姫金魚草
三国恋戦記中心、三国志関連二次創作サイト
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新刊に入りきらなかった幕間
どうしようこれ
子桓と仲達の話です あ、誰だよって感じですよね ほんとすいません
子桓と仲達の話です あ、誰だよって感じですよね ほんとすいません
幕間① ~とある主従の会話
「御叱りを受けたようで」
言った男の顔がにやにやと笑っているような気がして、子桓は僅かに顔を歪めた。
「叱られたという程のことではない」
「主上直々の言葉と伺いましたが」
「……」
子桓が小さく舌を打つと、おやめなさいと仲達が笑う。師と友を兼ねた五つ年上の男は、慣れた様子でふてくされる子桓の隣に座った。
持ってきた茶器で器用に茶を淹れながら、仲達は穏やかに言った。
「ちゃんと言わねば、伝わりませんよ」
窘めるような言葉に、子桓はますます拗ねてそっぽを向く。
「何がだ。俺はきちんと、何でも言っているさ」
「……」
仲達の淹れた茶の香りが、子桓の鼻先を擽る。子桓は仲達から視線を逸らしたまま、茶器を手に取った。
「妹御はまだ幼い。子桓様は少し、わかりにくいですからね」
「何が言いたい」
「可愛らしいんでしょう」
何もかも見透かすような目で仲達は言って、子桓は答えずに一口茶を啜る。子桓が口をつけたのを見てから、仲達も自分の茶器に口をつけた。
「たしかに、花様は、真似されるには少々難しいお方だ」
「……」
「妹御は、よく似ておられますが」
仲達はそこで言葉を止めた。
子桓は茶器を置いて、目を眇める。
「うちは、変わっているだろう、仲達」
仲達がいらえずとも、子桓にはわかっていた。曹家はたしかに、ふつうの家とは違っている。それは例えば時の丞相家だからだという、わかりやすい理由に因るものだけではない。
子桓は今、仲達とともに私塾のようなところに通っている。学問を身に着けるだけなら孟徳が手配してくれた師で事足りるが、学ぶべきものはそれだけではない。見識を広める目的で出た子桓が何を見ているのか、仲達にはよくわかる気がした。
そのうえ子桓はこの性格だ。
「同じ苦労はしてほしくないと?」
曹家はそもそもが嫌われがちな宦官の家系で、曹孟徳は清濁併せ持つ、良くも悪くも時代の覇者である。その子供が向けられる視線が、平穏なものであるはずがない。
そうだな、と、子桓はちいさく応えた。
「ふつうの娘のほうが、辛くあるまい。せめて、俺にお前がいたように、節にも誰かいたらよいのかもしれないが」
「――、」
「しかしお前のようなのは稀有だろうから――なんだ、仲達。何を笑っている」
「い、いえ」
五つも下の、生意気で無駄に賢しい子供だ。嫡子の責を強く感じていて、いつも肩肘を張っていて、けれどこうして仲達にだけはひどく緩い。
「……子桓様」
「? なんだ」
「子桓様のような方を、花様の国の言葉で、ツンデレ、と申すのだそうですよ」
子桓はツンデレだからなぁ、と、笑いながら花が言っていたのを思い出す。つんつんとでれでれと、説明を受けても意味がよくわからなかったそれが、今ならよくわかる。
「……褒められていないことだけはよくわかった。表へ出ろ」
「これがツン……」
「叩き斬られたいのか仲達!」
「いえいえ」
仲達は笑う。兄弟の多い家で育った仲達だが、親交は深いとは言えなかった。弟の誰よりも、弟に向けるような情を抱いている。
本当は脆く感じやすい心を持ったこの主に、仲達は初めて会った時から、仕えると心に決めていた。そしてこうした時に、自らの決断は間違っていなかったと、心底思うことが出来るのだ。
仲達は子桓に出会えたことを、幸福だと知っていた。
「御叱りを受けたようで」
言った男の顔がにやにやと笑っているような気がして、子桓は僅かに顔を歪めた。
「叱られたという程のことではない」
「主上直々の言葉と伺いましたが」
「……」
子桓が小さく舌を打つと、おやめなさいと仲達が笑う。師と友を兼ねた五つ年上の男は、慣れた様子でふてくされる子桓の隣に座った。
持ってきた茶器で器用に茶を淹れながら、仲達は穏やかに言った。
「ちゃんと言わねば、伝わりませんよ」
窘めるような言葉に、子桓はますます拗ねてそっぽを向く。
「何がだ。俺はきちんと、何でも言っているさ」
「……」
仲達の淹れた茶の香りが、子桓の鼻先を擽る。子桓は仲達から視線を逸らしたまま、茶器を手に取った。
「妹御はまだ幼い。子桓様は少し、わかりにくいですからね」
「何が言いたい」
「可愛らしいんでしょう」
何もかも見透かすような目で仲達は言って、子桓は答えずに一口茶を啜る。子桓が口をつけたのを見てから、仲達も自分の茶器に口をつけた。
「たしかに、花様は、真似されるには少々難しいお方だ」
「……」
「妹御は、よく似ておられますが」
仲達はそこで言葉を止めた。
子桓は茶器を置いて、目を眇める。
「うちは、変わっているだろう、仲達」
仲達がいらえずとも、子桓にはわかっていた。曹家はたしかに、ふつうの家とは違っている。それは例えば時の丞相家だからだという、わかりやすい理由に因るものだけではない。
子桓は今、仲達とともに私塾のようなところに通っている。学問を身に着けるだけなら孟徳が手配してくれた師で事足りるが、学ぶべきものはそれだけではない。見識を広める目的で出た子桓が何を見ているのか、仲達にはよくわかる気がした。
そのうえ子桓はこの性格だ。
「同じ苦労はしてほしくないと?」
曹家はそもそもが嫌われがちな宦官の家系で、曹孟徳は清濁併せ持つ、良くも悪くも時代の覇者である。その子供が向けられる視線が、平穏なものであるはずがない。
そうだな、と、子桓はちいさく応えた。
「ふつうの娘のほうが、辛くあるまい。せめて、俺にお前がいたように、節にも誰かいたらよいのかもしれないが」
「――、」
「しかしお前のようなのは稀有だろうから――なんだ、仲達。何を笑っている」
「い、いえ」
五つも下の、生意気で無駄に賢しい子供だ。嫡子の責を強く感じていて、いつも肩肘を張っていて、けれどこうして仲達にだけはひどく緩い。
「……子桓様」
「? なんだ」
「子桓様のような方を、花様の国の言葉で、ツンデレ、と申すのだそうですよ」
子桓はツンデレだからなぁ、と、笑いながら花が言っていたのを思い出す。つんつんとでれでれと、説明を受けても意味がよくわからなかったそれが、今ならよくわかる。
「……褒められていないことだけはよくわかった。表へ出ろ」
「これがツン……」
「叩き斬られたいのか仲達!」
「いえいえ」
仲達は笑う。兄弟の多い家で育った仲達だが、親交は深いとは言えなかった。弟の誰よりも、弟に向けるような情を抱いている。
本当は脆く感じやすい心を持ったこの主に、仲達は初めて会った時から、仕えると心に決めていた。そしてこうした時に、自らの決断は間違っていなかったと、心底思うことが出来るのだ。
仲達は子桓に出会えたことを、幸福だと知っていた。
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