り意識せずに、言葉が出た。公瑾は細い目を見開いて、こちらを見ている。
(……あ)
自分が何を口走ったかに気がついて、頬が赤くなった。しかも、今のは多分、よろしくないタイミングだ。
「あ、えっと、」
「それは、うれしいですね」
調子を取り戻すのは、公瑾の方がはやかった。柔らかく微笑んで、余裕ぶってそんなことを言う。花はまだ顔を赤くしたまま、公瑾を睨み上げる。
「わ、私は、公瑾さんが美周朗って言われてるから、そう思うわけじゃなくて」
「わかってますよ。それ以上言われると、こちらも照れます」
「照れてるように見えません……」
そんなことありませんよ、という余裕が憎らしくて、先程の二喬のようにむくれてしまう。
「そんなこと言って。……やっぱり、かっこいいって言われなれてて、みんなにでれでれしてるんじゃないですか」
「でれでれ?」
意味がわからなかったらしい。花はすこし考えて、言いなおした。
「鼻の下を伸ばしてる」
「……随分な言い草ですね」
「だって、あんなによく囲まれてるんじゃ、好きで囲まれてるように見えます」
拗ねたような声が出た。平常心、と呪文のように唱える前に、公瑾が――なんだかとても嬉しそうに、笑った。
「……なんですか」
「いえ。貴方に妬かれるのは、なかなか新鮮だなと思いまして」
「……!」
なんで文句を言っているのに、喜ばれてしまうのか。妬いてなんか、とは、言ったところで無駄な足掻きだろう。確かに――真実、花は、妬いているので。
「わかりました。今度からは、自衛手段を講じるよう計らいましょう」
「……自衛手段って、なんですか」
「わかりませんか?」
なんだか、試されているようで腹立たしい。けれどすっかりむくれた花は、ぶすくれた顔でわかりません、と言った。
「あなたが、ずっと傍にいればいいんですよ。先程も、二喬に読み書きを習っていたんでしょう? 私の補佐をしていただければ」
「……!」
手習いのことは、公瑾には言っていなかったのに。……ここで暮らす以上必須のことだし、忙しい公瑾の助けになれば、と思っていたことも事実だが――全てお見通しということか。
「そうすれば、侍女達も無駄に世話を焼きには来なくなるでしょうし――それに、貴女は最近は、二喬ばかり構っていて」
「……え」
「別に手習いは構いませんがね」
(構わなくない。全然構わなくない顔をしてますよ)
「? なんですか?」
「いえ」
さっきまでの不機嫌も忘れて、花は笑った。この男が決して自分から言わないことには、もう慣れた。
「すみません、公瑾さんを全然構ってなくて」
「……! そんなことを言っているわけでは」
「役には立たないかもしれませんが、お仕事、やらせてください」
花がにこりと笑うと、公瑾は毒気を抜かれたような顔をした。
(確かに、)
(妬かれるのは、なんだか、嬉しいなぁ)
二喬にまで妬くのはどうかと思うけれど。花は微妙に心の狭い男を、なんだか微笑ましいような気分で見つめたのだった。
(あっさり侍女を追い払えるくらいになって欲しいものです、赤い人並に)
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