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姫金魚草

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05 「だってあなたは怒るでしょう?」

「丞相、どうしてもお聞き届けいただけませんか」
「無理して丞相なんて言わなくていいよ。……女の子を閉じ込めるのは、どうもなぁ」
ぴくり、と男の眉が動いた。この男は時折、こんな顔をする。苛立っているような、失望しているような、それを必死で見せまいとしているような表情だ。
この男は使える。けれど、この顔がどうも、ひっかかる。
「別に牢でなくても良いのです、せめてもっと奥……若しくは、丞相の後宮でも構いません。しかし、今の場所では、危険です」
「危険、ね。彼女には策知がある。奥にやるほうが危なくないかなぁ。宮の女を篭絡されて暗殺されるとか、困るし」
「御戯れを、……孔明の知は、玄徳軍にとって必要不可欠です。どんな手を使ってでも、取り返しに来ます」
「そうかな。……玄徳が、流浪の軍で終わるつもりなら、徳と義だけを抱くならば、彼女の知など不用だろう」
「……」
また、あの顔だ。
彼は少なくとも、信用できる。
彼には不思議な才知がある。それは、彼女に――孔明に感じるものと、同じ類の才知だ。孟徳の知りうる範囲を超えた何か。
「だとしても。……義を唱える玄徳が孔明を見捨てるなど、それこそありえぬ話でしょう。せめて、彼女の部屋に見張りを。できれば、窓にも夜番を置いてください」
「……」
彼は随分と、この話に固執する。彼女を捕らえてからずっと、繰り返し、この男は唱えている。殺すか、出来ぬのならば深く捕らえよ、と。
(この男の目的のためには、随分と、彼女が――諸葛孔明が邪魔らしい)
孟徳は根負けするような形で溜息をついた。
「……わかった。扉に見張りを。外に番を。それでいいんだろう」
「……」
お分かりいただけて何よりです、と、男は、ほっとしたように息をついた。彼は何か、確かめるようにこちらを見た。彼の瞳は黒々としていて――深い海のようにも、薄い紙のようにも見える。
彼は信用できるが、――とても、信頼は、できない。
そもそも誰をも信頼するつもりは無いが――孟徳は彼の、どこか冷たい瞳を見て、その思いを新たにしたのだった。


* * *


「護衛、ですか」
「うん。……君は他国の軍師だし、いくら俺のお気に入りって言っても、暴走する輩が出てこないとは限らないからね。窮屈かもしれないけど、我慢してくれないかな」
孔明は、薄く笑った。何もかも見通していると言いたげな透明な瞳が、こちらを見上げる。
ああ、彼女は――たしかに、小さな女の子などではない。
それは歳の話ではなくて、彼女は確かに、伏龍と称されし奇才なのだった。
「例の、異邦の方が?」
「……なんでそう思うのかな」
「なんとなくですけど」
彼女は、柔らかく笑った。特に反対する気配は無い。
勿論、何を言っても仕様が無いと、割り切っているのかもしれない。
「その方と、お話しすることは、可能でしょうか」
花は孟徳の前の茶器に茶を注ぎながら、そんなことを言った。
「……俺の前で他の男に会いたいだなんて、言わないでほしいなぁ」
「御戯れを」
先程、同じ言葉を言われた。彼と彼女は、何処か似ている。
(似たものを知っていると、言っていたけど)
「私も、旅が長いものですから。異邦の方とお話しするのは、好きなんです」
「なるほど」
(……それは、もしかして)
「彼は俺の臣下じゃないからなぁ。命令は出来ないよ」
「彼に、私が話したがっていたと、伝えていただければ充分です」
「……随分な自信だね?」
「ええ。彼が私の知人に似ている限り――彼は、私に興味を持つでしょうから」

(彼に似ているのは――君自身じゃあ、ないのかな)

孟徳は僅かに、目を眇めた。
彼等は何か、全て了解しているようなところがある。彼女は何か、彼を特別視しているところがある――おもしろく、ない。
「ふぅん。そんな風に言って」
「……?」
「俺の前でそんな風に言って――俺がわざと、彼と君を会わせないとは、思わないの?」
「……」
彼女は目を瞬いた。純粋に、驚いたようだった。不思議そうでもある。
それから、また、やわらかく笑った。
「そちらの自信は、残念ながら。それでなくても、丞相はそのように狭量な方ではないでしょう」
「そっちの自信も持っていいよ」
御戯れを、と。
彼女は、もう一度小さく笑った。
茶器を口に運ぶ。彼女の淹れた茶を飲むなんて、文若あたりが知ったら眉を顰めるだろう。
けれど彼女は、そんな風に俺を裏切ることはしない。
(……これは、信用か)
(それとも、信頼かな)
そんな事を思って、少し笑った。彼女が首を傾ける。
「? 何を?」
「いや、……そうだ」
ふと思いついて、彼女の瞳を覗き込んだ。これからこの唇は、ひどいことを言う。
彼女にとってか、俺にとってかはわからないけれど、ひどいことを。

「ねぇ。……玄徳の手のものが、君を迎えに来たらどうする?」

彼女は流石に、息を飲んだ。
戯れにしては過ぎた問いだ。
彼女はゆっくり一つ瞬きをしてから、目を逸らすことも、笑うこともなく、唇を、開いた。

「どうするも、……急いで逃げろと言いますね」
「え」
「この状況では、私を連れて此処を出るのは、少しばかり不可能の度合いが高い」
「……帰らないの」

「そんなことをしたら、丞相、あなたが怒るでしょう」

それはどうにも、得策とは言い難い。
真面目腐って彼女は言い、きょとんとする孟徳をからかうように唇を上げた。

(……、どういうこと、)
(彼女は、嘘を)

「……そうだね。徐州の二の舞は、嫌だもんねぇ」
動揺したのを誤魔化すように言うと、彼女は僅かに眉を寄せた。
「その言い方は、誤解されます」
「……!」
不快げな言葉。端的で――けれど彼女の言葉に宿る、それは。
「私は、知ってるんですよ」
「……なんでも?」
「私が知る限りのことは」

(……「あなたが怒るから」?)
(俺が怒って――それでも、徐州のようなことにはならないと、知っているという)
(それなのに、俺の怒りを恐れるなんて、――俺でなくても、わかる嘘だ)


(なのに――逃げないのは、)
(逃げないのは、本当だなんて)


「……君は、何を知ってるんだろうなぁ……」
「? ……彼の件、よろしくお願いしますね」
「はいはい」

伏龍の――掌の上、だろうか。
けれどどうして――だとしたらその掌は、随分、温もりが過ぎるだろう。

嘘か本当かは判っても――彼女の考えていることは、まるでさっぱり、わからない。
それでも、どうしてこんなに楽しいのか――孟徳は自分自身が、よくわからなかった。















(花孔明、本領発揮? 次回は同じシーンの花視点です)

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