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天国じゃない (孔明)

彼女の故郷のことを訊ねた。
頁は埋まり、空白は満たされた。条件が整ったことを、彼女の表情が教えてくれた。
優しい彼女は、迷っていた。情に絆される性質だと、知っていた。
此処で過ごした日々を切り捨てることが、彼女にとって容易くないことを知っていた。
だから、訊ねた。
里心がついた彼女が、できればボクの知らないところで、ひっそりと居なくなってくれればいい。
自らの手で別れを演出するのは、どうしたって泣いてしまいそうで、出来ればやりたくなかったのだ。

* * *

「私の国、ですか?」
「うん」
花はきょとんと目を開いた。瞳の大きな彼女は、目を見開くと唯でさえ幼い顔がさらに幼く見える。孔明の弟子、というには余りに可愛らしいその表情が、好きだった。
「師匠を名乗っておきながら、そういえば聞いてないと思ってね。なんでもいいんだ。……そうだな、話しづらければ、君のことを話してくれればいい」
異国の話は、参考になるものだよ。たとえ、何処とも知れぬ、遠い世界の話でも。
何を含んだ風も見せずに言うと、花は少し考え込んで、考え考え口を開いた。
「私のこと、と言っても、ごく普通の高校生でしたし」
「だからそもそも、こっちには『こうこうせい』なんて居ないでしょう」
からかう風に言うと、やっと、向こうの普通がこちらでの異常だということに気付いたらしい。それからの口は、滑らかになった。
「私の国では、六歳から私くらい……もう少し上くらいまでは、皆、働かずに学校に通うんです」
「がっこう?」
「はい。こちらでいうと、塾のようなものでしょうか」
「塾、か。でも、本当に全員が通うの?」
こちらの世界では考えられない話だ。学問は、一部のものの特権とも言える。
多くの民は、字も知らず、日々の糧を得るのに手一杯で、学を得るには身分か富か、よほどの志が必要だった。
「はい。私も、普通のうちの娘ですし」
「普通、」
普通の基準が、随分と高い。この歳よりも上まで、稼ぐことの無い人手を育てられるのが普通というのだ。
「学校では、どんなことをやるの」
「んーと、国語……えっと、詩文が近いかなぁ、あと、算術、英語……ええと、異国の言葉です、歴史、それと理科……えーと……なんていったらいいんだろう……」
「……うん、幅広くやるんだねぇ」
学問の体系もこちらとは違っているようだ。説明するのが難しそうなので、そのあたりはさらりと流しておく。
「君の父上は、何をしている人なの」
「普通のサラリーマン、……えーっと、勤め人です」
「官吏のようなもの?」
「官吏、は公務員なのかな……。国に勤めているわけじゃないんですけど」
「……奉公人?」
「……うーん?」
どうやら少し違うらしい。とかく、社会の仕組みそのものが違う。
彼女が、まるで違う常識の中にいたということを、近頃はさして意識することもなくなった。しかし、こうして話してみると、やはり彼女はどうあっても、この世界の住人ではありえなかった。
「……君の国には、戦もないんだったね」
結局、この話になってしまうのだ、と思う。戦乱の最中において、どうしても考えに上ってしまうこと。花は少し困ったように、首を傾けた。
「ない、わけではないんですけど。今は無い、というのが、正しいんじゃないでしょうか」
「昔は、あった?」
「はい。私が生まれるより、ずっと前の話です。……今も、私の国でないところでは、戦争がありますし」
戦争。
それは、戦と同じ意味なのだろうに、随分と違う響きに聞こえた。
「でも今は、平和なんでしょう」
なぜか、口の中が乾くような心地がした。
彼女からは、豊かさの香りがした。危険に晒されることも無く、日々の暮らしに困ることも無い、幸福なあたたかさの香りだ。彼女の育ってきた、優しい世界の香りだ。
彼女の世界は、どうして、どうしたって、優しくなくてはならないのだ。
(そうでなくては、)
「そうですね。……これからも、そうだといいです」
彼女が、何の気もなく答えただろう、その言葉が。
刺すように、孔明の胸を抉った。

(これからも、そうだといい?)
(それじゃまるで――そうじゃない可能性が、あるみたいじゃないか)

恐らく、驚いた顔をしていたのだろう。花は不思議そうにこちらを見て、それから、やはり、なんでもないことのように笑って言った。
「戦争が起きることなんて、無いと思いますけど。でも、先のことはわかりませんから」
先のことは。
それはそうだ。彼女は、彼女の言葉を借りるなら『普通のこうこうせい』で、そんな人間に、国の行く末など知れよう筈もない。ぱちりと目を瞬いた孔明の前で、花はただごく普通に、笑う。

「戦も争いも永劫に無い、平和な国――そんな、天国みたいな国が、あればいいですよね」

ああ、と。
打ちのめされたような気分で、思った。

(ボクは、――君の世界が)
(君の世界こそが、そんな、「てんごく」みたいな国だと、思っていたのに――)

そうではないのか、と。
問うことは、出来なかった。そうでないとしても。そうでないとしても、彼女はそこに、帰らなければならないのだ。少なくともここより、戦も争いもない筈の、平和であるはずの、彼女の世界に。
帰さなければ、ならないのだ。
師匠? と首を傾げる花になんでもない、と笑いながら、何故か酷く焦るような、どうしようもない心持になる。
彼女の帰る世界が、「てんごく」ではないというなら。
なら自分の手元において、彼女を包むように守ってやれば、――そんな風に思う自分が、余りにも勝手で、笑ってしまいそうになった。














(言葉選びに苦心する。)
(天国や楽園はキリスト教由来の言葉?)
(極楽は仏教由来? この当時仏教は、多分入って来てたけど(浮屠ってやつ?)メジャーだったのか?)

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